水の最高神ミヤシロサマ 前編
ドンドコドンドコドンドコドンドコドンと脳内でミヤシロ様登場テーマソングを口ずさみながら祠の中に入ると、ミヤシロ様が怪訝な顔で私を見ていた。
傍目に見れば私は無言。背後の加寿と熾窪が警戒気味のミヤシロ様に委縮する。
「貴様……謀ったのか?」
以前、脳内に語り掛けてくるシステムだったミヤシロ様だが最近は普通に発話する。以前は話かけられないから沈黙、その後、若干喋り方を忘れたのか、脳内会話をしていたようだが──、
「忘れてなどいない‼ 貴様は面妖な思考ばかり……」
ミヤシロ様が呆れてきた。やっぱり水社家の血筋なのか、水社一心の突っ込み方と似ている。
「我は坊のように複雑ではない」
そう、ミヤシロ様は水社一心を坊と呼んでいる。前からの呼び方らしいが水社一心が坊呼ばわりされることは、個人的に滅茶苦茶愉快。そして水社一心がそれを見て「ぐぬぬ」するので、楽しくて仕方ない。
「貴様はなぁ……それより、皇都からはるばる挨拶とは、ご苦労なこと……」
ミヤシロ様がかしこまった調子で加寿と熾窪に視線を向け、「デェ⁉」と奇声を発した。水社ママの奇声の発し方と似ている。何だろうと振り返れば、加寿と熾窪は二人とも膝をつき頭を下げている。
「面を上げよ‼ 発言を許可す‼ 面を上げよ‼ 発言を許可す‼」
ミヤシロ様は大慌てで繰り返す。魔法ファンタジーでバケモノが出てきて焦って呪文を繰り出すみたいだった。ミヤシロ様の言葉で二人は顔を上げ、「私めは……」といつになく真面目な表情でミヤシロ様に自己紹介を始めた。
「ああ、皇都のほうで、民を守る仕事を、な。ご苦労なことだ。ご苦労なこと……」
ミヤシロ様は二人に引いていた。神様のなのに丁重に扱われると嫌らしい。
「いやらしいって言い方は」
こんな風に細かいところがあるので、色々あるのだろう。
「貴様は分からぬだろうが、二人の信仰心が強い……我は、なんだ、皇都でどう扱われている?」
ミヤシロ様が混乱しがちにこちらに助けを求めていた。
千年桜は恋と咲くの知識だけだと、皇都は「帝」「神」が第一だ。ミヤシロ様みたいに各神社や名所にそれっぽい神様が存在していて、皆、神様全般を信仰し、逆に軍人に対して頼ってないというか、「皇都の軍人は帝を守るために存在している」「人は神様がお守りくださる」という区別をしている。ちなみに神様は皇龍清明様や物語のキーになるような霊力バリ高、異能特殊系のイケメン、もしくはお姉様しか見えない。ということでお姉様は神様に認められし存在とあがめられるが、ミヤシロ様は誰でも見れる。正月、神社のほうに出ていたけど、赤ちゃんに泣かれていた。母親以外と目が合えば泣く、顔認証タイプの赤ちゃんだったから。顔さえ認証されなければ泣かれないので、あっちむいてほい状態だった。
「え……」
熾窪がミヤシロ様の「皇都でどう扱われている?」という質問に対し長考していた。加寿も加寿でミヤシロ様に敬意があるようだが、ちゃっかり質問の矛先を熾窪になすりつけている。
「帝都に向かわれてしまわれた、水の最高神……」
熾窪が呟く。
「我が?」
ミヤシロ様が目を丸くした。「俺なんかやっちゃいました?」系主人公じゃん。
「我は……この水社の地を納めし土地神にすぎず……水を司ってはいるが、雨も川も海も神がいるだろうさぁ……?」
ミヤシロ様が戸惑い過ぎて口調が壊れた。
「神と神を比べることなど出来ません。なれど、海も川も雨も祖は水となりますでしょう。水を派生する神々の祖にはミヤシロ神がおられます。神々の力をもってしてもなお、ミヤシロ神には……」
そこで熾窪は黙った。
端的に言えば海、川、雨といった神々は束になってもミヤシロ様に勝てないということだ。
千年桜は恋と咲くにおいて、ミヤシロ様は出ないどころか水社一心共々去年全滅していたが──あっ。
ミヤシロ様を見る。完全に読まれた。
私が命を賭けて、ミヤシロ様のお坊ちゃんを殺す化け物を私諸共異能でぶっ殺そうとしたら野狐禅が助けてくれたのでその未来は全部消えました。ちなみに、命がけ戦法は関係各所よりブチギレられており、ちゃんと色々、考えています。よろしくお願いいたします。
「……」
ミヤシロ様は絶句している。
私は思考を移す。
水社家が揺らいだとして、水社一心が死ぬ前に奇跡的に三百年前のお姉様が皇龍清明様と出会っているので、最悪な話だけど世界の均衡は新たな形で保たれたのだろう。千年桜は恋と咲くに出てくる神様は基本的に弱っているか人間を困らせているか本人が困っており、それをお姉様がマジカルパワーで解決するので、ミヤシロ様の不在も神の弱りに関係していたのかもしれない。
「聞いてないぞ貴様」
ミヤシロ様が怒っていた。




