水社夫妻
「俺、今、ちゃんと首、繋がってますかね」
通用門に向かっていると唐突に加寿が言い出した。最悪ナンパライフハックで、「バカみたいなことを言って足止めする」というのを見たことがあったか、それだと思って無視していたら、熾窪がすぐに「ある」と返事をした。
「水社夫人、なんか、想像と違ってましたね」
その言葉に、先ほどの言葉がナンパライフハックではなく本気だったことに気付く。
なに。
皇都の水社夫人の立ち位置、何?
滑空飛行で移動する、皇龍清明様枠──海外ヒーロー系キャラみたいな立ち位置と思っていたけど、もっとバーサーカー寄り?
「なんか、ふしだらな‼ って殺されるかもなんて怖かったんですけど」
「そう思うなら少しはどうにかしろよ」
加寿に熾窪が呆れた。加寿は自分の素行に自覚がある。だからこそ厄介なわけだが。
「水社夫人ってずっとあんな感じなんですか? もう5年くらいの付き合いにはなりますよね? 水社家に引き取られて」
この質問は私にあてたものだ。私は振りかえり頷いた。
「へえ、聞いてた話と違うな。やっぱり結婚すると人って変わるのかな。前は違ってたらしいですよ。聞いたことありません?」
加寿は私の横に並ぶ。併走してくるなと思えど、気になる話だったので顔を向けた。
「20年くらい前の話なので、僕らは、6、4、3……歳とかそこらですけど、帝の花嫁になっても全然おかしくない人で。強大な霊力を持ってて、勝手にって言うとあれですけど、世直しみたいな。軍は手を焼いていたみたいですけど、人が助かる、あやかしが討伐さえできれば……って。面子は潰れますけど、軍人の偉い人間と結婚すれば問題ないんじゃないかって案も出るものの、我々と違って異能が無い、霊力が莫大っていう貴重な家なので強引に事も進められないし、みたいな」
まさか、こんなところで水社家について聞けるとは。
富山局長たちも知っているかもしれないけど、多分、管理局の面々は私に気を遣って、言わないを選ぶタイプだ。逆に加寿たちはそういうものが無い。ゆえにそういう話も、話す。
「そして、水社家当主と運命の出会いっていうのが、我々が聞いた話ですけど、どうです、水社夫人と当主、そんな感じします?」
加寿は私を試すように見た。
こいつはお姉様に恋をして結婚を強く意識するタイプ。それまでは、自分はいつかいい女と結婚する、程度のうすぼんやり人生計画でしか結婚を認識していない。水社一心とは反対の位置にいる男だ。まぁ、加寿はちょこちょこ「結婚出来たらいいねえ」と言いながら突然別れを切り出すタイプ、水社一心は結婚について微塵も触れず一年後に家を建て突然プロポーズするタイプなので、どちらも、問題はあるけど。
私は水社夫妻の様子を思い出す。二人は、普通に夫婦だなと思う。運命の相手イチャイチャイチャイチャはないけど、通じ合ってる感じがする。「うちはお互い干渉しない、オープンマリッジ‼」っていう雰囲気もなく……ラフな感じだ。水社ママが沢山喋って、水社パパが「あー」しか言わない時もあるけど。
表情だけ見ていれば水社パパは楽しそうだし。
水社ママが「具合悪い」って言うと、水社パパが「自分も具合悪いかも」と言い、ママは「張り合ってる?」というやり取りがたまにあるけど。
パパは「水社ママが体調不良であることによる精神ダメージによる体調不良」が発生しているっぽいし。二人はそんな感じなのだ。
歩いていれば、丁度、水社ママと体調が共鳴し合う水社パパの姿が見えた。ミヤシロ様の祠が浮かぶ大池の傍で石を拾っては、捨てたりバケツに入れている。傍目に見ればちょっと怖くなる行動だが、転んだ時に致命傷になるような尖った石だけ集めているのだ。集めた石は後で丸くして戻す。
半径3メートルほど接近したところで、水社パパはこちらに振り返った。
水社パパの能力は感情を色覚で検知することなので、他人の気配の察知能力は常人と同じだ。多分、砂利の音でこちらの接近に気付いたのだろう。
「ああ、末理ちゃん。お帰り……新しい上司さんかな」
水社一心のパパは立ち上がり「水社家当主、水社心示と申します」と目を細めた。
皇都二人はかしこまって挨拶をする。
「帝都での任務にあたり、皇都の人間として水社家にご挨拶にと」
「そんな堅苦しくしなくていいですよ。うちもほかの家も変わりませんし、帝都津々浦々の神社参りをしているわけではないでしょう」
「水社家に挨拶もなしに帝都で行動するわけにはいきませんから」
「ふふ」
水社パパは軽く受け流す。どうでもいい、というより、かなり俯瞰的に距離を取っているように見える。
「ミヤシロ様は、もういつでもご挨拶にうかがえるようになっていますので」
水社パパは祠までの橋を差す。熾窪が「自由に?」と顔を険しくした。
「はい。もう。橋はずっとおろしているんです。能力や性質、防犯の関係もありますから、誰でも通しているわけではないのですが」
水社パパの言葉に、熾窪は驚いたままだった。加寿だけが「そうなんですね」と反応するが、熾窪は祠を眺めたまま動かない。私は水社パパ加寿、熾窪の様子をうかがいつつ、祠に歩みを進めた。




