心の底から嫌いなものランキング
心の底から嫌いなものランキング、第八位。
イケメンは無罪ですよね、みたいな風潮の押し付け。
愛されてるんだからいいじゃんというヒロインへの謎批判が心の底から嫌い。
復縁ものでヒーローの挽回がある程度済んでなお許さないヒロインに対し「さっさと許せ」「しつこすぎ」とあまつさえヒロインに対してディスる人間も嫌いだが、特に嫌いなのはヒーローの不可逆的な愛し方について「こんなイケメンなら幸せかも」「イケメンだから許せます」という外見至上主義の人間の、キモ押し付けが嫌いだ。
感想や思想の自由があるが、イケメンは無罪ですよねという風潮が嫌いだという主張に対して、イケメン無罪論者の一部は「イケメンに嫉妬してるのかな」「でも結局イケメンに愛されたら嬉しいんでしょう」という謎理論を持ち込む。まずそこから離れろ以外の感情が無い。話が通じない人種。こちらの嫉妬やコンプレックスの問題に勝手に移動させて、自分が一段上の位置を取るので、キモい。「もう仕方ないわね~」のうふふ面だ想像できる。自分がイケメンを前にすると判断力がバカになると結論付ければいいだけなのに。イケメン無罪論者は本当に駄目。無罪まで主張してくるから。イケメンで許されないことをしていますで終わればいいのに何故許されようとするのだろうか。本当に死んでほしい。
暗天妖王推しのスタンスが基本それなので、嫌いだった。社会性があるのでレビューに反論しないし、そもそもレビューもしないけど。
そしてそうしたイケメン無罪論者によりどんな弊害が生まれるかといえば、イケメンではない男の自信の剥奪、そしてイケメンと呼ばれちやほやされる男の調子乗りだ。そして一部男性による、「これはイケメンだったら捕まらないんだろ」という不同意犯罪への謎発言。変な一部の女の「イケメン無罪論」を広義に拡張しようとする。イケメンは無罪と言い出す女とイケメンは無罪なんだろと言い出す男を全員ドラム式洗濯機に入れて海に流せばどんなにスッキリするだろうか。絶対に平和になると思う。そうして美しく新しい世界を作りたいところだが、加寿や暗天妖王を井戸の底にでも沈めてしまえばいいだけのこと。
「熾窪さんも異能中々出せないですけど、末理さんもそうなんですよね」
加寿が声を弾ませる。
今、私は加寿の運転のもと熾窪と後部座席に座わり、軍用車で水社家に向かっていた。
「言霊の異能、不便ですよね。喋れないなんて」
加寿が呟く。特殊部署にいる加寿は、私の異能について把握済みなのだろう。軍に入るにあたり、異能は軍に伝えなきゃいけないし……そもそも照会が入るのだ。
この国では、出産にあたり出生届を出すことが義務付けられている。
出し方は役所で貰ってそこで提出ではない。もっと怖い仕組みだ。
生まれた赤子に、札をかざす。すると札が変質し、出生届と化し、その時点で異能に目覚めていればその出生届に自動的に記載される。それに名前等を記入、役所に提出する。
その出生届への変化は役所で随時検知されており、札が変化しているのに出生届が提出されていない赤子は、誘拐を疑われ自動通報される。監視である。
一方で、出生届に記入した後、どうしても自分で育てられない場合、その届けの欄に助けを求める項目が設けられているので、そこに記入すると役人がやってきて、責任をもって保護施設で育てる仕組みになっているため、若干責めづらいシステムでもあるのだ。
その出生届には「とりあえずなにかは分からないけど何らかの異能を持ってる場合それがわかる項目」がある。「分からんけどこいつは異能に目覚めるぜ」と、教えてくれるのだ。
枯賀のカス父親は、それを見てお姉様を無能と判断し、バカみたいな扱いをした。ちなみに出生届に「異能が無いので預けます」としなかったのは世間体である。バカ。
そしてそうした出生届で収集された異能データは国で管理されていて、軍の採用や国で事件が起きたとき、該当の調査をすることになった軍人が見る。加寿は熾窪は特別な部署で、そういう照会もチャチャっと出来るのだろう。
それに私は、あやかしの世界に行ったり、酒呑童子に近い人間としてマークされているだろうし。顔がタイプという最悪な理由以外にも、記憶される理由は沢山ある。
「帝都の人間ってそのあたりどうなんですか? 皇都の人間なら、全然、帝守るためなら死ねの世界だから、異能温存して一生喋れなくても当たり前の世界ですけど。帝都って違うでしょ」
ふ、と加寿は含み笑いをしながらこちらに語り掛ける。バックミラーに視線を移せば、鏡越しに目があった。前見て運転しろよ、助手席にいたら無理やりハンドル回して田んぼにでも突っ込んでやるところだが、農家に申し訳が立たないし、ただハードボイルド気取ってるだけの熾窪を巻き込むわけにはいかない。
帝都と皇都。帝が傍にいることから、皇都のほうが軍の為に死ねという圧が強い。
経済の中心も、他の国からしても、この国の中心は帝都だが、本当に大事なものは温存するという概念が根付いている。極端な話、帝都がぐちゃぐちゃになっても皇都さえ──帝さえなんとかなれば、この国は存続できる。
帝都と名づけられた土地に帝がいない。
いないからこそ、帝の名をつけてせめてもの加護を。
帝都と皇都の力関係は、そういう歪みから出来ている。千年桜は恋と咲くを読んでいれば「ほえーむずかし」で済んでいたし、皇龍清明様のややこしさのほうが目立っていたけど、こうしてこの世界で生きていると、こういう国の均衡を嫌でも感じる。
加寿も熾窪も「国の為に死ね圧」に晒されているわけだが……田んぼに突っ込んでやりたさが勝つ。
「ってか熾窪さんが運転しなくて良かったんですか? 車好きでしょ」
「俺はこういうのじゃない」
「どういうのが好きなんですか?」
「オートバイ……外車だよ外車」
「そんなもの軍用車にないですよ。西洋かぶれの成金趣味って怒られますよ」
「だから趣味。趣味で買って、乗る」
「貯金してるんですか?」
「ああ」
「いいなー俺全然たまらないから、」
加寿は言うが、だろうな以外の感情が無い。花街で酒女酒女酒女と繰り返し、宵越しの金は持たないというスタイルで生きている。
帝都では全く見ない、人種。
警戒している間に、前方の車窓から水社家が見えてきた。




