富山局長の来歴
「どうも、初めまして、皇都退妖軍の加寿と申します」
「熾窪です」
二人は手短に挨拶を済ませる。
「ああ、どうも、管理局の富山です。よろしくお願いいたします」
富山局長が挨拶をし、真原さんが続こうとすると──、
「ああ、大丈夫ですよ。真原さんと福野さん、でしょう?」
加寿が止めた。真原さんも富山局長も戸惑う。加寿は「顔と名前は憶えてるので、そういう管轄なので」と笑みを浮かべた。
加寿と熾窪はドラマの特殊捜査班に該当する部署、抜群の推理力でもない限り忘れっぽさは許されない。なので加寿と熾窪のいる部署は皇都と帝都の局員全員の顔と名前を記憶している。
要するに「抜群の記憶力」という仕事出来る風のスペック付きなのだ。この二人は。
「はぁ……」
「たとえば真原さんは五年前に管理局に入局されていますが、その前は皇都退妖軍戦闘局に入局されていますよね、富山局長は軍に入ってからずっと戦闘局に在籍し、28歳の時に謹慎で……ほぼこれ左遷の1年後、29歳から34歳まで戦闘局在籍、35歳で娘さんが誕生、36歳に離婚、38歳の時に現戦闘局局長の相模さんと共に複数の戦闘に参加、39歳で左遷、41歳の時にまた帝都退妖軍本部に戻り、41歳から46歳までは戦闘局でご活躍、47歳の時に管理局発足とともに局長就任、真原さんと一緒に働き、その2年後、福野さんが入局……現在管理局局長として5年」
加寿はまるで富山局長の経歴を読み上げるかのように話す。
気味が悪かった。
私はよく他人の来歴について考えているが、他人からすればこんな風に見えるのだろうか。
そんな私に対して、水社一心は「巻末特典にないのか」と言い返してきたけど、あいつ頭ちょっとおかしいんじゃないのか?
そして富山局長、3回くらい左遷されてない?
「よく覚えてるねえ」
富山局長は対して反応せず、冷静に返した。普段真原さんにチクッと刺されている時のほうがよほど感情が動いているように見える。
「中々数奇な采配ですよねえ。上司を殴って帝都に入った人間と、部下庇って左遷された二人なんて」
加寿が口角を上げた。
どうやら富山局長の左遷は部下を庇ったことらしい。
しそう。
すごくしそう。後は、命令違反だろうか。以前野狐禅が屯所に現われたときにとんでもない大きさの式神を召喚したけれど、あの方向性な気がする。伊能局長のブチギレからして。
「いやあ、命令違反だよ。そういうようなものじゃない」
富山局長は首を横に振る。
当たってた。だって富山局長が左遷されるってどう考えても部下庇うか無茶苦茶するかだもん。蓋のドアの開け閉めが厳罰化されないかぎり、絶対にそっち。
「本日はどのようなご用件で」
福野さんが空気を変えるように尋ねた。
「今日は末理さんをお借り出来ないかなって」
加寿が笑いこちらに目を合わせる。
呼ぶな。
私は大きく目を見開き瞬きをやめた。「え」と真原さんが戸惑う。
「査問みたいなもの?」
富山局長が加寿に問いかけると、加寿は「そんな仰々しいものじゃないですよ」と明るい調子でこちらに歩いてい来る。
「今日、水社家にお伺いしようと思って。水社家のご令息は戦闘局出身でしょう? 戦闘局に問い合わせをしたら、今日は恒常の任務があるそうなので、末理さんにお願いできないかなって」
昨日、加寿は言っていた。
『じゃあ、明日、水社様のところ行くんですけど、一緒に行くことになると思うので、その時に』
こういうことだったのかと悟った。
おそらくだが、加寿は戦闘局に問い合わせただろうが、水社家に一緒に行きたいとは言ってない。加寿と熾窪の部署が部署なので、一緒に行きたいと言えば戦闘局は融通をきかせる。しかし、問い合わせだけして、「何か御用ですか?」という戦闘局とのやりとりを「なんでもないです~ありがとうございます……」と簡単に終わらせ、こっちに来たのだ。
そして先ほどから熾窪は低燃費通り越してずっと無言だった。何をしているのかと思いきや、私の机の上の札を見ていた。
「あの、これ、なんですか」
熾窪は不思議そうに見ている。千年桜は恋と咲くの札は、いわゆる陰陽師が使ってそうなスタンダードタイプだが、私は武術大会で郷田をとっちめるため……ではなく強い力を得るために札を改良──カードタイプにしたのだ。山札からカードを一枚引き抜いて戦う。理由は効果が弱い札でも物量で何とかする力技バトルスタイルのため。実際、鵺戦においては役に立ったし、なにより管理局に入ってから真原さんがずっと倉庫の札の圧迫を気にしていたので、倉庫パンパン問題の解消にもなっている。
「それは枯賀さんが改良した札だよ」
「なんでこんな形に……材質も違うような」
「何枚も一気に使うからね。戦闘の切り札にはなれないけど、束ねて使って、あやかしの足止めをしたり……」
「へぇ」
熾窪は興味津々だ。こいつもこいつで異能を普段使えず札をメインにしているので、他人のギミックが気になるのだろう。
「これで足止めして、トドメは、異能で?」
熾窪の質問に富山局長は軽く首を横に振る。
「枯賀さんは刀を使ってる。特殊なやつで……」
「軍支給品ではなく、よく分からない刀を使ってる話は聞いてますけど……結構、普通ですね。霊力もほとんど感じないし、意匠が、独特ですけど」
ハードボイルド気取りの熾窪が私の刀を見て明確に引いていた。皇龍清明様やミヤシロ様がこの刀について呪いそのものみたいな話をしていたけど、そういう上位存在以外はこの刀を中二病刀と認識するらしい。
「それでなんですけど、早速、枯賀さんと水社家のほうに行きたいので、とりあえず今日は、そういうことで」
胡散臭い仕切り屋営業マンみたいな口調の加寿が、するりと私と熾窪の間に割って入った。
お姉様と加寿と二人きりになる瞬間でも発生したら、危ない。何されるか分からない。私は渋々同行することにした。




