好きなタイプ
加寿が駄目な理由はいたってシンプル。
酒と女の接待が伴う店が好きだから。
酒以外でも年齢制限の伴う店が大好きだから。
暗天妖王は殿堂入りレベルというか殺人犯なので論外として、お姉様に近づけたくない男ランキングトップが加寿である。人気投票二位だけど。
少女漫画の王道「本気で好きになった相手には一途で誠実」を体現しているのが加寿である。
浮気性、何股もかける、付き合う前から関係を持つ、そもそも本命の概念がない加寿だが、お姉様にだけは本気になる。
加寿と熾窪の登場はノベル3巻。男女の恋愛小説でノベル3巻ともなれば両想いになっていてもおかしくないはずだが、この時点で皇龍清明様は「ギリギリ良く言って」不器用な溺愛をしている人、傍目に見れば困った時だけピンポイントで現れ敵を倒すバトルあしながおじさんでしかない。お姉様からは「嫌われていないけれど……お優しい人だけれど……その優しさに甘えてはいけない」と思わせる振る舞いをしているので、皇龍清明様に必要以上に近づかない。
加寿は「勝手に決めた政略結婚から皇龍清明様を解放しつつお姉様を娶る」という皇都の人間としての一面もあるので、最悪な三角関係の土台が最悪な形で出来上がってしまうのだ。
皇龍清明様はいわずもがな。
お姉様に相応しい人が現れた身を引こう、という政略結婚のヒロインのメンタルだ。
レビューでもあった。「自分より相応しい人がいると身を引くシチュエーションはヒロインがやったら感情移入できるのに、男がやると違いますね……」という、切実な指摘が。
だからか、皇龍清明様がしない、出来ないことが出来る男として加寿の株が相対的に上がったのだ。
加寿は口説く、慰める、甘やかす、支える、エスコートといった、すべてが出来る。
ただ、花街と、女接待の伴う店。
加寿はそういう男だ。ゆえに独身男性と紹介しづらい。
一方、熾窪は、シンプルだ。
ハードボイルド気取りである。
千年桜は恋と咲くは、声優のインタビューが雑誌に掲載されることもあったが、熾窪の声優は「彼も皇龍と同じで女性経験が無いタイプですけど、彼の場合はスタートとしてモテたいがある。皇龍も過去に人としての認められたさ、俺はそのタイプだったんですけど、クラスのすみで、こんな自分なんてと思いながらも、人として認められたいから好かれたいという、姑息なモテ意識があったかもしれませんけど、花宵さんと出会って、変わっていく。熾窪の場合はもっとミーハー的な、モテたいし上手くやりたい、ハードボイルドみたいになりたいという願いから、好きな人が出来たって感じの流れかなと思いながら演じましたね。根底は皇龍に近いかもしれません。熾窪は」と、女性遍歴について暴露されていた。
花街の加寿。
ハードボイルド気取りの熾窪。
もう一人が霧島先生という、ダイナミックキャラ被りである。
相模局長や皇龍清明様の系譜なのだ。
二人より言葉数も多いし、「大人」って感じのキャラ造型だが、そういうキャラは一つの作品に一人が限度の中、相模局長と皇龍清明様と霧島先生の三人が「クール枠」でおしくらまんじゅうをしている。三人の場面はなかったが、あったら区別のしようがない。霧島先生だけ敬語で話す……くらいだろうか。
思考だと、相模局長は人を見下す傲慢な口調が見られる、皇龍清明様は冷酷、人を拒絶、霧島先生の場合、それがないが心開いてもねえな、というのが分かる。
そして現在そんな霧島先生の姿が見えず、二人だけ現れたわけだが……。
私は解散になったことで、本部の廊下を歩いていた。勿論、女子寮に帰るためだ。クイズ大会中の酒呑童子は置いてきた。一回風呂にも入りたい。何気なく自分の刀を眺めながら廊下を突き進んでいれば、「あのー」と声がかかった。
「さっき、戦闘参加してた方ですよね? 枯賀さん」
私はこのまま走り去ってやろうか悩んだ後、社会性を取り戻しふりかえった。
追いかけてきたのは加寿だ。花街の加寿。熾窪が誰かを追いかけることは人命救助以外にないので、まずありえない。そして、加寿の場合は……、
「せっかくだしちょっと話していきません?」
加寿はこちらを試すように見る。
気持ち悪いな以外の感情が無い。
私は首を横に振った。加寿は「ああ、異能で言葉を封じてるんですよね、知ってます」とへらりと笑い、こちらにゆっくりと歩みを進めてくる。
加寿は女遊びが激しい男である。
そしてお姉様を本命とし、お姉様にだけ本気になり過去の女関係を全員切っていく。
女を選ぶ基準は顔。
だが、加寿はお姉様の顔は好きじゃない。読者人気により膨大に用意された加寿視点のショートストーリーでは、お姉様の顔は自分のタイプと真逆だったけど、惹かれた。不思議だ、なんて俯瞰的なモノローグがつづられていた。
そして悲しいことに、私は──枯賀末理は、お姉様と全く顔が似ていない。
お姉様のご尊顔を構成するパーツとの類似部分がない。
目と鼻と口がついている、程度。
最悪は続く。
千年桜は恋と咲くのインタビューで、加寿のタイプの顔は末理なんですかという質問に、原作者は「そうです!」と答えていた。加寿の登場は3巻、末理の退場は1巻の為、実際二人が対面することは無く、加寿が枯賀末理を一方的に見かけ、「話をしてみたいと思ってた」と無神経に話をし、お姉様を傷つける場面がある。
終わりである。
「じゃあ、明日、水社様のところ行くんですけど、一緒に行くことになると思うので、その時に」
加寿は今まで何人もの女を落としてきたであろう笑みを浮かべ、颯爽と去っていった。
後ろから飛び蹴りしたらどんなに楽しいだろうか悩んで、耐えた。




