皇都の二人組→✕ 皇都の三人組→〇
美浜の娘を取り込んだらしい猫又との対峙から、およそ一時間後。
私は帝都退妖軍の調査局の本部にいた。理由は猫又の報告である。基本的に戦闘局はあやかしと遭遇したあと、調査局に報告を行い、調査局があやかしの出現を常に警戒している警備・防妖・探査局に「こういうやつを警戒してください」と報告する仕組みだ。
以前野狐禅が軍に現われたとき、伊能局長が警報を出しながら名指しで相模局長に注意していたが、そういう流れである。
そして今回、私が酒呑童子と一緒にいたということで、戦闘局の報告に同行することになった。
言い方を変えるなら、帰るタイミングを失った。
調査局本部には刑事ドラマの取り調べ室のような部屋がいくつか設けられているが、ここはオフィスドラマの応接室のような空間だ。しかも密室ではなく衝立で区切られ、椅子に座っているのは私と伊能局長と千年桜は恋と咲くの人気投票二位四位コンビ。
「皇都退妖軍所属の加寿と申します」
加寿がソファに座りながら自己紹介をした。熾窪が「熾窪です」と、軽く続ける。
加寿の読み方は、「果樹園」の「かじゅ」だ。
熾窪は、ほぼ地名の「荻窪」の「おぎ」部分を「おき」にした発音になる。ちなみに加寿は果樹園とも果物とも関係性はないし、熾窪も荻窪の地と何一つ関係がなく、作者も出身や居住経験はないとあった。
人物の名前はボイスコミック、舞台化、アニメやドラマCD、オーディブルにならない限り分からないが、そうしたメディアミックスが行われる前から作者があとがきに読み方の一覧を書いていた。メディアミックスでは書いていた通りのイントネーションだったし、今もそう。
二人とも、関西訛りはない。
そして酒呑童子はさっきまで私の横に座っていたが──、
「へへーん! 俺はかしこい! なんでも聞け!」
ほかの調査局員の質問に意気揚々と答えていた。
最初は座っていたけれど、酒呑童子は目立つ。視線に気づき、「なんだ?」と酒呑童子が立ち上がり、調査局員の一人が勇気を振り絞りあやかしの生態に質問した結果、質問大会が始まった。
酒呑童子は質問されるのが嬉しい。
調査局は伊能局長を除き、静かだが知的好奇心旺盛な人間で揃っている。
深夜のなぜなにクイズ大会状態だ。
「丁度帝都についたと思ったら、びっくりしましたよ。人型のあやかしが現れるなんて」
あはは、と加寿が朗らかに笑う。朝の男性アナウンサーを彷彿とさせる笑みだ。
対して熾窪のほうは、疲れた様子で呆れがちにクイズ大会を眺めていた。
伊能局長は皇都の二人組、どちらも警戒している。
どんな人間か見極めようとしているのだろう。皇都と帝都の交流はあまりない。
でも私は、二人の身長、体重、利き手、血液型、好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味、特技、苦手、女性遍歴のすべてを知っている。
理由は人気投票で上位なぶん、公式から優遇され、情報開示が多かったから。
加寿は金髪と称するには抵抗があるかなり明るめの茶髪だ。髪はマッシュヘアとも言えない微妙な長さをしており、顔は童顔というほどでもないが渋さとは対極にいる。「アイドルにいそうな人」「アイドルグループに必ずいる系統の顔の人」という表現がおそらく一番正しい。アナウンサー感がある。それ以外だと、黒い服でギラギラしたテンポの早い歌のイメージがないタイプのアイドルグループ、もしくは複数名で構成された男性アイドルグループで、恋愛ドラマの主演にはならないが、ヒロインの弟や若手刑事、ホラー映画の主演に抜擢されるポジションの雰囲気がある。
そんな24歳だ。
対して熾窪は黒髪、口髭顎髭のある26歳だ。
センスある人間しか視界に入れないようなオシャレ街の美容師みたいな男だ。黒髪は人工的なパーマがあてられ、顎付近まで伸ばしてている。顔は「一重」という印象が強い。「一重キャラ最高過ぎ供給助かリンボ! ドンドコドン!」というレビューがついていたから。
そういう、26歳独身男性。
加寿と熾窪は見た目からして対照的な二人だ。
対照的な二人は古今東西バディになる。「正反対なコンビが世界を救う?」という言葉と共に救われた世界は映画シーズンと共に増え続けるが、この二人は──コンビにならない。
千年桜は恋と咲くの人気投票において二位と四位に食い込むが、普通にただ皇都のキャラとして出るだけである。真原さんと福野さんのほうがまだペア感があるくらい、なぜならペアじゃないから。
もう一人いるから。
現在この場にいない、霧島という人物がいる。
加寿、熾窪、霧島の三人でお姉様に関わる。トリオなのだ。
「とりあえず細かいことは明日にしましょうか」
熾窪が適当ではなく完全な「テキトー」さで閉じにかかる。
「元々、こっちが上から言われてるのは、本当に皇都からの荷物にあったか調べてきてほしいっていうもので。丁度その荷物に紛れ込んでいたあやかしが、今日逃げた奴、ですよね」
熾窪は鼻をスン、と鼻を鳴らしながら伊能局長に訊ねる。
「はい。報告では一致していますが……」
「上の方針としては、倒すより、皇都からの荷物かどうかで。それだけなんですよね。あやかしに関しての色々は。あやかしと協力してるとかで、ちょっと見ましたけど、全体的な視察が主なので、普通に、居れば倒しますけど、作戦に加わることは、無いので、自由にしていただければ。そっちにはそっちの、こっちはこっちの仕事で」
熾窪はドライに線を引いた。加寿は空気を和らげるように、「そういう感じで大丈夫ですかね」と伊能局長の様子をうかがう。
伊能局長は追及せず、「では明日から」と二人に合わせた。
「じゃあそういうことで……あ、でも明日、午後からでいいですか? 色々、上層と話があるので、」
熾窪が立ち上がりながら話す。
「じゃあ案内を、何時からがいいでしょうか、上層部へは」
「あー、あんまり予定って感じのは立てない方向で、霧島がどうなるか分からないので、それに井守さんに軽く挨拶しておきたいのと、午前は、水社様のほうに、ちょっと」
霧島は皇都の人間である。お姉様に惚れる。金まわりに汚くない。
井守は蝦蟇貪が入っている上層部の役員だ。お姉様に惚れない。金まわりが汚い。蝦蟇貪と異なり、皇都に縁がある役員なので挨拶が必要なのだろう。
「承知しました。それでは午後に、都合がいい段階でこちらにお越しいただければ」
「はい、じゃあ、そういうことで」
熾窪はサッサと撤退する。比較的礼儀がコストカットされている立ち振る舞いだ。対して加寿は「ありがとうございました」と最低限の愛想は保たれた状態で去っていく。
老若男女100人に、この二人の態度を見せ、自分の家の便器が詰まったらどちらに見てもらいたいかアンケートを取ったら、加寿に集中するだろう。
実際は加寿のが駄目である。




