レスキュー酒呑童子★レッツゴー……
視界の情報量が多い。
ダイナミック人さらいフォームの酒呑童子、その背後から走ってくるのは、さきほどこちらに助けを求めた女将。
「うちの子は」
「こん中じゃねえのか? お前に似てるガキは十六番目くらいに詰めたぜ」
言い方が殺人寄り。今の言葉を聞いて、「あ、今、彼は人命救助をしているんだな」と理解できる人間なんてほぼいないだろう。洋画サイコホラーの吹き替えみたいだった。
「あああああ、ありがとうございます……た、助けてくださって……な、なんと申し上げたら良いか、お礼を、どうすれば」
女将は酒呑童子の巨大ボールから子供を見つけたのか、震えていた。
「丁度いいやお前、ガキ預かり部屋にいるやつ、全員いるか」
ガキ預かり部屋を、世間では託児所と言います。心の中でツッコむ。同時にツッコミがいないと本当に危ない空気になることを理解した。私は普段あらゆる発言を水社一心に突っ込まれているけど、ツッコミが無いと周囲の空気が本当に微妙になる。
「あ、で、でもそちらに、先生が……」
女将はボールの中を指す。そこには子供たちのお世話をしていたらしい大人が二名入っていた。
「全員います! 無事です!」
ボールの中で大人二人が叫ぶ。
「じゃあ、そいつらよろしく。じゃあな」
酒呑童子は「行くぞおら、モタモタしてっと置いてくぞ」と、逃げまどう人々を霊力のボールの中に放りこんでは、まとまってくると軍に放り投げている。私は刀であやかしを斬り伏せていく。定期的に鎺から黒い手が伸び捕食して、周囲が怯えていた。
やがて、緑色の発光箇所に到着した。
私が無言で追いかけると、とうとう人だかりが途切れた。
以前、郷田が倒した──駅前に現われた花嫁姿のあやかしが、広場で舞っている。あやかしが舞うたびにオルガンの音色が響き、緑の光を放っては他のあやかしを発生させているようだった。花嫁姿のあやかしは……郷田が倒したはずだが復活した……?
花嫁姿のあやかしの頭部は、目深にかぶった綿帽子により隠されている。
「てめええええかああああああああああああああああああああああっ」
酒呑童子は金棒を握りしめ、花嫁姿のあやかしに突っ込んだ。しかし花嫁姿のあやかしは舞って、自分の纏う衣装を腹から裂くようなしぐさを見せた。中からパイプオルガンの配管が現れ、音色が大きくなる。
「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええ‼」
オルガンの音色は確かに大きいが、酒呑童子は頭を押さえている。あやかしに対して頭痛か何かの効果を発揮するのか……?
私は混乱しながらも動きを止めた酒呑童子の援護に入り、ほかの──花嫁姿のあやかしが生み出したあやかしを斬り伏せる。
自分が生み出したあやかしには効かないようにしているのか。
それとも酒呑童子特化型なのか。
この花嫁姿のあやかしは酒呑童子を倒すために生み出された、メイドイン暗天妖王なら可能性はあるが……。
花嫁姿のあやかしはオルガンの音色を響かせるだけで酒呑童子を仕留めるそぶりがない。もしかして動きを止めるだけで精一杯なのでは。でも酒呑童子が動きを止め、こうしている間にもあやかしは無尽蔵に生み出されていく。キリがない。
「でええええええええええええいド根性おおおおおおおおおおおおお‼ 俺はあああああああああああああやかし最強の酒呑童子様だああああああああああああああああああああああ‼」
酒呑童子の身体から膨大な霊力が発された。そのまま花嫁姿のあやかしに突撃するが、花嫁姿のあやかしは何か逃げようとするような、立ち向かおうとするような、曖昧な動きで反応が出遅れる。
「だあああああああああド根性!」
ギリギリのところで花嫁姿のあやかしが酒呑童子の攻撃を避けた。綿帽子が切り裂かれ現れたのは、美浜の娘の顔だった。かつて水社一心に想いを寄せ、周囲の人間を惨殺した女。
最後は女学園で生徒を人質に取り、水社一心本人に捕縛された後、投獄されたはずだが。
そんな美浜の娘の顔は、右頭部だけ、猫の──猫又のものだ。
緑は、猫又のキャラクターカラー。
「バレちゃったにゃあ……しかも、お前にバレるなんてにゃあ」
花嫁姿のあやかし……いや、猫又らしきものは口角を上げた。
「その声、猫又か、てめえ今までどこにいやがった‼」
「あやかし界にゃ。お前はあやかし界から追放されたならず鬼にゃ。分かるわけないにゃーん」
「ああ⁉ 追放だと⁉」
酒呑童子は驚く。
酒呑童子、分かってなかったんだ。
自分が出禁になったことに。
今まで「何でか知らないけど帰れない」認識だったのか。
「俺は最強だぞ⁉」
「そのうち最強じゃなくなるにゃ、教養がない奴は芸術に負けるにゃ……」
猫又は美浜の唇で笑みを浮かべた。また音色が響く。すると猫又の背後に巨大なあやかしが現れ、酒呑童子は頭を抑えるが、その瞬間──、
「加寿っ」
男の声が響いた。その名前にハッとする。
「はいっ」
続いた声に空を見上げる。
夜空に白の軍服姿の男が二人、巨大なあやかしの元に向かっていく。
黒いウェーブがかった髪の男と、明るいナチュラルブラウン髪の男だ。
加寿というのは、明るい髪のほう。知ってる。だって、千年桜は恋と咲くの登場人物だから。
そして白い軍服は、皇都退妖軍の証。
加寿と呼ばれた男は瞬間移動をするように、巨大なあやかしの前、後ろと姿を顕し巨大なあやかしを翻弄する。その間に、黒いウェーブがかった髪の男が札を取り出した。その数は十を超える。札は巨大なあやかしを中心に円を描き、巨大あやかしの動きを封じた。
「熾窪さん‼」
加寿と呼ばれた男が叫ぶ。
黒髪の男の名だ。
「分かってるよ」
男は気怠そうにしながらも指で銃を作るそぶりをして、爆炎を放った。
巨大なあやかしは炎の渦に包まれ、やがて灰になっていく。
それを背に、皇都退妖軍二人は猫又に振り向いた。
すぐに猫又は瘴気の中に身を隠し、姿をくらます。
「逃げられたみたいですねえ」
「避難中の戦闘ほど面倒くさいものないから、、いいだろ。霧島先生もいないし」
「確かに」
皇都の二人はこちらにゆっくりと近づいてくる。
この二人が……一位に暗天妖王が君臨する千年桜は恋と咲くの人気投票で、二位と四位を獲得した二人だ。
そして、お姉様に惚れる二人でもある。




