酒呑童子のお年玉
皇都の使者。
入浴を済ませた私は、女子寮の自室で今後について考えていた。
私の目標。
暗天妖王を倒す。それオンリー。
暗天妖王の目標。
お姉様が欲しい。それオンリー。
しかし、お姉様は未覚醒。
水社一心曰く、今のお姉様と原作のお姉様の御心が色々違うので、皇龍清明様に会っても覚醒に関する情動が動かなかった。いずれお姉様が覚醒したら暗天妖王は確実にお姉様を追う。
なので現在、お姉様の覚醒と共に弱まる世界の防衛システムが機能している。
防衛システムはお姉様が「自分が死んだ後、この世界に脅威をもたらすと判断した存在を自動検知し、邪気払いと浄化を行う」というものだ。
その自動検知システムに、そこら辺のあやかしや人型あやかしは引っかからない。どんなあやかしも危険だが、「後は任せます。こちらは一番危ない奴を潰します」というシステムなわけだが、そこに暗天妖王だけ引っかかる。
なので暗天妖王はこの世界から出禁だ。
ついでに酒呑童子は向こうのあやかしの世界に出禁。
暗天妖王が出禁の間に、強くならねば。
軍での仕事をこなしながら。軍にいれば皇龍清明様との接点も作りやすい。水社一心経由でお姉様や三百年前の歴史を全部言ってしまおうか悩むが、皇龍清明様単騎で暗天妖王を倒すのは無理なので、そのあたりは伏せなければいけない。しかも皇龍清明様はずっと内省しているタイプ。下手なヒントを与えれば暗天妖王に行きつきそうなので、全体的に伏せなければならない。
結局、最終目標が鵺から暗天妖王に変わっただけだ。
今後、お姉様が皇龍清明様と出会い、その交流がきっかけとなる出来事は、起きづらい。お姉様が未覚醒なのもあるし、そもそも二人が結婚していないから。同居もしてないし。
一方で、時系列的に千年桜は恋と咲く本編開始二年目に起きる、お姉様と皇龍清明様が関係ないような時系列由来の出来事や敵は、通常通り発生する可能性が高いだろう。
そういうのを、倒す。
よく分からない刀と、鵺と共に。
私は色も鎺のデザインも変わった謎刀を見る。布団の横に置いてある。インテリアにしては男児寄りだ。無血という原作通りの名前で読んだほうがいいのか微妙なところだが、普通にあやかし切ってるし、「無血か……?」と疑問が残る。「霊力すいすい丸」とか手を伸ばすと飛んできてくれるので、「手伸ばしビュンビュン丸」とかにょろにょろ黒い手が生えてくるので「にょろ刀」「にょろ正」「にょろ宗」とかそっちの名前のほうが正しそうだけど、明らかにこの鎺のデザインからして、許されない気がする。分かるもん。にょろ刀を絶対許さない鎺のデザイン。
刀を眺めてると、ドンドンドン‼ と壁が揺れた。奇襲かと刀を握れば酒呑童子だった。
「よう」
ようの威力じゃない。壁が揺れたんだがと建付けを確認しながら窓を開ける。
「狭いな‼ ぶち抜いて広くしてやろうか? 両隣お前誰もいねえじゃねえか、俺やってやるぜ」
年明け早々とんでもないリフォームの提案をされた。私は何度も首を横に振りながら靴を持って窓から出る。酒呑童子と部屋の中で話をしたくない。六畳のお部屋が開放的な20畳の天井無しフロアになりそうだから。
「年が明けたからな‼ てめえにお年玉をやりに来たんだ」
酒呑童子と共に、女子寮の屋根の上に座っていると、酒呑童子がガサガサ懐を漁り始めた。
「おら」
酒呑童子が手渡してきたのは石だ。
石はべっこうに似ている。べっこうかもしれない。透けてる部分と雲模様の茶色っぽい部分とある。今炭鉱で働いているとか
「人間は金を渡すらしいが、俺は、払ってなかった分の税金があるからな、金と同じくらい大事なやつにした」
酒呑童子はいまだに納税に励んでいるらしい。戦いやお姉様に関して以外、飽き性というか興味が長く続かない印象だったけど、そういう継続性もちゃんと持っているようだ。
私は酒呑童子から石を受け取りながら、感謝の為の会釈を行う。
「へへん、これもいるか? 強くなるぜ」
酒呑童子が懐から持ち手のない紙袋を取り出した。サイズは小学生のノートくらい。そこに手を突っ込み、こちらに差し出す。
石かと思いきやおかきだった。
酒呑童子はバリバリとおかきをむさぼりながら、こちらに分けてくれようとする。一瞬、おかきっぽい石かと疑うも、見てる感じ、食品のおかきだった。「今食べてるのはおかきか? 石か?」と二択が出てくる男、酒呑童子。
「これはなぁ、正月? 餅が余ったっつって、くれたやつなんだ。俺がいっつも固いもん食ってるからって」
どうやら酒呑童子は近隣住民の正月餅消費問題を解消していたらしい。「お前も見習えよ」と笑うが、何を「見習え」なのか分からない。餅をおかきにして酒呑童子に渡す優しさなのか、固いものをよく噛め、みたいな教育のほうなのか。
酒呑童子の場合、どちらでも該当しそうなのでややこしい。
「餅は、もちもちしてるのに、こうやって、固くなれるんだぜ。お前も、こうなれ」
想像の二百倍とんでもない「見習え」だった。
おかきになれだった。あやかしの次はおかきになれって。
「油で揚げてやる。大体のことは、見て出来るんだぜ。俺はかしこいからな」
かしこい奴は人間を油で揚げたら死ということが分かっている。
私は自分をおかきにするジェスチャーを行い、死んだふりをした。
「バカだな」
酒呑童子が呆れた。
お前が言うな選手権結構上位に入る。
「あやかしにしてから油で揚げるんだよ。人間は死んじまうだろ。雑魚だからな」
怖いよーあやかしも多分油で揚げたら死ぬよー。酒呑童子は「死んだら稽古出来ないだろ」と、お説教テンションで話すけど、サイコパステストの回答より怖い言動になっていた。
あやかしだって油で揚げたら死ぬじゃん。しかもよそのバトルグルメものやファンタジーグルメものでも、一旦何かの種族を別の種族にしてから油で揚げる行程なんかないって。
誰か酒呑童子に納税だけじゃなく、生き物の死に方全般について教えてほしい。動物博士はどこかにいないか。戸惑っていると、酒呑童子はスンスン鼻を動かした。
「血生臭せえな」
酒呑童子がキョロキョロ見渡し、視線を一点集中させる。
帝都の一画、夜空がぼんやりと蛍光緑に照らされている。緑の明滅を見つめる酒呑童子は「あやかしだなぁ」と呟く。軍人として、出動だ。




