過去とペア
「ただ、結婚して、あんまりこう派手なことしなくなったっていうか……こう、おさまった……って言うと、良くないけど……こう、おさまったとしか言いようがない」
富山局長は悩みながら話をしている。
これあれかもしれない。「女遊びしまくりの貴族が結婚して一途に~」の文脈か、「災いを起こしていた神様が怒りを鎮めた」の文脈の二択だ。
「まぁ、結局皇都の視察は、軍の中で行われます。枯賀二等兵に対して、上層部ほどではないと思いますが、念のためそれをお伝えしておきたいと思って。上層部との歓談はある程度予定も読めますが、皇都はそうではない。突然来ることもあり得ます。今日は……帝に関する行事があるので、無いと思いますが」
伊能局長は真原さんを見た。真原さんは「向こうはなあ、市民ぐらいまでいけば帝都と大差ないけどなあ」とお茶を飲む。
皇都の人間。
千年桜は恋と咲くで登場していた。男性で、皇龍清明様のライバルポジション。カバーにも登場するし、口絵にも出ていた。コラボカフェ、アクリルスタンドや缶バッジが当たるタイプのくじで、お姉様、皇龍清明様、男性誰かしら三人というラインナップの時、良く選ばれるキャラだ。そういうコラボ、くじの第一弾では、その三枠に水社一心が入っていた。「人選に関わってる奴、原作読んでないんじゃない? なんでこんなクソモラハラ」「顔が好きなファン向けなんじゃない?」と、中々のコメントもされていた。そして残り二枠は、水社一心が登場していた時期ではサラッとしか出てない相模局長と伊能局長で埋まることが多かった。
そして第二段以降、絶対出るようになったキャラがいる。
皇都の面々だ。理由は顔。デザイン。それに尽きる。既定の空き三枠のうち、二枠は皇都のキャラで埋まり、残り一枠を、酒呑童子や猫又が担う。とはいえ、交互に出るのではなく酒呑童子が1回出れば猫又は5回起用されるなど、登場格差は色濃かった。
そして暗天妖王のビジュアルが出てからはエンドレス暗天妖王だった。
「上層の時みたいに枯賀単独で査問なる時間は、予定としてあるんですか」
福野さんが訊ねる。
「いえ……現状聞いてないですね」
「やっぱり……多分ですけど、一人で来いはないでしょうねえ。あっちは、来い、の一択でしょうから。枯賀んこと査問かけたいなら、来い言うて、呼び出すでしょうから」
真原さんは深く息を吐いた。そして私に目を向ける。
「上層の時は、何も出来ひんかったけど、なるべく不安ないようにって思っとるし、向こう、俺らが枯賀にどう思ってるかとか、色々言うかもしれへんけど、そういうの全部、そういう作戦やから、それだけ先、言っとくわ」
どうやら真原さん……いや、管理局の面々は、上層部の査問の一件で思う所があったらしい。
助けてくれようと……している?
伊能局長は黙ったまま管理局の面々を順に見た後、こちらに顔を向ける。
「皇龍様との縁談もあった相手なので、ある程度の抑止にはなると思います。だからこそ敵視される場合もあるかもしれませんが、皇都の大多数は、皇龍様を畏怖しているので」
皇龍清明様を畏怖。
千年桜は恋と咲くの人物あるある、皇龍清明様を怖がる。基本、皇龍清明様は怖がられている。強すぎるし気難しいからだ。内面は自責大運動会なのに。水社一心は心が読めるが、心象を映画みたいに投影できる能力者がいたら、皇龍清明様はどうなるかわからない。そういうお人である。
「ただ今回は……皇龍様はどういう動きをされるかは、わかりません。それに、今ちょっと、皇龍様、立て込んでて……」
伊能局長の言葉に、「変なあやかしが出た?」と富山局長が訊ねる。
「内々にですが、酒呑童子と組んでもらって、二人……二人……一人と一体で、新局を創設する話になってて」
え?
バディ?
無理では?
性格が合うように思えない。いや、性格が正反対のふたりがペアを組むのがバディ物の王道だけど、あのペアは無理では?
混乱していると富山局長は「あー」と、のんびり返した。真原さんが「あーやないでしょ、なに、何考えてそないなっとるんです? 無理あるでしょ、喧嘩でもなったら、屯所の建物何個か潰れてまうでしょ」と真っ当な反応を示す。
「あやかしの参加は前例がないですからね、今後のことを考えて、お目付け役といいますか……酒呑童子は現在友好的で、問題視もし辛いですが、こちらに牙をむいたとき、誰も敵わない。皇龍様だけでしょう。酒呑童子の考えを理解して、いざ敵になった時、被害を抑えて討伐する……というのも、理由に入ってるので」
酒呑童子の考えや気質を私は千年桜は恋と咲くで大体知っているが、軍からすれば「あやかし」なわけで。そういう意味でお目付け役は必要なのだろう。そして、酒呑童子の強さ的に、その候補は限られてくる……。
「まぁ大丈夫なんじゃない? 伊能くんと相模くんとか、福野くんと真原くんみたいに、最初上手くいかなくても、大喧嘩しても、なんとかなることって多いし」
「えぇ」
真原さんが戸惑う。
伊能局長と相模局長、福野さんと真原さんでそれぞれ最初、上手くいかず、喧嘩してたってこと?
「僕と相模さんは喧嘩というより、一方的に、相模さんに僕が喧嘩をふっかけられていたというか……」
伊能局長は分の悪さを感じているのか、弱々しく反論した。
「お互い、こう、イガイガ印象だったけどね」
「いや……富山さんには迷惑かけましたけど……本当に申し訳ないと思ってるので、当時の僕については……本当に」
伊能局長がどんどんションボリしていく。真原さんは黙ったが、福野さんが「何したんですか」と伊能局長に突っ込んだ。
「……ぎ、偽善者とか、悪者になりたくないだけとか、自己満足とか、僕なんて放っておけとか、どうせさっさと消えろと思ってるくせに嘘つくのやめろとか……」
伊能局長がどんどん小さくなる。普段自分が調査局で真実を明かそうとするからか、正直でありたいのかもしれない。伊能局長の自白に、真原さんは「おぉ~」と最大限配慮した相槌をうつ。
「若いからね、若いから。誰にでもそういう時はあるよ」
富山局長がフォローする。
「若くても、ちゃんとしてる人間はいますよ。本当にあの頃の僕が、駄目だっただけです」
しかし伊能局長はすぐに否定した。
伊能局長の過去の発言があっても、富山局長と伊能局長はこうして友好的な関係を築いている。
富山局長の心の広さもあるのだろうが……伊能局長がこうして過去の失敗について向き合っているから、というのも大きいのかもしれない。
最初は否定的に見ていた人間がそうじゃなくなる。
一瞬、水社一心の顔が浮かんだ。




