水社家の立ち位置
「お前、罰当たりで殺されるで」
真原さんが福野さんにすかさず注意した。
「なんか違うんですか」
「違うも何も帝守ってんねや、こっちよりあやかしも強い言われて、色々ちゃうねん」
「じゃあ真原さんも違うんですか」
「僕はこう、クビになったからあれやけど」
真原さんは元皇都退妖軍出身だし、皇都出身だ。皇都は西にあり、物語のモチーフにも関西の要素が含まれる。
「でも上司殴ったんだから命令違反ですよね。能力がないからじゃなくて」
「せやな」
「帝都に帝来てたら、帝守りますよね」
「当たり前やろ。命はってでも守らんと、帝殺されてそばでのうのうと生きてたら処刑されんで」
「じゃあ別に皇都の人間もこっちと同じじゃないですか。真原さんだし。訛ってるだけみたいな」
福野さんは皇都を「訛ってるだけ」と簡単に区分した。
千年桜は恋と咲くで、お姉様と皇龍清明様、そして皇都のキャラクターでノベル1冊、コミックでは約4冊で到達する結論を、六文字で終えてしまった。
「帝都と皇都は、価値観や色々が、違う所もあるので」
伊能局長はどこか考え込んだ様子で話す。
実際、結構根深い問題なのだ。皇都と帝都のあれこれは。帝も関わってくるし。
「それに、皇都の人間は、皇龍様に近い気質ですから」
伊能局長が付け足し、私は複雑な気持ちになった。
皇龍清明様、誤解されている。
皇都の人間は霊力異能至上主義だが、皇龍清明様は大きく異なる。ただ皇龍清明様の態度が絶望的なまでに強者ムーヴなので、そう見えるのだろう。必要最低限しか喋らないのはコミュ障だから、言葉がきついのは、家で死ぬほどキツイことを言われ続けて理論武装の癖がついているから、群れないのは集団でいると疲れるからだが、誰もそれを知らない。それに千年桜は恋と咲くのお姉様だって、物語冒頭、「結婚が不本意なのでは」「私なんかと結婚させられて」と皇龍清明様の態度に悩んでいた。皇龍清明様のサイドストーリーでは、お姉様と全く同じことを皇龍清明様が考えていたことが明かされるし、皇龍清明様は自ら命を絶ちお姉様に全財産相続させることを思いつき、その後お姉様が財産目当てで皇龍清明様を殺した毒婦と罵られたら困ると却下するなど、七転八倒していた。お姉様のモノローグは基本、静かに包丁を研ぐような自責だが、皇龍清明様の場合、暗いし飛躍するしで、この心を発言から正確に読み取るのはどんな人間でも無理だろと常々思っていた。
「水社家の夫人が、すごいって言ってませんでしたっけ」
福野さんが聞く。富山局長は「あー」と声を伸ばした。
「過剰防衛ってあるでしょう。絶妙にさ、言い方悪いけどそこまでして、何か起きたときが危ないかもしれない……」
富山局長が顔を強張らせた。
何?
水社夫人の、ポジション、何?
水社家の大きさは、分かる。
千年桜は恋と咲くにおいて、一応一巻で皇龍清明様のライバルポジに収まっただけある。原作ではミヤシロ様の描写が無く、おそらく夫妻が亡くなり水社一心が若当主を務めていたのである程度は弱体化されていただろうが、今は夫妻が現役、ミヤシロ様がフルパワーで生きているので多分……権力は原作より最大化されているだろう。
ただ、ずっと気がかりなことがある。
『まぁ多分水社に保護されとんのやったら向こうも大きく出られへんいうか……魔除けに水社夫人横置いとくんが一番ええんやろうけど、下手したら国割られるからな』
以前男子寮に向かった時に真原さんのこの発言。
そして、私とお姉様が水社家に引き取られる話が、びっくりするくらいスムーズにいった原因。
この世界の現実は酷である。虐待があったからといって、簡単に人を自らの家に招き入れることは出来ない。だからこそ、千年桜は恋と咲く本編では、水社一心は枯賀家で虐げられていたお姉様を助けることが出来なかった。父親に理由を話しても助けてもらえないという諦めも少しあったかもしれないし、何より、該当時期は水社夫人は亡くなっている。水社一心も水社一心で追い詰められていた。だからモラハラしていいはずがないが、お姉様を引き取る話を進めることは出来なかった。
しかし今回、私が一族を皆殺しにしようとしていたことで、水社一心の父親に助けを求めるブレーキが壊れたとして。
本来、一時保護は出来たとしても、枯賀家を西に事実上の放逐、半没落させるなんて無理なはずだ。なので、水社家当主がそこまでやったか、周囲が水社家に気を利かせたことになる。水社家の当主こと水社一心パパは当然として、霊力供給で眠りについていた……水社夫人こと、水社ママも……。




