↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
174/217

約束

 上層部のゴチャゴチャが終わり、見合いも済んで日常が戻ってきた。


 そして私は、管理局でいつも通り仕事を始めようとしたが──


「いっつも僕は、裏切られて、報われへんで、なんで、なんでしょうねぇ」


 真原さんが額をかきながら富山局長を詰めていた。


「師走で、大掃除する言うて、修理もねえ、道具、足りひんもん書くくらいはねえ、お願いできませんか言うて、局長、分かった言うてましたよねえ……ねえ」


「うん、忙しくてちょっとねえ」


「どうでもええってことですか。ねえ。忙しいて、みんな忙しいんですわ。蓋閉めろ言うて閉めんで戻して、これも戻してください言うたもん全部戻らんで、ねぇ、いっつも裏切られる。僕ばっかり」


「真原さんもう蓋閉めなきゃいいんじゃないですか」


 真原さんの憤りに、福野さんが呟く。


「そしたら誰が蓋閉めるん。枯賀しかおらんなるで」


「満場一致でふたを閉めないという、新しい生活様式」


「お前次そんなふざけたこと言うたらほんまに放り出すからなそこら辺」


「普通に、蓋ない奴買ったらいいんじゃないですか」


「んなもんないねん。軟膏も何もかも全部蓋あんねん。僕知ってるんよ。局長もお前も、食堂の蓋は閉めとんねん。人選んどんのや、終わっとるやろ。こん中では蓋閉められへんのに、場所変われば出来るて」


 真原さんの主張は最もだった。


 富山局長は8割、福野さんは6割の確率で何かの蓋を閉めないが、食堂の調味料の蓋は徹底している。管理局内だけだ。「なんかこれ半開きだな」と思うものが見つかるのは。


「真原くんはこう、几帳面だからね」


「几帳面やないんですよ。局長が出来なさすぎる。蓋については向上心がない。娘さんも怒るでしょう」


「娘はまぁ……言わない日はないかもね」


「ほらぁ‼ そういうんがあれですよ、後々積もり積もってドッカン行きますからね」


「まぁ……ねぇ……」


「掃除ですよもうほら、今のうちにサッシのとことかこまいところやっとけば後々楽ですからね」


「サッシって……うち窓ないから」


「ドアにだってサッシあるんですわぁ! 知らへんのはぁ、そこら辺はァ、ずっと僕だったからァ」


 真原さんの檄が飛ぶ。その後、真原さんは一度虚空を見つめた後、笑みを浮かべこちらに振り返った。


「今年はなぁ、枯賀もおるし。二人で頑張っていこうなぁ、僕去年一人やったんよ。大掃除。知らんおじさんと、暗いのが、掃除の時間にうろついてただけで」


 おじさんは富山局長、暗いのは多分福野さんのことだろう。普段ここまで酷い言い方はしないのに、よほど恨みがあるらしい。


「暗いって、真原さんも暗いじゃないですか」


 福野さんが絶妙に突っ込んじゃ駄目そうなポイントを突っ込む。


「僕は暗ないわ。太陽の子や」


 そうは思えない。真原さんはコミュニケーションを取ろうとしてくれるし、声も明るいけど、休日声をかけたら本人のダメージになるのではという迷いが生まれる暗さはある。


「真原さん太陽じゃないでしょ」


 福野さんがツボに入ったらしく含み笑いを始めた。富山局長は「そうだねえ……まぁねえ」と福野さんの言葉を暗に肯定していた。


「僕は管理局の中で誰よりも明るい」


「まぁ局長よりは」


 福野さんがさりげなく富山局長を刺した。珍しい。


「いやぁ、僕はまぁ、地味というかね。相模くんみたいな見栄えはないねえ」


「いや純粋に性格は暗いほうじゃないですか」


 福野さんが富山局長の着地点を思い切りずらした。


「そもそも、明るい人間はここは入れない気もしますけどね」


 福野さんは一人で笑っている。


「それに真原さんと、富山さんは、明るい人間と合わないでしょ、ハハ」


 福野さんはさらに一人でつけたし、一人で笑いのツボにはまっている。


「お前の今の感じを、明るい人間は、怖がる」


 真原さんは福野さんに冷静に指摘した。しかしノータイムで「なぜ」と福野さんが純度100%の疑問の表情を浮かべ、真原さんはとうとうこちらを見た。


「枯賀はな、喋らんとか関係なくやで。嫌な明るさ無いのは、水社少尉の話で、分かるからな」


 前まではわりと三人で軽く言い合いをして完結していたけど、最近こうして矛先が飛んでくることが増えた。


 巻き込み事故とも言えるし、本格的に参加してる、ともいえる。


「でも良かったね。真原くん。新しく入ってきたのが枯賀さんで」


「何で僕に振るんですか」


「だって体調に来そうでしょ。こう……枯賀さんが暗いっていうわけじゃないけどねぇ、こうなんて言えばいいんだろう……ねぇ、女の子って感じがしない……は問題ある言葉だったね。女の子らしいらしくないみたいな話題は、良くない。ごめん」


 富山局長がすぐ訂正した。局長がちょっと前世の現代っぽい価値観なのは、女の子の親だからだろうか? 私のこの考えもある意味、偏見じみてる。女の子の親でとんでもない女の子らしさこだわりマンはいっぱいいるだろうし。


 それにその逆もある。「女の子らしさなんて悪!」「守ってもらうヒロインなんて」とお姉様を叩いていたコメント欄。女の子らしさを強要するアホと大して変わらねえだろと常々思っていた。


「真原くんは、純粋な子も真面目な子もひたむきな子も駄目でしょう? その逆はもっと駄目だろうけど……」


「富山局長は、僕が顔だけで女選ぶような男や思うとるって解釈で問題ないです?」


「いやいやいや、そういう意味じゃないよ。なんていうか真原くん、こだわり強いっていうか」


「こだわり」


「ごめんごめんごめんごめん」


 富山局長は詫びるけど、分かる気がする。真原さんが大丈夫そうな女性は、多分、ものすごーく範囲が狭いというか、一瞬の何かで振り落とされそうな雰囲気がある。


「誠実な、子、真面目すぎず、一本芯が通ってるけど、正しすぎないみたいな」


 富山局長は付け足す。


「ややこしい女や。局長とか福野のが合いそう」


「だからこう、そういう気質がある、枯賀さんっていう」


「枯賀、局長に悪口言われとるで。ややこしい女やて。訴えよ。僕証人になったるから。全然もう、色々言うで。蓋閉めんで枯賀にさせとることも、通信機の紙詰まりさりげなく枯賀にさせとることもちゃんと言ったるから。任しとき」


 真原さんが訴訟を推奨してくる。福野さんは「ややこしくはあるじゃないですか」と、若干小馬鹿にするみたいにぼそっと笑った。


「福野もやな。枯賀。俺は福野にとやかく言われてもある程度我慢せなあかんけど、お前にとっては先輩やから、こいつもいけるで。訴えよ。二人訴えな。二人減ると仕事止まるけど、この二人最初から大掃除に関しては数に入らへんねん。裏切りもんやから」


 富山局長は真原さんの言葉に焦り、福野さんは訴訟をちらつかせても相変わらずの調子で笑っている。


 帰ってきたなぁ、と思う。


 入ってきたころは、離れ小島にいたし、ずっと長居するつもりなんて無かったけど。


 帰ってきたなぁ、と、思った。




 大掃除が終わり、年末年始になった。


 そして──、


「泥棒でもそんなならないぞ」


 水社一心が呆れたようにつぶやく。


 年末年始の帰省シーズン、管理局は特に何事もなく休みに入り、水社一心も少尉様という身の上なので、優先して休みを得られることになった。


 つまり、水社家に帰ることになった。


 なので、帰省土産を買うんだが、中々の大荷物である。夏場は機能していた配送がごった返し、面倒なので全部持ち帰りにした結果地獄を見ている。全部の指がちぎれそう。


「貸せ」


 いやだ。


「俺が荷物持たせてるように見えるんだよ」


 他人にどう見られるかなんて気にするな!


「お前は少しは気にしろ、なんでお前、変な標語みたいな言い方して」


 水社一心は強引に私の抱える帰省土産をひったくってくる。ひったくりだ。ひったくり一心だ。


「侮辱罪で訴えるぞ」


 ありがとうございます。お手数をおかけします。


「その温度差はなんなんだよ。ったく」


 水社一心は呆れる。


「それに、あんまり大荷物で紙袋すれて服が駄目になったら困るだろ。お姉様から貰ったやつなんだろそれ」


 そう。私が今着ているのはお姉様から貰ったワンピースとコートだ。ぽかぽかである。お姉様のぬくもりも心なしか感じる。匂いは洗剤だ。洗わず着る予定だったけど、一週間前水社一心にやめろと言われて洗った。それでも実質、お姉様に包まれていると言っても過言ではない。


「過言でしかない」


 水社一心は全部否定してくる。それにさっき標語みたいな言い方といっていたが、こいつの読心能力は言い方も何も分からないはずだ。


「お前の感じは分かるんだよ」


 怖い。こういうやりとりを繰り返し過ぎて水社一心が私に対して特化型状態になっているということか。怖い。変なこと考えられない。


「お前の考える変なことは大体最悪だから怖がってろ」


 怖いよお!


 開き直りだあ!


 心を読むのは卑怯みたいな水社一心はどこ行ったんだ。開き直ってるよお!


「その卑怯とか言ってたやつは言葉とかが悪かったんだろ。探すな」


 ひえー!


 何?


 こいつ原作の自分にも文句言うの?


「原作の自分ってなんだよ……っていうかお前……」


 水社一心は言いかけて黙った。やめろ。私はお前の心が読めない。大丈夫じゃないのに大丈夫とか言われても絶対見抜けないぞ。


「原作のどうこう言ってたけど、物語の世界の俺はどうだったんだよ」


 説明したじゃん。クソモラハラだよ。ミスター低レビュー。


「そうじゃなくて、こう、物語の人物として、こう、気に入ってたとか……」


 ガッツリ嫌いでしたけど。


「そうかよ……ハァ……」


 水社一心は大きくため息を吐いた。不機嫌ハラスメントだ。フキハラされてる。なんで不機嫌になってんの。


「別に。まぁ、物語の世界の俺が好きでも、俺はそうはなれないからな。そのほうが楽だ。変な期待とかされなくて」


 水社一心の足がだんだん速くなってきた。なんじゃこいつ。


「……好きなのは、いたのか。ほかに。お姉様が好きなのは知ってるけど」


 いない。


「え」


 お姉様、オンリー。


「あいつは、酒呑童子は」


 いるなって感じだった。別に今と同じ。普通の、人というか。人じゃなくて鬼だけど。


「へーえ」


 水社一心は変な相槌のうち方をする。


「皇龍様はどう思ってたんだ」


 ドヘタレ。


「お前不敬だぞ本当に」


 水社一心が目を見開いた。じゃあ聞くなよ。


「気になったんだよ」


 気になったとしても文句は言うなよ。


「……」


 水社一心は察して彼女みたいな目で睨んでくる。睨み返しながら歩いていれば、やがて水社家が見えてきた。お姉様とミヤシロ様、そして水社夫妻におじいがいる。


 帰ってきた。


 お姉様がこちらにかけてくる。私は手を振った。


 もう帰ってこないと思っていた、水社家。


 でも、私は帰れた。


 色んな人のおかげで。


 私は、ちゃんと帰ってきた。




第十章完結となります。

これまで読んでいただき、ありがとうございました。

皇龍清明、やっと出せました。大変お待たせいたしました。50万字を過ぎての登場です……。


感想のお返事を再開したいと思います。いつもありがとうございます。めちゃめちゃ嬉しいです。

誤字報告もいつも助かっております。お手数をおかけします。


裏話としては、基本的にもう書籍化やコミカライズは考えずに、人物が人物らしくいられるお声がけがあればで進めていた結果の50万字越えでしたね……。2月から初めて、10万字完結の予定が、なんでか……という。なので、こんな感じでの進行ですが、こうして読んでくださり本当にうれしいです。


引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あの、すみません、良ければ質問なのですが、末理ちゃん達や管理局の皆さんたちの本人が考える結婚相手の理想のイメージと実際に彼らに合うタイプをお聞きしたいです!!気が向かれましたら!一心くんと末理ちゃんは…
短編がめちゃくちゃ好きだったからこんなに大ボリュームのお話で読めるのとっても嬉しいです ここ最近の楽しみになってます! この先の展開も楽しみにお待ちしてます!
短編から始まった物語がここまで続いてくれてすごく嬉しいです!! ようやく皇龍晴明様来ましたけど、ここからどうお姉様に惚れてもらうんでしょう…^^; 皇龍様本人は自分じゃない人にお姉様を幸せにして欲しい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。