レイトショー・後編
それは、私が水社家の跡継ぎをどうにもできない可能性も、含めて……、
「お前に、詳しく話す気はない。変に今、話をして、誤解されたくない。ただ、お前が俺はここまで考えてるはずないって思ってる部分は、全部考えてるよ。何もかも支えて俺に任せろなんて無責任なことは言わない。ただ、お前の考える俺の想定と違う。なんの覚悟もなしに、言ってるわけじゃない」
水社一心は自らの腹を割り開くように、苦しみながら語った後、「そもそもミヤシロ様には、お前の霊力が混ざってるからな」と付け足した。
「水社家の血だけが、重要じゃない。それに血だけこだわっていても、無理が生じる。血が近いもの同士とか、望まない相手に、とか……口にしたくない残酷なことをする、理由になりかねない。そういう理由もある」
水社一心は、たぶん、私を納得させようとしている。合理的な理由なしに、たぶん私は、受け入れられないから。その寄る辺がない限り、私は逃げるから。
「だから俺は、それを踏まえての言葉だし、お前が、ないがしろにされてるみたいな扱いを受けるのは、悲しいよ。それが、相手にとって、そういうつもりじゃなくてもな」
そういうつもりじゃない。
蝦蟇貪のことだろう。蝦蟇貪は積極的に嫌がらせして傷つけたいというより、本人の中で事実だから、というイメージなのだろう。私はそれが正しいとは思えないけど。
でも蝦蟇貪、何でこの時代に生きてるくせにそんなに女の身体の知識なんかあるんだろう。
不思議なくらいだ。男尊女卑ベースで女は三歩後ろを歩けの時代なのに。
私と同じで、実は転生してるとか?
水社一心を見ると、「いや、お前みたいに謎の単語はないし、千年桜は恋と咲くとか言ってないぞ」と付け足す。転生判断が謎の単語とタイトルかよ。精度、ザルでは?
「ザルとはなんだ」
水社一心は不服そうだ。
「そもそもお前は、おかしい」
よく言われる。
「普通の人間のおかしいと俺の思うおかしさは違う」
何その違いの分かる男アピール。
心の中で付け足すと水社一心はため息を吐いた。
「皇龍様の反応見ただろ。普通はああなんだよ。心が読まれたら。お前みたいに心が読める前提で持ち掛けてこないんだよ色々」
皇龍様はあれじゃん。お姉様への情念がバレたら困るからでしょ。ただでさえ、三百年の時を越えた出会いだし。
「お前の心読んでると千年桜は恋と咲くが云々話され過ぎて会ってるのか会ってないのか分からなくなるんだよ。感動の再会っていうより、やっとかっていうか……」
そんなこと言われてもな……。
「それに、覚醒のこととかもあったし」
水社一心の声には不安が帯びていた。
そこだ。
お姉様、どう考えても覚醒してないのだ。
酒呑童子の反応からして、確定である。
あと覚醒の見分け方としては、力を得るたびに左胸に桜の紋が浮かび、発光するという少しえっちな設定もあるが、酒呑童子の反応からして確実に未覚醒だ。
なんでだろう。
「お前が、色々、物語を変えてるからだろ。経験が違えば、心境も変わる」
転生ものファンタジーあるある。物語を変えて本来嫌われている相手から好かれて物語の出来事が起きない。
「それ」
水社一心が相槌をうつ。転生ものファンタジーが通じる男、水社一心。
「バカみたいなこと言うな」
ごめんなさい。
「で、覚醒って……あれか? お前の考えてる話の中では、目が合えばだろ?」
はい。
「なら、おそらくだが……一目ぼれみたいなところがあったんじゃないか? 三百年前の記憶が、魂に残っていて」
じゃあなんで今は未覚醒。
「それどころじゃないからだろ」
水社一心は即答した。
「原作? のお前のお姉様は、枯賀家で随分な目にあっていたんだろ。そこで、色々考えている間に、もしかしたら断片的に三百年前の魂の記憶に重なるようなことが積み重なって、覚醒の土台が出来上がっていた。嫌な話だが、侮辱や虐待が、覚醒の手助けには、なってるんだろ。物語の世界ならばな。それは、物語の作法としては、よく練られている。苦難を得た果てに幸せがある。本当は苦難なんかないほうがいいが、そういう物語に、希望を抱いていきたいという面がある。浄瑠璃でも何でも」
確かに。
「それを、お前が、ある意味壊した。物語の中なら正しいが、現実で虐げられないと幸せになれないのはおかしいから、それはいいと思う。でも、家に火をつけようとしたり、ミヤシロ様の……無茶苦茶があったからな。自分のこと考えてる暇なんてなかったわけだ」
水社一心は思い出し怒りを起こしている気がする。
喧嘩して、過去のことまで引っ張るタイプだ。結婚の時に絶対怠いタイプだろコイツ。
「だから、おそらくだが物語の中での、お前のお姉様の自責の時間は、ほぼお前に向いてるだろ。それに、一目ぼれも含んだ保護欲求も、お前が色々破天荒なことし過ぎて、感覚を壊した可能性もある」
お姉様を侮辱するな。お姉様は壊れてなんかない。
「言い方を変える。問題が起きてはいるだろ、お前、よく考えてみろ。お前3年起きなかったんだからな。お前の考える物語のお姉様も、お前が今、一緒にいるお姉様も、そこではい一目ぼれにはならない」
ぐうの音も出ない。
「それに……感覚は変わってると思うぞ、その……お前の考える、原作のお姉様と」
まぁそれは、相手、生きてる人間だし。
今のお姉様には、水社家がいる。
それになんか、経営者だし。
「それだけじゃなくだがな……こう、情ね……」
情熱?
「……いや、何でもない」
水社一心は途中でやめた。千年桜は恋と咲くで200回以上してたことをするな。
「なんだそれ」
お姉様に好きって言おうとしてやめてた。
「……」
水社一心は唐突に不機嫌になった。面倒くさい彼女あるあるみたいなことをするなと、心の中でつついた。




