新・変な刀
ミヤシロ様の時もこんな感じだった気がする。三年経ってたら嫌だなと思いながら目を開けると、普通に皇龍清明様や水社一心たちがいた。
「出来たな‼」
酒呑童子が笑う。
酒呑童子は三年経っててもこういうリアクションしそうなのが怖い。お姉様はホッとした顔をした。これで分かる。あんまり時間経ってない。お姉様の表情で分かる。私がお姉様に内緒で1時間くらい水社家の邸宅の中でいなくなり、心配をかけたときより柔らかめだ。多分30分もかかってない。それに水社一心の機嫌の悪さもそんな感じだし。水社一心の場合は、遠い昔、私が押し入れで昼寝していただけのことを行方不明事件に発展させ大騒ぎした時と似てる。軍に入る前の記憶だ。くっそうるさかった。
「どうやったんだ」
水社一心が睨む。
鵺と握手!
「は?」
とにかく無事だ。多分大丈夫。ただ、刀そのものは分からない。姿も見えないし。結局刀は何なのか分からなかった。
「……酒呑童子」
水社一心が酒呑童子をよぶ。
「なんだ」
「この刀って、なんなんだ? 皇龍様は呪いそのものって言ってたが……」
水社一心は皇龍清明様をちらりと見る。
皇龍清明様はお姉様の身を案じていた。まぁ、突然刀から黒い靄が出たり、傍に酒呑童子がいるので警戒は緩められないのだろう。
「……呪い? 呪い? 術はかけられてねえけど、お前はそう見えるのか?」
酒呑童子が皇龍清明様に問う。
「いや……術ではないが……恨みなどの塊ではあるだろう」
「気持ちみてえなのは籠ってる感じはあるけどよ」
「貴様は、この刀の来歴が分かるか……?」
皇龍清明様が慎重に問う。多分お姉様の為に聞いているのだろう。
「ううう~ん……おお? 結構、昔じゃねえか?」
「……三百年より、確実に前であろう。そして、おそらくだが、三百年前から……百……二百年の近さはないとみている」
「お? あ? どういう意味だ?」
皇龍清明様が慎重すぎて酒呑童子の中で足し算が複雑化した。
「あの……五百年以上は前、という……」
お姉様がおそるおそる口を開いた。「おお‼ そっか‼ お前かしこいな‼」と酒呑童子がお姉様に笑いかけた。「いえ」とお姉様は謙遜する。そして皇龍清明様は沈んだ。
酒呑童子は簡単に人を褒める。
皇龍清明様は出来ない。
相手がどんなにすばらしくとも、自分が褒めるなんて、そんな立場じゃないという自責が勝り、お姉様を肯定することが出来ない。三百年前、皇龍清明様はお姉様を言葉で肯定すること、承認することが悉く出来なかった。
そのあたりの場面がコミカライズの連載で取り上げられた時、コメントは3単語で密集した。
女々しい。
ドヘタレ。
情けない。
三連続読み上げると声に出して愉快なことになってしまう一方、溺愛ジャンルのヒーローとしては中々に難義である。そして当人もそんな自分を自覚しているので、より一層自分なんかの世界に入り込むし、今こうして自分に出来ない肯定が出来る酒呑童子を見て、しっかり落ち込む。
お姉様がフォローしてくれた事実も、どこへやらだ。
「五百年以上前かあ……そんな気もするなぁ。俺がいねえ頃だから、分かんねえけどよお。五百年以上生きてる奴なんか知らねえしなあ」
「我だ」
それまで黙っていたミヤシロ様が呟く。
「我は、五百をゆうに超え、この世にある。その刀……らしきものは、おそらく同等の時、世にある」
つまり、ほぼほぼ、村という制度が発生したような、前世で言えば平安より前くらいの時代からこの刀っぽい謎の概念は存在していた……ということ?
心の中の疑問に、ミヤシロ様は静かに頷いた。
「我は、神である。しかしそれは、神ではない。神と同格の力も持たないだろう。しかし、永年在った。世を見ている。人で例えるならば……難しいが、異能や霊力を持つ者が神とすれば、それは持たざるものだ」
ミヤシロ様は刀を差した。手足が短いのでちょこん、となっている。
心の中で呟けばミヤシロ様はこちらをギッとにらんだ。水社一心と仕草が一緒。
「霊力や異能がなくとも、軍に入り戦うような人間がいる。経験や知識で並ぶ。そういう、測り方ひとつで無とも全能とも判断出来てしまうゆえに測れない、そういう、なにかだ。その原動力が……恨みだ。その刀の根幹にあるのは憎悪や怨恨だが、発露は救済に向いている」
つまり恨みの力を使って、人間を助ける、あやかしを討伐するほうに向いている、ということ。
「ゆえに、その刀は呪われているが、どうとも言えない刀でもある……貴様が持つ限り」
ミヤシロ様は私を見た。
ダル刀じゃん。
ダル刀に、鵺が同居という最悪仕様だ。
まぁいいや。半年以上使ってるし。今更、新しい刀をどうこうするのも面倒だし。
「お前、変な奴だから、刀も変ってことだよ‼ わはは‼ 変な奴同士お似合いだ‼」
酒呑童子はゲラゲラ笑っている。楽しくない。
「まぁお前にもしものことがあれば、俺が師匠としてちゃんと何とかしてやる」
酒呑童子がバシバシ肩を叩いてくる。力加減を学んだらしい。背骨が折れる恐怖は感じない。
一方で、水社一心は背骨を折ってきそうな目で私を見ていた。
途端に水社一心の持つ通信端末が鳴り響いた。
『応援要請! 応援要請! 帝都中央駅にてあやかし出現‼ あやかし出現‼ 近隣局員は直ちに急行せよ』
もしかしてだが……酒呑童子の異空間は、外部からの情報を遮断する?
通信もそうだし……あやかしの気配も……。
皇龍清明様も眉間にしわが寄っている。多分そうだ。
私はお姉様の肩に触れると、皇龍清明様に寄せた。ここが一番安全。
「皇龍様! 彼女を頼みますと……この者が!」
水社一心は私に話題を振った。どうもありがとう。
お姉様へ、とりあえずよく分かんねえ刀で戦ってきます。
「務めを果たし、必ずや、お姉様の元に戻ると!」
水社一心が翻訳してきた。変な演出が入ってる。
「へへへへ戦いだあああああああああああああ‼」
そして酒呑童子が飛び出し、私たちはその後を追った。




