失敗作
今日、私は蝦蟇貪と一緒に皇龍清明様と見合いして、皇龍清明様とお姉様が出会い、よく分からないあやかしを倒して水社家に来ている。
一日の予定にしては多すぎる。一か月のうちに分割すべきイベントが一日で起きてる。
勘弁してくれと思えど目の前の酒呑童子には通じない。
ということで私は酒呑童子作、今まで酒呑童子の分身にズタズタにされた異空間に再び招かれていた。前は二人きりだったけど、今回は──ミヤシロ様、水社一心、皇龍清明様とお姉様も同伴だ。
「二人きり」
水社一心が低い声で呟く。恨みをじっくりコトコト煮込んだ暗い声を出すな。
「じゃあ、出せ‼ 刀の中身‼」
酒呑童子は無茶苦茶を言う。出せたらそんなに楽なことは無いが──心当たりはある。
皇龍清明様だ。この刀を破壊しようとしたとき、黒い水が滴っていた。あれが中身なのではないだろうか。
私は無言で皇龍清明様に刀を渡した。水社一心が「壊してほしいそうです‼」と付け足す。
皇龍清明様は無言で刀に霊力を込めていくが、相変わらず刀は皇龍清明様の手から水のように滴り、こちらに戻ってきた。
中身は出ているのだろうか。これが中身では。
「出ておらぬ。分からん」
ミヤシロ様が否定した。この水はなんだろう。これが中身ではないということは……排水?
「バカやろう‼ 人任せにしてどうすんだ‼」
酒呑童子が喝を入れてきた。ドマゾの排水機能アリの刀、手に負えない。
「出ろって根性で訴えろ」
出た根性論。季節は冬なのに酒呑童子のまわりだけ亜熱帯。私は刀に向かって出てこいと念じてみるが……、
「そんな腹壊したみたいな顔してんじゃねえ‼ 真剣にやれ‼」
酒呑童子が怒る。真剣にしてる。お腹壊した顔はしてない。
「いけえええええええええええ‼」
しかし酒呑童子は声を荒げる。出し方なんて分かるか。やけになった私は思い切り刀を膝で叩き折った。すると……ぶわりと黒い瘴気が噴き出て、私を一気に飲み込んだ。
気が付くと、私は真っ暗な闇の中にいた。
勘弁してくれ。
真っ暗な空間で切実に思う。
確実に刀から出てきた黒い瘴気に飲まれている。一方で、うっすら外の様子も分かる。透けて見えるから。どうやら酒呑童子の異空間の中に黒っぽいドームが出来ていて、そこに私が入っているようだ。多分物理法則を無視している。透けて見える景色と闇の中の広さが一致しない。そして狼狽えるお姉様が無理やり黒い中に突入しようとして皇龍清明様が止めていた。
「あの子を助けにいかなければ‼」
「駄目だ、これからはあいつと刀の真剣勝負だ」
酒呑童子が首を横に振っている。
なに?
私はこれから刀と戦うの?
「どういうことだ」
皇龍清明様が訊ねる。
「刀が勝手にあいつの身体を支配して、それも相手選んでるなら、あいつに任せられないって思ってるってことだろ。一緒に戦ってやってるって意識があるってことだ‼ 戦ってやってるじゃねえんだよ。一緒に戦うんだろってあいつが伝えれば済むだろ‼ 誰でも彼でも相手選んでねえならまだしも、あいつの中で決めた相手の時に、あいつ支配してんだから。ならあいつが、やめさせる。対話だ‼」
酒呑童子はバトルジャンキーなのに話せば分かり合える組合にも加入しているらしい。
拳も言葉も変わらないということだろうか。
そして水社一心はといえば私をジッと睨むように見ていた。
心、読めてる?
「……あいつの心、微かに聞こえます。あいつ、無事です」
水社一心がこちらを射貫くように見ている。怖すぎるだろ。あっちから多分私の姿なんか見えてないのに。あいつだけピンポイントで特定してくるの怖すぎる。目合ってるもん。
まぁいいや。
よく分かんない刀と戦って、勝ってくるわ。
水社一心は返事をしない。
聞こえてるだろう目つきではあるので、私はそのまま真っ暗な空間を突き進んだ。
闇の中を突き進む。
山の中なら断崖絶壁も分からないので恐ろしいが、刀から漏れ出た黒い空間なので、大丈夫だろう。そう思って歩いていれば、蝋燭が並ぶ不気味な道が現れた。
揺らめく蝋燭の炎がぼんやりと辺りを照らす。
『何の価値もないな』
最悪音声が響いた。暗天妖王の声だ。気付けば映画館のように、暗闇に映像が照射されている。
暗天妖王がこちらをのぞきこむようなアングルだ。
『お前なんかいらない』
『また失敗作だ』
『どうしてそんなことも出来ない』
具合悪くなりそう。
身体に悪い。こんなもの聞かされてたら病気になる。そう考えて、ハッとした。
これ多分、鵺視点だ。
鵺として合体させられる前の、あやかしたちの映像だ。
暗天妖王に──捨てられる前の。
『期待外れだった』
『もっとどうにかならなかったのか』
『はぁ』
注がれる、失望の記憶。
『また失敗だ』
こんなこと聞かされながら、合体させられ続けたのか。
しばらく進むと、獣のうめき声が聞こえた。一体二体ではない、何百ものうめき声だ。声はどんどん大きくなる。やがて──巨大なヘドロの塊が現れた。
ヘドロからは、うめき声が響く。ホラーのクリーチャーかよと思えど、不思議と嫌悪は感じない。可哀そうという同情が先立つ。ヘドロからは無数の黒い手が伸び、もがく様にこちらに伸びてくるが、避けなかった。
握手した。
言葉を使わないから。
焼く気になれないし。
水社一心や人間を襲わなきゃ、いい。
それに、刀は相変わらず分からないけれど、この地獄のレイトショーから察するに、役に立ちたい、役に立たなきゃだめだと思っての支配なのだろう。支配なのがすごく困るけど。一応、私に手を貸そうとはしていたのだ。
役に立たとうとしなくていい。
頑張りたいなら、一緒に戦ってほしい。
尽くさなくていい。
そのままでいいよ。
心の中で念じる。
そのままありのままなんて、才能がある人間の専売特許だ。私がありのままなんて許されないし、それに、ありのまま愛されるキャラ、というのは確かに存在していてそういう人間のありのままで、そのままでは、ある意味、一生懸命自分を捨ててまで愛されようと必死になってる人間を踏みにじっているとしか思えない。素が綺麗でひたむきな人間は羨ましいよ、くたばれ、それに限る。
みんなのありのままを肯定なんて言えない。
私が言えるのはひとつ。
みんな駄目だから。
お前も駄目なやつのままでいいよ。
そういう気持ちでヘドロの手を握り返す。一斉にヘドロから手が伸び、こちらに向かってきた。まずいことを言ったかもしれない。危機を悟った瞬間、ぱあっと視界に閃光が走った。




