すんごく脅威の酒呑童子VSすんごくドマゾの刀
「分からん」
ミヤシロ様の社に向かってすぐ、ミヤシロ様に事情を話すと1秒で結論が出た。
「え……」
お姉様が悲痛そうな声を上げた。悲しい。お姉様そんな声出さないで。笑って。
っていうかミヤシロ様前まで脳内に直接語り掛けてくる対話形式だったのになんで今、喋ってんの? 今日普通に喋ってる。
「まぁ、信仰がかなり、手厚くなってな」
ミヤシロ様の背には数多くの色紙とハンコ用の朱肉があった。多分だけど、商品なんだろうな。多分お姉様が何かしてる。
「こやつの刀……刀と称するのもはばかられるが……閉じてる」
「閉じてる?」
水社一心が眉間にしわを寄せた。
「こう、暗い箱の中に……閉じこもるというか。役目を感じた瞬間にだけ、開いて出てくる……ような気配がする。そうでないときは閉じて、ただ様子を見ているのであろう。有事に備え」
ミヤシロ様は苦悩を滲ませ話している。
気持ち悪い刀がさらに気持ち悪くなってきた。相棒とは気安く言えない湿り気だ。ピンチの時に助けてくれると言えば聞こえはいいが、普段ずっと部屋に閉じこもっているのにこっちがゲーム始めた瞬間部屋から出てきてゲームのコントローラー奪ってくるって中々許されない。しかもゲームしてない時は見てるわけで。
「なら、出てきたときならば、この刀の真意を探ることはできるのですか?」
水社一心がミヤシロ様に訊ねる。
「まぁ、出て来たらな。しかしあやかしがいなければ出ないのであろう? 呼び寄せるのは無理だろう……それに危険だ」
「いや……一体、います」
「え」
「酒呑童子というあやかしならば」
水社一心がとんでもないことを言い出した。
水社一心のとんでも発言から約40分。
「俺忙しいんだぞー強いからーすんごい忙しいんだぞー」
酒呑童子がやってきた。しかも漁師の格好をしている。
「すまない……えっと、なにをしてたんだ?」
屯所に連絡をして酒呑童子を呼びだした張本人の水社一心も戸惑っている。酒呑童子猟師フォームに。
「お前ら、海老を知っているか」
酒呑童子猟師フォームが聞いてくる。私は頷く。
「正月に備えて海老を取らなきゃいけないのに、カサゴっつう奴が増えちまったらしくてよ。今年は色々あって港も荒れたって言っててな。で、俺は目がいいから、カサゴだけ捕まえてんだ」
「どうやって」
「そりゃもう根性しかねえだろ。周りの奴らはチマチマ釣ってたり網使ってるけどよ」
多分、素手なんだろうな。酒呑童子。
皇龍清明様は、反応してない。お姉様を見ていた。お姉様の傍にあやかしがいてほしくないのだろう。
「そうか、忙しいところ悪かった」
水社一心はすぐに謝る。酒呑童子の扱いに慣れてる。
「おう、で、用事ってなんだ?」
「実は、こいつの刀が、あやかしが相手じゃないと、心を開かないというか、なんというか……」
水社一心はちらりと私を見る。
「変な刀だなぁ、前から思ってたけどよお」
酒呑童子は私の刀に触れる。
「で、どうですか、ミヤシロ様」
水社一心はミヤシロ様に訊ねる。
「……開いておらぬ」
「なんで⁉ 俺あやかしだぞ⁉ すごく強いんだぞ⁉ さては怖くて出られなくなっちゃったんだな?」
違うだろうな。
酒呑童子の態度と、微動だにしない刀により状況を瞬時に悟る。
「おそらく、脅威ではないからだ」
ミヤシロ様がおそらく正解を述べた。
「脅威だぞ俺。すごく‼ 強い!」
「貴様の強さも霊力も、申し分ないものだ。そこまでの強さを持つあやかしを、我は今まで見たことがない。しかし、枯賀の娘の脅威になってない」
「ほぁあ」
酒呑童子が相槌かも疑わしいような声を上げた。
「感性が、ガキなんだなぁ。こんくらいの、港にいるガキたちも俺のこと鬼のお兄ちゃんとか言ってヘラヘラしてるから」
どうやら酒呑童子は港の子供たちに馴染んでいるらしい。「こんくらいの」と背丈のジェスチャーをしているが、多分3歳とか5歳あたりだろう。
保育鬼じゃん。
「ガキは、まだ、物が分かってねえんだよな。バカとか以前によ。俺は、豊かな経験を積んでるからよ。物が分かるけどな。仕方がねえ。この刀もまぁ、ガキ、ガキ刀ってことだ」
酒呑童子は勝手に納得している。豊かな経験のところが海老の漁師、熊退治、蜂退治、軍に入るなど中々否定できない。保育鬼だし。
「そして、姉妹揃って霊力もねえってか。こっちはぶっ壊してるけど、お前はお前で、何もねえで。大変だな。お姉ちゃんは大変って聞くぜ。港のガキが言ってた」
酒呑童子はお姉様をまじまじと見た。
お姉様……覚醒してない?
「せっかく皇龍がいるから戦いてえけどさあ、正月までに海老を沢山とらねえと、雑魚が……背骨が曲がると訳分かんねえこと言っててよお……海老が取れねえくれえでなんだと思うが雑魚はそれくらい弱いってことだからよ……納税もあるしよお……くそお……」
酒呑童子はしおれている。
多分だけど、長寿の為の縁起物の海老を正月用に調達する必要があり、酒呑童子は海老猟のバイト中なのだろう。
バイト鬼。
千年桜は恋と咲くであれだけ「都合なんか関係ねえ‼ 戦うのは俺とだろ‼」をしていた酒呑童子が納税義務により抑えられている。
「あやかしならば、あやかしを呼べるのではないか」
それまで黙っていた皇龍清明様が呟く。酒呑童子は「出なくなっちまった」と不貞腐れた様子で返した。
「出なくなった?」
水社一心が首をかしげる。
「俺様の根性が……届かねえ。戦おうと思ったら、呼べなくなっちまった。だから大変なんだよ。いつもなら適当に出てきた奴と稽古してたのによ」
酒呑童子があやかしを使役できなくなったことに、思い当たるフシがある。
暗天妖王だ。
酒呑童子はガッツリ裏切者と認識されただろうから、多分あやかし界では爪弾き者に降格している。
「実は、コイツの刀、変なあやかし吸って、おかしくなって……鵺って奴を、吸ったら、こいつの身体勝手に動かすようになって」
「鵺ってなんだよ」
水社一心の説明に酒呑童子は眉間にしわを寄せた。
「あの、あやかしの世界に行ったときに、居た、手足や身体が、色々違う……」
「こいつが切ったやつか、ぐるぐるぐるって」
酒呑童子が螺旋階段のようなジェスチャーをした。どうやら鵺そのものは知らなかったらしい。まぁ暗天妖王は失敗を嫌う。酒呑童子には見せたくなかったのだろう。
「あれを切ってから、刀がおかしくなったみたいで」
「そんなもん根性でなんとかできるだろ‼」
酒呑童子が私の背中をバーンと叩く。無理です。
「ここで、話し合え‼」
酒呑童子は自分の胸をドンドン叩いた。無理です。
しかもこの対あやかしに対して制御効かない刀かと思いきや私の敵対判定で制御効かなくなる刀勘弁してほしい。キモ執着。私がこいつに何をしたっていうんだ。膝で折るしかしてないのに。
ドマゾの刀。
心の中で刀を謗れば、酒呑童子が朗らかに笑った。
「任せろ、師匠として俺が特訓してやる‼」




