刀、折られる
「捨てろ」
ん?
主語がない。
皇龍清明様は刀に自分の霊力を込め始める。壊そうとしている。私の武器が死んじゃう。慌てる私を水社一心が取り押さえてきた。
「お前そんなこと言ってる場合か⁉ 皇龍様はお前を心配してるんだぞ‼ その刀は呪いそのものだって!」
水社一心が叫ぶ。
呪いそのものって何⁉
「……?」
皇龍清明様が水社一心に視線を向ける。
「貴様、なぜ私の心を」
皇龍清明様が水社一心に心を読まれて動揺した。
「申し遅れました、皇龍様、私は水社一心、水社家の血を引いています。大変恐れ入りますが、異能は常時発動し、制限は不可能です」
水社一心がいつになくかしこまった口調で話す。
「いや……」
皇龍清明様は動揺しっぱなしだ。
千年桜は恋と咲くで、皇龍清明様と水社一心の関わりは、水社一心がお姉様にモラハラし、その現場に皇龍清明様が居合わせるということで発生する。ようするに水社一心も皇龍清明様も冷静ではなく、互いの心中について探り合いがほぼない。
ただ、今は違う。
水社一心は今現在、皇龍清明様の心を正確に読んでいるし、皇龍清明様は多分、初めて心を読まれている。
「貴様、私の心をなぜ、霊力で阻んでいるはずだ。何故突破できる……いや、突破しようとしてすらない……?」
皇龍清明様は水社一心をジッと観察するように眺めるが、その手からドロドロと黒い水が滴り始めた。刀は瘴気に姿を変え、私の腰に流れてきて、刀に姿を変え戻ってくる。
どうしよう。ややこしい。
皇龍清明様は水社一心の読心能力でパニックになってるし呪いの刀は戻ってくる。しかも皇龍清明様が刀を壊そうとしてたけど、刀は再生している。千年桜は恋と咲くではちゃんと壊れたのに。あれはお姉様を傷つけられた怒りで攻撃力が強化された可能性もあるけど、多分お姉様と再会して皇龍清明様の心臓はバックバクだろうし、脈拍を測れば相当なものになるだろう。
ならこの刀、やっぱり怖い刀なのでは。
対あやかし相手だとこっちを支配してくるし。
ややこしい。しかもさっきのあやかしだって絶対お姉様覚醒案件だったはずなのにお姉様が覚醒したであろう時間帯とは全然無関係の荷物に紛れ込んできた謎あやかしだし。
皇龍清明様は犯行現場見られた犯人みたいな目つきで水社一心を見ているし。
水社一心は戸惑いながらも私を監視するような目で見る。
周囲はあやかしの被害で凄惨な状況になっている。ひとまず事態収拾をしたほうがいい。水社一心は「後で説明を」と告げ、私たちは事態収拾にあたった。
現場の整理が終わった後、屯所への報告役を買って出た郷田だけ屯所に戻り、私たちは水社家で話をすることにした。水社パパとママは不在らしい。千年桜は恋と咲くで悉く「俺は孤独だった」という水社一心により透明化されたスケルトン爺はいる。
「私の異能により、ご不快な思いをさせてしまったこと、お詫び申し上げます。皇龍様、その刀のことなのですが、あやかしに反応し、この者の身体を乗っ取るような動きをして」
客間で水社一心が詫びた。
お姉様、皇龍清明様、私、水社一心という四人のフォーメーションだ。千年桜は恋と咲くでは、言い争いが発生していたが真ん中に鎮座するのはよく分からない曰くつきの刀である。
「動きを乗っ取る……あやかしに反応して?」
皇龍清明様は私を見た。私は頷く。
「この刀は、一体何なのでしょうか」
水社一心が問う。
「……さきに、かの者に告げたが……」
皇龍清明様はお姉様を見る。
刀の説明をお姉様にしたらしい。お姉様が心配してしまう。もしかして皇龍清明様が飛んできたのは、お姉様が心配し──刀を折りに来たのでは。
「末理さんがその刀に呪われているなら、私が、代わりに呪いを受け──」
お姉様がとんでもないことを言い出し手を伸ばす。私は皇龍清明様の持つ呪いの刀を奪い、お姉様が触らないように私が刀の上にうつぶせになりのしかかった。
和室で突然うつぶせになる謎の人間になっているが、この刀は千年桜は恋と咲くでお姉様を傷つけた。お姉様は危ない刀を持ってはだめ。お姉様はもっとこう、手毬とか額縁のフレームだけどか、プロモーションビデオでアイドルが持ってそうなものだけ持っててほしい。あと水鉄砲。
そしてお姉様の態度から、確定した。
皇龍清明様がここに来たのは、皇龍清明様が呪いの刀の話をして、お姉様が私を心配したという流れだ。それしかないもん。皇龍清明様の万物に対するアクションの動機。お姉様。単一。
「この刀、元々、ただ霊力吸うだけだったんです。しかし、あやかしの……複合体を吸収してから、おかしくなって」
水社一心が私のお腹から刀を引っこ抜いてきた。私は仕方なく起き上がり座りなおす。
水社一心の説明は、意図的に暗天妖王については排除しているようだった。まぁ、暗天妖王なんて言っても、相手は分からないだろう。いや、どこまで分かってるんだ?
水社一心はどこまで知っていて……どこまで想像で補っている?
「あやかしの複合体?」
「はい、不完全なあやかしが、集められたようなものです。何十年と渡り合体を繰り返してきたようなもの」
「ならば元は違う?」
「はい」
皇龍清明様は私の刀を睨む。
「この刀の怨嗟は、三百年よりは確実に、前だ。怨嗟そのものは、私にも分からないくらい、前のものだ。刀の中にあやかしがいたとしても、あやかしがこの刀の主となっているとは、思えない」
「そ、それはいったい」
水社一心はさらに追及する。皇龍清明様はしばし目を閉じ苦悩した後、「もう読んでいい」と、冷たく言い放った。
「説明が難儀だ。刀のことなら読んでいい。これは刀ではないが」
読心許可が下りた。皇龍清明様のほうでもお姉様に気を遣いながら私たちに上手く説明するのが大変になってしまったのだろう。傍目に見れば説明の放棄だが、いっぱい荷物もってた小さい子が「もう持てないもん!」と全部落とす精神性に近い。
「えっと……この刀は、そもそも、呪いや恨み辛み、他者への攻撃性が、刀になっている……」
水社一心が皇龍清明様の様子をうかがう。
「ああ」
「そして、刀があやかしを吸ったのであっても、今のこの刀が主としている、この刀を占めているのは、元の怨嗟」
「ああ」
「突然刀が人間を支配するようになったとしても、あやかしが勝手に動いているわけではなく、この刀の怨嗟があやかしの力を借りているか、もしくは、あやかしを喰らって支配するようになったか」
「ああ」
これ質問を繰り返すと当ててくれるネットサイトのやつじゃん。
「だとすると……ミヤシロ様に聞くしかないか……ミヤシロ様なら、物の記憶を辿れる」
水社一心は思案しているが、大丈夫なのだろうか。皇龍清明様が現れる前からの怨嗟の声の塊なんて最悪では。
「怨嗟も普通の人間の声も変わらない。特にミヤシロ様は量が量だ。それに、お前の力にはなりたいと思う」
水社一心はこちらを見る。
霊力の負い目だろうなとは、心が読めずとも察せる。




