話せるようになったら
昼食を終えた私は、訓練のため素振りしていた。
何となく刀が重い気がして、鞘から取り出してみると刃が黒ずんでいる。思えば暗天妖王の大寝殿でこれをバラそうか考え、結局やめたままだった。私は管理局に戻り、刀をバラす道具を漁る。まだほかの三人は帰ってきてない。道具を見つけ、解体していく。案外簡単にバラバラに出来た。謎の岩に突き刺さっていた時より楽。
刀には、持ち手──普段見えないところに銘と呼ばれる、簡単に言えばお名前が記されている。刀を作った人の名前だ。本来なら打った、だけど。
この刀には、名前が記されていなかった。
いわゆる無銘。
ペンネームどころか匿名刀だ。匿名のいわくつき刀である。しかも黒ずんでいるし。
私はため息を吐いて、刀の手入れに移ることにした。だけど。
刀は錆ではなく、刀身そのものが黒ずんでいるようだった。
本当に呪いの刀じみてきた。なんか重いし。ぼちぼちお祓いにいったほうがいいかもしれないけど、上層部のセキュリティチェックにこの刀は引っかからなかったし、皇龍清明様だってこの刀に対し、無反応だった。
あやかしがらみではなく、純然たる呪いの刀……?
最近全くしてなかったけど、一発血でも吸わせておくかと手を当てようとした瞬間──、
「やめろ」
いつの間にか真横にいた水社一心が腕を掴んできた。完全にこいつホラーの手首の掴み方で掴んできた。ホラー映画の開始40分みたいなことしないでほしい。
「もう終幕だろ40分なんて。腕掴むなんて悠長なことにはならない」
千年桜は恋と咲くにおいて、映画も一応存在しているが、公演時間はだいたい45分程度。浄瑠璃や歌舞伎、芝居もそれくらいだ。私の前世──この時代から約100年で、映画の一般上映時間は中々に伸びた。なので100分は越えます。
「ほお、詳しいな。好きだったのか?」
なにが。
「映画」
いや。
「だって、詳しいじゃないか」
この時代の映画は、映画館に行かなければ見れないものだ。私の時代は違う。会員になれば小型の端末で、公開時期が過ぎれば無料で見られる場合もあるのだ。
「便利だな」
便利ですよ。なんでも。
「じゃあお前は一人で見ていたのか」
そうです。
「今は見に行かないのか」
煩そう。
流れでなんとなく察した。即答すれば水社一心は「まだ何にも言ってない」とは言わず、「分別はつく」と言い返す。
それに映画館に行っても水社一心の能力なら公開初日に行かないとネタバレに遭う。最悪公開初日に行っても、関係者がいる可能性もあるし。
それに、今、皇龍清明様との縁談みたいな話になってるし。
「……は?」
水社一心は知らなかったらしい。私は事情を説明すると、思い詰めた表情になった。
その表情を見た瞬間、言わなきゃよかったと後悔する。でも下手に隠してややこしくなりたくないし、それこそ、漫画とか小説とかで5巻あたりを過ぎた後の、両片思い状態の「そこでまたすれ違うの⁉ 話し合い! 報連相!」となりかねない状況になったら嫌だし。私はヒロインじゃないしこの男もヒーローって性格かは疑わしいけど。ややこしいから。
「お前、変なこと考えてるんじゃないだろうな」
は?
「し、死ねば、お前のお姉様と皇龍様の縁が結ばれるとか……」
水社一心は私を疑いの目で見る。この期に及んでかと思うし、こうしたのは私なんだろう。
そんな気はない。なにより、お姉様が嫌がる。実際千年桜は恋と咲くにおいて、「本当は妹にあった縁談なのに」と、お姉様は悩んでいた。皇龍清明様の相手は、本当なら枯賀末理だったと。
それが私が死ぬ、という過程でも挟めばお姉様は自決しうる。それに現在私が軍に入っている以上、お姉様の想像の中で実は私が皇龍清明様にあこがれがあったのでは、奪ったのではと悩みに悩みに川に飛び込みかねない。なのでその手段はとれない。
「嘘は無いんだな」
心読めるだろ。
「俺がそう思いたいだけかもしれないだろ」
面倒くさい男だ。ややこしい。富山局長たちに教えたい。お前のややこしさを。
「今から言いに行けばいいだろ」
まだそれはちょっと。
「いつ喋るようになるんだお前は」
暗天妖王を倒したらですねー。
「そうしたら、お前は最初に何を言う」
何を言うも何も、別に生まれたときから喋れなかったわけじゃないし、お前が人の腕雑巾絞りみたいにギリギリ掴んだ時に、私は喋った。
「別に、お前の声に固執してるわけじゃない。喋れるようになったらしたいことがあるんじゃないかと思ってな。お姉様と、話したいだろ」
いや。
私は即答する。水社一心が「は?」と眉間にしわを寄せた。
喋れるようになっても、お姉様と話せるか、危うい。
だって変なこと言っちゃいそうだもん。
「お前なぁ、充分変だぞ。喋ってない段階から変だぞお前は」
二回も言わなくたっていいじゃん。しかも喋らないことが変って。本当に喋れない人だっているんですよ。
「本当に喋れない人間とお前を同列に扱うことそのものが間違いだろ。お前は喋らないんだから」
まぁ……確かに。
「そこは反省しろ」
まぁ……はい。
俯くと、昼休憩の終わりを知らせる放送音が鳴る。学校にあるようなものとまた違った音色だ。
「じゃあ、俺は警備任務があるから」
はい。どうも、お気をつけて。いってらっしゃい。
そう言うと、水社一心は律儀に「いってきます」と返してきた。
それから一週間後、私と皇龍清明様との見合いが決まった。




