管理局Withカレーライス
上層部との話が終わり皇龍清明様はサッと姿を消した。多分、お姉様との思い出の異空間謎テラリウムで過ごすのだろう。彼は土日休日の場合、土曜日は誰かと出かけられるけど、日曜日は平日をやり過ごす精神統一のためにまるまる引きこもりたいタイプだ。
伊能局長はといえば、暗い顔をしていた。可哀そう。神経をすり減らしている。「すみませんが、僕は彼を送っていくので」と酒呑童子に視線を向けた。
「むー」
酒呑童子は唇をとがらせている。なんなんだお前は。
「港が完成してれば、皇龍と戦えたってのに……くー」
酒呑童子は皇龍清明様に事あるごとに戦いを挑むバトルジャン鬼キャラだったはずだが、野狐禅の一件で壊れた港の復興工事が彼のブレーキになっていたらしい。
「早く港直して、皇龍と戦うぞー‼」
酒呑童子は意気揚々と歩いていく。私は伊能局長と酒呑童子の背中を見送り、管理局の階段を降りていった。
「枯賀さん大変だったね、午前は上層部でって……」
昼食の時間、食堂で管理局の面々と食事をとることになった。
今日のメニューはカレーライス、鮭のクリームコロッケ、キャベツとピーマンの千切り、苺がドンと乗った牛乳寒天だ。
私はそのまま。富山局長はコロッケ抜き、苺抜き、真原さんは全量半分かつご飯3分の1、福野さんは全部大盛りでコロッケは5個、キャベツとピーマンの千切りと牛乳寒天の寒天が大量に追加され、別途どんぶりに入れられている。
私は相槌をうった。疲れた。伊能局長のほうが二百倍疲れただろうけど。
「上層での話て、伊能局長も一緒なんやろ。あの人もあの人で気難しいとこあるから大変やったな」
真原さんがカレーライスに添えられた福神漬けをひとかけらすくい、ご飯をすこし、カレーを少しとスプーンの中でミニカレーを作り口に運ぶ。
「上層部って、結局なんなんですか」
福野さんが感情なんて微塵もこもってない声音で聞く。
「福野お前上層部に興味なんかあるんか」
「いや、枯賀が行ったって言うけど、知らないんで」
「あれやん。でっかい集まりでたまにちょろちょろ顔出したりするやん。挨拶みたいなんしたり、入隊式とかあるやろ。新年一発目とかも」
真原さんの言葉に、福野さんは口をあんぐり開けながら千切りキャベツをほおばり、首を傾げた。
「おんねん。お前が認識しとらんだけで、枯賀の入隊式とかも顔出してんねん。今年は蛇とか蛭なんちゃらいう人やったか、微妙やけど、かわりばんこで。いっちゃん偉いんが、百足屋さんで」
真原さんは上層部の顔と名前を一致してないらしい。正直、八人も覚えるのは無理があると思う。そしてそれまで長く咀嚼していた福野さんが、キャベツを飲み込んだ。
「強いんですか?」
「強くはないやろ……ほぼ、軍が特権得ないように、国に背かんようにっていう、抑え役やし、国で経営とかやってたお偉いさんとか、海外の交渉が上手いとか、そういうので選ばれとる人たちやから……ねえ富山局長」
「まぁ……」
福神漬けとカレールーを混ぜて食べていた富山局長が頷く。
「伊能局長とよく話してはる人おるやないですか、なんやったか、蝦蟇貪さん。あん人も違いますよね」
「あの人は元々政界の人だよ。お兄さんが今法務の大臣してるし、その流れで帝都退妖軍に」
「ひえ~でも一番偉いんやないですね? 上層の中では」
「まぁ、四番……五番くらいかなぁ」
「政界の人なら狙えば一番いけるんちゃいますか」
真原さんが驚いているが、富山局長は「どうだろうね」と首をひねる。
「話してるところは見たことがあるけど、腹の底が読めないというか、こう……分かりづらい人ではあるよね。伊能くんのこと、助けてくれたこともあったから悪く言いたくないけど」
「助けた?」
「昔のことだから、ね、ハハ。それより、伊能くんに聞いたよ。話の内容」
富山局長はスプーンを置いた。
「疑われたりとか……婚約の、でっちあげみたいな」
どうやら伊能局長はこの短期間で富山局長に報告していたらしい。温度的に外堀を埋めようというより、本当に心配しての伝言だったのだろう。富山局長の表情からもうかがえるし……多分、真原さんや福野さんも聞いている。二人とも、富山局長の話に驚いてない。
「良かったね、玉の輿だ、なんてことは、言うつもりは、ないんだ」
富山局長が優しい口調で話す。
「分からないけどね? 枯賀さんが、もしかしたら、実はすごく、皇龍様みたいな人が、好きって可能性もあるし、そういう話題に触れることが、男の上司としては、すごく、すごおく嫌なんだけど。怖いから。嫌でしょ、年上のおじさんから、色々そんな風に聞かれるの」
まあ確かに、おじさんというか男女関係なく嫌だ。
「もしも娘がね、知りもしない相手と結婚ってなったら、うちの娘は嫌がる気質だから、世間では家同士が決めた結婚のほうが一般的だけど……い、嫌?」
富山局長はおそるおそる聞いてきた。多分富山局長は私を配慮してくれていて、同時に私の権利や尊厳を侵害しないかと心配している。心配してるなら聞いてもいいということではないけど、私は富山局長の質問に答えたかった。
だから私は、頷く。
「やっぱ、そっか……」
富山局長は天上を仰ぐ。
「でも皇龍様も多分嫌がるんだよね。だから入籍は無理だろうけど。定期的に、お見合いしろって言われては断ってるし、それが許される立場だし。多分戦闘局とかに所属してたら、皇龍様との共同作戦とか組まれるだろうけど、うち、組みようないからね。皇龍様にあんな地下で、武具の修理手伝わしたら僕処刑されるし」
「そもそも皇龍様、全然軍に顔出さへんお人やしな。僕見たことあんの、両手もないし」
真原さんが励ますように言うけれど、それはそれで厳しくもある。お姉様の覚醒問題がある以上皇龍清明様とお姉様を無理に合わせるのは微妙だけど、軍に来ない間はあやかし殺戮機をしているし、多分世俗から離れすぎ、会うにせよ上層部という最悪の循環が、ヒロインと出会う前のヒーローの難義さに拍車をかけている。一目会えばお姉様の覚醒が始まるので皇龍様だけお姉様を知るというのが、難しい。
いや、難しくない?
私は今になって気付いた。皇龍清明様が身近ではない存在ゆえに、まず自分が会う、そしてお姉様となんて考えていたけど、お姉様の覚醒が問題なら、皇龍清明様が一方的にお姉様を知るのは、問題ない……?
でもそうすると皇龍清明様にただただ献身を求めているみたいな……。
私は悩みながら、カレーを食していた。




