民間鬼による心理戦
皇龍の位である五芒星を天将位に変更しました。理由は五人出るイメージになるからです。五人も出ません。お手数をおかけします。
納税。
酒呑童子がそのワードを発した瞬間、空気が変わった。
上層部八人全員、納税なんて言葉があやかしから飛び出てくるなんて思わなかったのだろう。唖然としていた。予知能力者はこの場にいないし、予知できたとしても己の異能の精度を疑うだろう。
しかもこの八人、節税なんて言い代えで不正しまくりで頭いい人間がつつけばぼろ出まくりのド腐れ集団だろうし。散々裏で暗躍し続けていた各役員も混乱している。
酒呑童子による納税大パニックだ。
「俺はちゃんと払わなかった時期があるからな。軍で、色々やって、どうにかする」
酒呑童子は屈託のない目で言った。
全員何も返せない。
何故ならこの八人は何も結託しているのではなく、感性が似ている、己の利害関係の一致で集まっただけ、志は一緒ではないし全員生粋のもらいたがりのテイカー気質。ギブアンドテイクで決してギブはしないし、ギブされても自分の魅力としか考えないゴミの集団。
つまり根にあるのは蹴落としあい根性、しかし下手に蹴落としあいを起こすと自分の身が危ういので、こうして仲良しこよしごっこをそれっぽくしているだけだ。
それが今、酒呑童子の納税発言で崩れた。
ここで納税推奨発言をすれば「裏であんなことしてるくせに」と密告を誘発しやすくなり死ぬ。
ここで納税非推奨や懐疑的な発言をすれば「こいつ裏でなんかやってんな」と疑惑が濃くなる。
さらに八人とも長く上層部でやってきているので、AはBの弱みを知っているが、AはCに弱みを握られている。しかしBとCは協力関係ではない。CはEと仲良く、Bの立場が弱くなればEの立場が弱くなるというドロドロ人間政治が起きている為、一人の裏切りでどんな影響が起きるか分からない。
「納税……」
一番税まわりで得しつつ悪いことしてそうな百足屋が呟いた。後の役員は何も言わない。
この八人はもう、今夜寝れないだろう。
もはやこの場で注目されてるのは酒呑童子ではなく互いの出方だ。
全員自己保身が強くわが身のことしか考えない。目の前のあやかしが暴れ出せば軍が出動し伊能局長が助けに入るだろうが、税に関して伊能局長は動けない。上層部の現在の最悪のシナリオは酒呑童子が暴れ出して役員一人食いつくすより自身の税まわりが突かれることである。
ようするに今、青年漫画でよくある命に関わらないけど色々失う系の心理戦ゲームが始まっている。酒呑童子のこの素直さで。
「まぁ、人を襲わないのであれば、こちらとしては戦力に越したことは無いですから。強い力を持つ人間であっても、統率が難しい存在はいる……」
そして百足屋がこちらを見た。
「彼女もまた、しかり。一か月という長い間、あやかしの世界にいた。当時の話を聞こうにも、枯賀家の言葉の異能により、発話に制限がある。さらに本人が自覚していないにせよ、なにかされていてもおかしくはない。下手すればそこのあやかしよりも、我々の脅威になるかもしれない」
酒呑童子が納税という鉄壁を得たが、上層部としてはあやかしは納税目的で軍に協力してくれるしハッピーで終わる気はないのだろう。集まっておいて全員大丈夫そうで終わらすのはある意味上層部の面目が潰れる。
「天将位の皇龍清明様より確認が取れております」
伊能局長が返すが、蝦蟇貪が「その天将位様のお姿が、ねえ」と口角を上げ、上層部が顔を見合わせる。
相変わらず空気が悪いが、前世の地獄を思えばマシだ。話の通じない人間はどこにでもいるし、誰に理解されなくても、もう仕方ない。どうでもいい。
「百足屋様」
室内にノックが響いた。声の主は外の護衛だろう。百足屋は「なんだ」と後方に目をやる。
「皇龍清明様がお越しです」
「と、通せ‼ お待たせするな」
百足屋、そしてほかの上層部が焦った。蝦蟇貪だけが扇子を閉じ、やれやれといった顔をする。今日皇龍清明様は到着の手筈だから、私が呼び出されたと思っていたが、もしかして一応時間は設けるけど来ない前提でいた、とか?
この場のセッティングに関わっているのは伊能局長だ。
伊能局長があまり信頼されてない?
蝦蟇貪は……皇龍清明が来るものだと思っていた。
キイ、と後ろで扉が開く音がした。あんまりがっつり後ろを見ても振る舞いとしてアウトなので、私は身体ごと後ろに向ける。上層部に背を向けているが、権力図的に皇龍清明様に逆らえば私は上層に確実に処分される。
「天将位皇龍清明……参じた」
白銀の髪をなびかせ、皇龍清明様が部屋に入る。部屋の空気がまた変わった。酒呑童子が入ってきたときも上層部は恐怖していたが、その恐れを確実に超えている。
指先ひとつ動かせば死ぬ。
酒呑童子は呑気に入ってきたのを勝手に上層部が恐れた形だが、皇龍清明様に至っては明確に殺気立っており、皇龍清明様から放たれる霊力による圧に、息苦しさを覚えた。
「こ、皇龍様、本日はお日柄も良く……」
上層部の役員の一人が、皇龍清明様に声をかける。焦りすぎて見合いの前座みたいになっているが、皇龍清明様は「煩わしい」と一刀両断した。
「中の会話が聞こえていた」
皇龍清明様は感情なんて一切感じさせない声音で話す。
「そ、それは、お恥ずかしい」
別の役員が阿るように愛想笑いを浮かべた。
「この領域は外部、内部問わず情報を遮断する術が施されているものだ。術が甘い。この体たらくで、軍で重要とされているとは」
「た、大変失礼いたしました。術師によく言って聞かせますので」
「私は諸賢に言っている」
「え」
「術の甘さが生まれることすら想定しない、至らぬものに気付けぬことを自覚せず、なぜ私に意を問う。分からぬから問うのであろう。分からぬことに気付かぬのに問う意味はなんだ」
皇龍清明様が静かに追及した。
要約するとこうだ。
なんで部屋のセキュリティガバガバなの。
ガバガバセキュリティになんで気付かないの。
色んな事に気付かないくせになんでこっちに質問してくんの?
それ分からなくて質問するんじゃなくない?
なんの意味?
という、言いたいことは分かるが、多分それ言い方によっては審議入りますよ、という意見が分かれがちな精神性である。さらにややこしいのは皇龍清明様の自己肯定感が地を這うどころか地中の奥底まで掘りに堀られ、地球で例えるならばマントルのさらにその奥、何千度の熱の地点まで到達しているほど、自己肯定感が死んでいる。
理由は、彼は元々上流階級にいたのではなく、人外寄り上位存在の中での最下級おちこぼれはぐれもの枠だったからだ。精神性が持たざる者寄りの現在持ってる人。「自分は頑張らないと一人前になれない駄目な奴」「こんなにも出来損ないの自分が出来ることをお前が出来ないということはお前のやる気は本当に無いんじゃないの?」という疑いが全人民に向けられている。自己肯定感が低い人間はパッと見は自分に厳しいだけに思われつつ案外相手へのハードルもバリ高の法則を地でいっているお人である。
すべてはお姉様が死んでしまったのは自分のせいだと責め続けた結果だ。




