上層部八名(ブレーキ)とのウキウキ査問会
皇龍清明様がサンタクロースのように月を横切った翌日のこと。
私は伊能局長に呼び出され、彼と共に帝都退妖軍の九階に向かった。
千年桜は恋と咲くで見たことがある、上層部フロアだ。前世で言う昭和のあたりに建設されたホテルみたいな、クラシカルスタイル。基本的にここで上層部がお姉様の処遇を話し合い、お姉様と皇龍清明様の結婚が世界を揺るがすという風味付けが発生する。
そんな上層部および帝都退妖軍の役員たちは、なんと、八人いる。
「失礼します」
管理局の扉にかけられた予算とはまったく違うであろう迎賓館寄りの扉が開くと、半円の円卓が並んでいた。年齢は30代から70代の男である。
「あれが、枯賀家の末娘か」
「歴史はあるじゃないですか」
「所詮皇都寄り、名ばかりの家でしょう。政治も下手で、父親があやかしになって解体気味で」
「分家を設けるほどの規模もないのに身内に近い妻設けて、その妻は今?」
「死んだとかいなくなったとか」
「あれ、末娘ってことは上の娘がいる?」
「長女は西にやったとか、異能も霊力もないとのことで」
「普通に帝都で女学園にでも入れてやればいいものを」
合計八人、好きかって言っている。
基本的に全員陰険な性格をしているが、枯賀家の父親に関して矛先が向いていた。
そう、枯賀の父親の所業は、陰険ドロドロざまぁ待ちド腐り上層部からすればいい玩具なのである。
そして伊能局長は何かを耐え、感情を殺した顔で笑みを浮かべながら一瞬だけこちらを見た。
全然心配しないでほしい。
伊能局長はこれから先、私が嫌味を沢山言われて上層部に心を折られる心配があるのだろうが、私はもう、千年桜は恋と咲くファンブックにより全員の身長体重生年月日氏名全部把握しているし、一人一人の死に方も知っている。
それに私は八人を敵として見てない。
合計八人
とんでもない量だ。誰が喋ってるのかわかんないもん。この八人がある日突然何かに目覚め管理局で働いてくれれば、十二人で仕事が出来る。なんと従来の四倍。そして上層部の各部屋には各局に設置されているファックス、もしくは通信可能コピー機があるので、とりあえず全員、それの操作が出来るだろう。
富山局長が定期的に逃げては、真原さんに責められる紙詰まりの対応は少なからず、この八人全員出来る。
そんな、お姉様に恋をするわけでもない30代から70代の男性多めの陣営。そんな人員の名前が八人ぶんずらっと突然並んでいたら疲れるだろう。
ちなみに、名簿順だと百足屋、蝮乃、蛭子、蜂江、、蝦蟇貪、、井守、蛇間、河豚貪と、ちょっと痛い目みやすい生物苗字縛りが設けられている。そして蝦蟇貪と河豚貪と最後の漢字が一緒だが、親戚だったりする。名前で役員になるにあたり癒着とか便宜があるのかなという雰囲気がヒシヒシ感じるが、実際雰囲気どころか事実である。
上層部のボスは百足屋だ。
百足の足よろしく、ワサワサワサワサと自分の味方になる人間を役員にして、ほくそ笑む65歳男性である。しかも自分と同じくらい卑怯だが保身に走りがちで自分が仕切るのは嫌な70歳男性を置くことで、「自分最高齢じゃないですし年上に対しても話せますアピール」を行う65歳だ。おしまいすぎる。
ここまで来ると帝都退妖軍って大丈夫なのか、という雰囲気が出るが、ここで最悪の帳尻合わせがあるのだ。
軍の指揮権を握る最高責任者はバーサーカーおじいという。
軍の総大将は酒呑童子とまた違った、静かな脳筋というかバックボーンが色々ありすぎて批判しづらいがどう考えても戦いしか能がないタイプなので、小賢しい自己保身バリ高上層部が八人くらいいないとバーサーカーおじいが止まらないという最悪のブレーキになっている。
「伊能、お前皇龍様連れてくるって言ってなかったか」
ファンブックで蝦蟇貪と紹介されていた御年60になるだろう男が目を細めた。
ちなみに千年桜は恋と咲くのシナリオでは、暗天妖王が屯所を襲撃した時、燃え盛る役員室で煙草を吸いながら椅子に座って死んでいく。
「すみません。お呼びしているのですが」
伊能局長が申し訳なさそうに言っていたが、話し方がアニメ版のお姉様への初期対応外面マックスバージョンと同じだった。初めてだ。伊能局長のこの話し方を間近で聞くの。初期は輝宮寺の事件でブチギレており机蹴ってた時だし。
「能力がある人間は協調性が無くても許されて羨ましい限りだわ、お前みたいにねえ」
蝦蟇貪は大きくため息を吐き、「煙草でも吸ってこようか」と唇をひん曲げる。
「まぁまぁ蝦蟇貪さん」
そして穏やかな調子で声をかけたのが、役員トップの百足屋だ。蝦蟇貪がメインっぽいがこいつがメインなので初見トラップになる。
「あやかしが味方になるとか聞きましたけれど、そちらは」
「彼ももうすぐ到着するとは思うのですが──」
伊能局長がそう言って、すぐのことだった。
ドタドタドタドタドタと、足音が響く。この上層部のフロアは基本的に極秘情報が飛び交ってるので各部屋遮音が施されているが、酒呑童子に対しては無理だろう。
「よう‼」
バーンと扉が開かれ、上層部の護衛たちを唖然とさせながら登場したのは酒呑童子だ。そばには退妖対実地戦闘局の局長、相模局長が眉間に力を入れ続けながら控えている。
「あやかし……」
私には軽蔑、嘲笑じみた視線を送っていた上層部の面々が、酒呑童子を見て一斉に警戒した。野狐禅や猫又でなぁなぁになっているが、人型あやかしは脅威の対象だ。一匹で村どころか地域一体滅ぼせるというのが一般常識だし、上層部にいるくらいこの国を長く見てきたならば、より恐怖するのだろう。この民間鬼を。
「このあやかしは、軍へ協力的です。先日の枯賀末理二等兵の拉致に関しても、救出作戦に尽力し、戦闘にも参加しました」
「……それは、報告書にもあがっていますけどねえ……でも一体なぜあやかしが我々に協力を……」
役員たちが顔をしかめる。
「彼には彼なりの信念があり……」
伊能局長が説明しようとすると、「信念?」と役員の一人が揚げ足を取るような声音で聞き返す。
「はい。自分より弱い者が痛めつけられることが、許せないようで」
「はぁ……人間でも中々いないような、俠義を持つと、あやかしが」
役員たちは疑いや警戒を隠さず、酒呑童子を見た。
酒呑童子の様子を伺えば、ただ目を丸くしぼーっと突っ立っていた。
え?
何?
どういう感情?
「あやかしを倒すってことは、同族を倒すことになるが……どういう心理でそうなる」
役員は問うけれど、酒呑童子と視線を合わせない。あくまで伊能局長に訊ねているが……、
「雑魚狙う奴は死んだほうがいいだろ」
酒呑童子がサクッと答えた。役員たちが顔を見合わせる。
「どういう、考えで」
「戦いは強い奴同士の力比べだ。根性勝負だからな。雑魚狙って戦うのはそもそも戦いじゃねえだろ。つまんねえし」
「しかし、あやかしは人を食らう」
「雑魚な。俺は人なんか食わねえ。もっと固そうなやつを喰う」
「固そうとは」
「これだ」
酒呑童子は役員たちの質問に答え、懐から石を取り出した。
伊能局長がすかさず「彼は食の形態が、他のあやかしと異なります」と付け足す。
「彼は、人間を食べないあやかしです。それゆえか分かりませんが、こうして意思疎通も可能で、協力し合い、あやかしによる被害者を減らせるのではと考えています。実際に港の襲撃での救助活動およびあやかしとの応戦など、結果は出ています」
「ほおん」
蝦蟇貪がトロンボーンみたいな返事をした。
「でも、あやかしと結託してる可能性もあるわけだよな。知恵つけて。あやかしが軍に協力して、なんの得があるんだよ」
そうして蝦蟇貪はふうーと息を吐く。
伊能局長が「強い奴と戦えるという」と続けるが、蝦蟇貪は「強い奴と戦うのに軍なんて入る必要ないだろ、襲えばいいんだからさあ、そこら辺の奴を」と言い返した。
場の空気が蝦蟇貪により一変する。
どうするんだろう。酒呑童子はバカ、やりたいからやる、やりたくないからやらないの男だ。千年桜は恋と咲くを読んでれば分かる思考回路だが、全員未読だ。根拠がないも同然の扱いを受ける。しかし──、
「納税だ‼」
酒呑童子が大きい声で発した。




