軍組織とは異なる特権地位にいる皇龍清明様
多分だけど、屯所の本部にむかっているのだろう。
ともすれば、招集も近いのかもしれない。
軍の上層部と──対面だ。千年桜は恋と咲くでは──と考えて水社一心の視線を感じ、やめた。
「やめるな」
怖。
水社一心は睨んでくるが「心を読むなんて卑怯だ」と考える男の発言とは思えない。それに一般的な心読み系の人物は、望んでいないのに勝手に流れ込んでくる、望んでいないのに他者の声が勝手に聞こえるということで疲弊し、人に不信感を持つ──いわゆる他者を見ているのに、こいつだけ「勝手に心を読むなんて卑怯」で生きている。どこまで自責思考なんだよ。他責の真逆じゃん。心読める界隈のニューフェイスに食い込もうとするなよ。
「ニューフェイスってなんだよ」
新人。
「ほお」
そして謎の語学学習もそうだし。
この世界は一応英語が存在しているというか架空の日本っぽい異世界ベースなので、日本語がガンガン登場するし、異国も「この国風ですね」と七割くらいがイメージを一致させる国も出る。一方で、その時代ごとの情勢も考慮されているし、ネットで炎上にならないよう、モデルの国に迷惑をかけないよう、その国だと思われないものも入っていたが、レビューでは「文化考証がなってない」と叩かれていた。
そう、千年桜は恋と咲くの低評価レビューでは「モラハラすぎて、花宵ちゃんがこのカスを好きだったのって洗脳だったのかなって思います」というモラハラ水社一心への批判層、「いつまでもうじうじ悩んでいて話が進まないし正直一発ぶん殴ってやりたいヒロインです。お値段も高め」というヒロインが内向的かつ自立より支援する側のヒロインであることを批判する層、細々と「ヤンデレを描いているつもりでしょうが作者はヤンデレを描いて読者にちやほやされることに酔ってる」という暗天妖王批判の他に、第四勢力が存在する。
時代や世界観が現実と離れていることを批判する層だ。
和の雰囲気の人物が出ている時もそうした層はいたが、西洋風のキャラや中華風のキャラが登場してからより顕著になった。
すると、こういう層が出てくる。「花宵ちゃんと旦那さんの胸キュンとイケメンを求めて読んでるので、癒しにそういうのはいらないかなって笑」当然大喧嘩だ。お互い信念の戦いになる。どのストアのレビューでも四ケタを超えるレビューだった一方、喧嘩も多かった。
ただそれほど、みんな、千年桜は恋と咲くを自分のことのように熱中していたのだろう。
そんな、多種多様なレビュー欄がまとまった瞬間がある。
上層部が出たときだ。
基本的に千年桜は恋と咲くの上層部は腐っている。
ドラマや漫画に出てくるテンプレの「悪い上層部」だ。牛耳る、というのがよく合う。ことなかれ主義で私利私欲のために動き、ずるがしこいテンプレ悪役タイプ。他者の頑張りは自分のためだと誤解し延々と周りを搾取する人災型のオールスター八人だ。最年少は30代、最高齢は70代という内訳で、コミカライズでは全員集合の会議室場面が多い。最終的に暗天妖王に利用され全員死ぬし、なんなら小説は全シリーズ集めても見開きページ分いくかいかないか、コミカライズでは軍組織の説明と会議場面諸々集めても多分ギリ4ページあるかないかであるが、それだけで性格が悪いというのがハッキリわかる集団である。
全員皇龍清明様には頭が上がらない。
殺されるのが怖いので。
そう、皇龍清明様は人を殺しそうな雰囲気があるのだ。ヲタク300人を集め、冷酷無慈悲そうなキャラ振り分けをした場合、皇龍清明様は冷酷無慈悲に振り分けられる。
中身は怒涛の奥手不器用陰キャ拗らせマン。「顔がよい」という一点で同族同性から「お前みたいなファッション陰キャが死ねよ」「数字稼ぎの自称ぼっち配信者」と批判されるが皇龍清明様のその精神性はお姉様の存在でギリギリ趣味ネット叩きにならなかっただけの人である。
そんな皇龍清明様が、満月を背景に飛んでいる。
「お前不敬で殺されるぞ」
水社一心が突っ込んできた。
皇龍清明様は、レビュー欄では40代男性から「女性向けはほぼ読みませんし、キャラを応援するということはほぼなかったのですが、清明はかなり童〇をこじらせている感じがして、もう少しうまくやれよと思ってしまいます。自分は普段面白ければ☆3、よっぽどのことが無い限り☆5はつけないのですが(打ち切り寸前で応援したい作品とか)なのですが、清明の応援も兼ねて☆5をつけました。」と、明らかに応援が届く男ではあるが、千年桜は恋と咲くでは地位がエベレストじみている。
「エベレストってなんだよ」
世界一高い山です。
水社一心は私の返答にため息で返してきた。
皇龍清明様の現在の地位は、千年桜は恋と咲くの造語、独自用語で設定されている。
軍人所属ではないけれど局長より上の地位を持ちます、政治家も頭を下げます、でも政治家になりません。ただし政治家は皇龍清明様がなにかを言えば勝手に忖度します、という枠だ。
ただしそれが語られるのは軍の組織や国の難しい単語がセットになる。
こういう地位があって、こういう地位があってその上ですよ、みたいな。
結果的に読者は「皇龍清明様と花宵の恋物語が読みたいのになんでかミリタリーめいてるし独自用語いっぱい出てくるし、うるさいおじさんたちの名前もいっぱい出てきてすんごい嫌」という状態になるのだ。
しかもそういう軍組織が好きな読者は千年桜は恋と咲くを読まない。
しかし皇龍清明様の地位やすごさを知るために、軍の組織図は必須。
組織図が出ると政治と軍の繋がりや国単位の組織の話になる。
そうなると皇龍清明様へのフォーカスがどんどん変わってきて、訳が分からなくなる。
難儀なお方である。
「お前皇龍様の地位もそんな風に思ってたのかよ」
はい。
「天将位だぞ」
水社一心が喚く。
私がニューフェイスとか言い出す時、水社一心はこう考えるのだろうかと振り返りたくなる天将位という謎単語だが、天将位こそ皇龍清明様に与えられた地位である。
天将位は西の皇都にいる天皇を守るメチャメチャ特権階級持ちの集団だが、軍所属ではなく政治ともかなり距離がある。なぜなら強すぎて感覚や価値観がアレだから。
上層部がいい例だが、人間的感性を持てば、権力を私利私欲のために使う。法律をどうこうする権限があれば、勝手に変えることもあるだろう。
しかし天将位は法律を守るという概念が絶妙にないので、法律や政治に介入しない。
そう考えると酒呑童子の納税意思、びっくりするくらい協調性あるな。
「……」
水社一心が睨んできた。
とにもかくにも皇龍清明様は天将位という、とんでもない地位である。
天将位のひとりが後ろ盾になれば、上層部は安心ということだ。
後ろ盾になればの話だが。




