水社一心の本音
「水社少尉、悪いんですけど、枯賀、女子寮まで送ってくん、頼みますわ」
水社一心の部屋を見た後、真原さんが言う。
「彼は、僕らがちゃんとやるんで」
真原さんは酒呑童子を一瞥する。
「んお? 俺もこいつと帰るぞ」
酒呑童子は私を指した。
「夫婦でもない男女が並んで夜道歩いたら、色々あかんのですよ」
「夫婦じゃないとこいつと歩けないのか? 弟子だぞこいつは俺の」
酒呑童子は私をさらに私を指した。ずっと指しっぱなし。小さい子供が新幹線とかショベルカーを指さすのと同じ指し方なので不快さはない。
「駄目なんですわ」
真原さんはニコニコしていた。なんか、この状態の真原さんだけ見ると裏切りそうな感じがヒシヒシと伝わってくる。
「なら夫婦になる‼」
「そらもう、納税せんと。税納めんで結婚は許されへんですから。それに夫婦なると大変なんですよお。戦えんくなりますからねえ。それに家も買わんと。家あります? 帝都の中で」
「ないな‼」
「ならもう、師匠と弟子のがええですよ。師匠と弟子なら、よっぽどのことない限り、壊れることはないでしょうし」
「そうなのか?」
真原さんは「そうですよお」と相槌を打った。
「夫婦や言うても、ちゃんと壊れますからねえ。ならもう、浅い関わりでいたほうが良かったなんてことは、無限にありますから。嫌なところも見えて、それでもってもんですよ。よう分からへんですけど」
「俺こいつの捨て身いやだ‼」
酒呑童子が私を指さした。
「僕も嫌ですわ」
真原さんが私を見る。まずい流れになった。
「……」
福野さんが静かに手を上げる。大変だ。水社一心を見ると、こいつはこいつで私を凝視していた。怖いよ。ずっと怖い。水社一心だけなんか……じめじめしてる。見方が。
千年桜は恋と咲くでは枯賀末理のお姉様に対する悪意の顔がすさまじいと話題になり、定期的に漫画広告で取り上げられていたが、枯賀末理の執念の顔は「出ました‼ ざまあものの敵の顔です‼」と言えたけど水社一心のことの表情は湿ってる。ホラーの怪異と目が合った気分になる。
「……」
しかも普段はギャンギャン煩いくせに今日は静かだし。
「せやから、もう、男同士で戻りましょ。お供しますんで」
「わかった‼ おい、雑魚、身体冷やすなよ‼」
酒呑童子は私を指さし、朗らかに笑う。小学生男児と変わらない。私は会釈で返し、真原さんと福野さんにも目を合わせた。
「じゃあ気をつけてな」
そうして真原さんたちと分かれていく。
横にはホラー水社一心がいる。こいつの不機嫌ハラスメントにはこりごりなので、私は水社一心を放置してそのまま女子寮に向かい歩いていく。
すると水社一心は五歩ほど後ろを追随してきた。気配で分かる。速度も揃えてきている。怖いもん。鵺が消滅したとはいえ、ざまあスッキリカタルシスポイントを増やすなよ。お前がキモいことばっかりしてたらこっちも面倒なんだよ。しかもなんでお前が五歩後ろを歩いてんだよどうかしてるだろ。
「お前の後ろを歩かないと、お前がどこ行くか分かんないだろ」
しゃべった。
水社一心が喋った。
今までずっと黙ってたくせに。
「お前だって黙ってるだろ」
私はお姉様の為にという目的がある。お前の沈黙は謎沈黙。略して謎……、
「お前やめろはしたない」
残念謎黙でした~ピロピロピピロピロピロヒヒーンバーカバーカ。
「お前そんなことばっかり言ってると嫁の貰い手なくなるぞ」
全然問題ないです。お姉様が幸せであれば。
「お前結婚したいって言われてただろ」
誰に。
「酒呑童子」
あれはもう結婚の申し込みというより、玩具が欲しいだけだろう。千年桜は恋と咲くの酒呑童子はどうやらお姉様に自覚する前のほんのり恋心を抱いていたけど、あんな感じのなつき方はしてない。もう少し静かだった。酒呑童子恋をすると静かになるタイプだからよく分かる。私がおもしれーレーダーに引っかかったことであんな感じなだけであって、そこら辺の子供が毎日かけっこの特訓してても同じように「好きだ‼」「ほしい‼」になっているだろう。
『俺はお前と一緒にいるの悪くねえけどな』
なんて、夕暮れの下でお姉様に優しく笑いかけた酒呑童子初恋バージョンとは大きく異なる。
それに、酒呑童子の想いが恋愛かウキウキ小学生がお気に入りカブトムシを見つけたワクワクかの区別は、水社一心が一番ついているはずだ。
私は水社一心に振り返る。
「分からない」
しかし水社一心は首を横に振った。
なんで?
酒呑童子が強すぎて水社一心の異能をはじいている?
「そういうわけじゃない」
じゃあなんで。
「俺がそう思いたいのか、分からない。だから、わからない」
は?
なんだこいつはと見返して、ハッとした。
似たようなことを千年桜は恋と咲くでも言ってた。
こいつは心が読めるので、当然お姉様がこいつに気があるのを理解していた。しかし異能を逆手に取るのは卑怯者などと考え、読まないというかお姉様の恋心に対して見て見ぬふりをした。
その時に、分からない分からない繰り返していた。
私はヒロインじゃない。
鈍い、みたいなのもない。
酒呑童子、私、水社一心みたいな関係図の中で水社一心がこうなる理由は、想像がつく。
それにあの、よく分かんない水社一心のホラー部屋の理由も。
こいつは──、
そう思った瞬間、ざああああああっと強風が吹いた。
思わず空を見上げると、満月を遮るように皇龍清明様が飛んでいた。




