変わりゆく前提
「可愛かったですね」
福野さんの部屋を後にすると福野さんが呟いた。
「は……?」
真原さんが絶句する。正直なところ真原さんが福野さんの先輩なので、真原さんになんとかしてほしい。
「可愛いってなんだ」
酒呑童子が首をかしげる。ここ最近ずっとレスキュー隊として活動しているとしか思えない酒呑童子のあやかし人外ムーヴだ。ちなみに最悪なことに暗天妖王は「可愛い」を理解しお姉様を好いているので最悪。というか暗天妖王が酒呑童子や野狐禅を生み出したけど、類似性が一切みられない。しいて言えば暗天妖王は「美形」と呼ばれていた。イケメン無罪の風潮を心から憎んでいるのでそういうところ含めて大嫌いだったが、暗天妖王も酒呑童子も野狐禅も美形にカテゴライズされるだろう。しかし容姿は似てない気がする。野狐禅は妖艶お姉さん顔だし、酒呑童子は俺様イケメンですと紹介される顔だった。暗天妖王はヤンデレものの表紙の顔だ。黒髪が性癖の女を全員掴む顔をしていたし、定期的に「こちらのイケメンどちら様でしょうか」とネットで話題になっていたし。
「可愛いの基準は人によります。見てて癒される、守りたくなる、応援したくなる、集めたくなる、欲しいと思うのが可愛いです。まぁ、足が短いことですね」
「へぇ、足が短いと可愛いなら、俺からすればお前ら全員可愛いな」
酒呑童子が辺りを見渡す。
確かに酒呑童子と比べれば全員足が短い。
「足短いのはこいつの価値観で、別に、足長くても可愛いものは、あるとは思うけども」
真原さんが再起動した。すると酒呑童子は「じゃあこいつだけだな。あやかしにしたい」と私を指さした。
「それはうちでも困るんすわ。管理局は人で足りないから」
真原さんがすぐに断る。
「ええ~」
「本当に申し訳ないんですけどねえ、春に入ってますからねえ。うちのが先いうことで」
「くそお~」
酒呑童子が悔しがる。真原さん、酒呑童子の扱いが上手い。妹がいっぱいいるからと思えど、真原さんが望んで獲得した能力とは思えず、少し複雑だ。
「じゃあ、次はお前の部屋か?」
酒呑童子は真原さんに何気なく問う。
「は?」
「だってこいつの部屋見たし、管理局なら。俺、こいつの部屋は見たし、なんにもない」
酒呑童子が私を差し、さりげなく私のインテリア事情を暴露する。
「へぇ」
水社一心が短く発した。なんじゃこいつ。
「僕の部屋は、特に、なんもないですよ、ちらかってるんで、ハハ」
「ここです」
廊下を歩いていると福野さんがそばの一室のドアを開けた。
「おー近いんだなぁ、飛んでいけるじゃねえか」
酒呑童子はどすどす足音を響かせながら部屋に突入する。
人間は飛ばない。真原さんが嫌がっているので部屋に入るのをためらっていれば、「ほら」と酒呑童子に腕を引かれた。
そうして入った真原さんの部屋はイメージとは違っていた。
勝手なイメージで人を見るなというのもあれど、まず浴衣がトイレットペーパーみたいに筒状に丸められているし、出入り口のすぐそばに、明らかに今週出せなかったゴミ袋が置かれている。部屋の中央には布団があるが、どうも畳んだりしている気配がなく、部屋全体、湿った匂いがするし、仕事でテキパキしている印象とは真逆だった。
「人間の部屋って感じだな」
酒呑童子が綺麗にまとめる。確かにそう。人の部屋って感じ。
「さっきの部屋は、よく分かんねえ感じだったし」
酒呑童子でも福野さんの部屋が分からないとなると、やっぱり福野さんは何かでカテゴライズ出来る存在じゃないのだろう。無理に枠に当てはめる必要もないし。
「仕事はしっかりしてるのに、部屋こんな感じなんですね」
福野さんが真原さんに言う。
「別にええやろ。仕事もこまいことして、こっちもこまいことしたら破裂してまう」
「細かいの好きなんじゃないんですね」
「好きなわけあるか。ええか、誰かがこまいことせえへんと、仕事は成り立たへんからな」
ふう、と真原さんはため息を吐いた。
「それより、僕の部屋はもうええやろ、おら、出て」
真原さんは退出を促す。どことなく疲れているようだった。やっぱりみられるのは嫌らしい。「失望したか?」と私に振り向く。
私は大きく首を横に振った。
「枯賀はそういうので、変な風に見るやつちゃうやんな。悪かったわ。結婚相手に、掃除せえ求める女とはちゃう」
真原さんは過去に失望されたことがあるのだろうか。いや、この感じだと真原さんの中の思うパブリック女性意見なのだろう。女嫌いによる「女ってこうだよな」みたいな。いわゆる偏見なわけだけど、「女だからってひとくくりにしないで‼」とも思えない。どう考えても家で何かあったようだし、奴隷のように扱われるわけで。女学校で猫又の事件が起きたときや、それこそ日常生活では、女性に対し攻撃的になってるところはほぼ見ない。ただ、疑いみたいなものはどうしてもあるのだろう。そして、その疑いは多分だけど、これからも交流があるからこそ、な気がする。初対面の人にそういうことをしてるのは、見たことがないし。
「じゃあ最後はお前か‼」
完全にホラーの「お前か‼」の勢いで酒呑童子は水社一心に振り向いた。
水社一心は「こっちの部屋は……別に、なにも」と視線を逸らす。
思えば水社一心の部屋を見たことがない。
水社家の水社一心の部屋もだ。理由は、用事がないから。水社家で時間が空けば私は稽古していたし、昏睡のあとはリハビリに忙しかった。
千年桜は恋と咲くに出てた水社一心の部屋は、枯賀末理に夫婦の部屋としてリフォームされ、ほぼ枯賀末理プロデュース枯賀末理が夫と暮らしたい部屋と化していた。
「気になるじゃねえか。あと一人見ないなんて、仲間外れみたいでいやだ‼」
酒呑童子が独自理論で水社一心を押す。ひたむきな目に水社一心はしばし悩んだ後、「一瞬だけ」と付け足し、折れた。




