解説☆政略結婚の発端
どんなに街中がパニックになり、巨人の襲来が起きたとしても、主人公の『あれから色々あったけどまたいつも通りの日常が戻って来た──』というモノローグひとつで一掃されるけど、私は主人公ではない。日常を戻すのにどえらい苦労を要している。
「枯賀に西のしんどさを、教えなあかんな」
管理局で真原さんが高速で修理を行いながら話しかけてくる。私もせっせと武具、装具の修理を行っていた。理由は簡単、私がいないことで管理局がパンクしていたから。「今年配属された新人がいないことで起きるパンクなんてある?」「無双系新人ということですか?」とツッコミが入りそうだが、これには最悪の理由がある。
『人員増えたってことは仕事増やしてもいいよね?』
『欠員? そっかぁ、でもうちも大変だからさ』
これの繰り返しだったらしい。結果、3人しかいないのに4人分の仕事を振られるし、何なら富山局長は局長として会議等の出席義務もある。実質稼働人員は2人のところに4人分の仕事がふられているので、実質倍だ。
なので「しんどさを教えなきゃいけない」と真原さんに言われると、これまでのことを連想するし、申し訳ない。それに、真原さんはその訛りから西の出身だと分かっていたものの、死ぬほど西について触れない。味覚については局長と話をしていたから、問題なさそうだけど……。
「その前に上層の、あれも言わなあかんのか……枯賀、家で聞いてるかもしれへんけど」
真原さんが思案を含み口にする。
「家の人間が知ってても、枯賀知らないこともあるでしょ。俺の両親、俺の入軍までの勉強時間以外のこと多分ほぼ知らないし」
福野さんが冷静に告げた。こういうやり取り、久しぶりだ。恐怖の中になつかしさが滲んで、頭がおかしくなりそうだった。
「お前怖いねん。細々言う感じ。周りそんなん言われたら気遣うやろ」
真原さんが怯えている。私も怖い。真原さんの家も複雑だけど、福野さんの家は「福野さんの家も複雑だろうけど福野さんの気質を家由来と考えていいものか」と疑問がよぎる。
結局、家庭環境から導き出される精神傾向なんて、医者がする以外に性格占いに近いところもある。相手を知りたいから調べるか、相手を知った気になりたいから調べるかで、違いそうなものの、大事なのは目の前の人──って、水社一心は考えそう。
ゴミみたいな後遺症だ。あやかし世界にいてから自問自答の時間が爆増したため、水社一心のカットイン数が増えた。この世の終わりだ。インナーチャイルドならぬインナー水社一心。最悪。
「真原さんがそう言うからいけるかなって。察してくれるから」
「なんにもいかれへん。僕を巻き込むな。他人の察してに任すな。単独で自立した対話をせえ」
「壁に話しかけろってことですか」
「やめてくれ。頼む。悪かった。察する。そのほうがええわ! 誠心誠意持って察するわ。察してって頼んでない顔で察してもらおうとする富山局長よりええわ」
「え」
富山局長が不本意そうに顔を上げた。
「だってそうでしょ。西の話ややれ上層部の話やて、ほんまは富山局長が話さなあかん管轄でしょ」
「いやでも……きょ、局長だからこそ、話……話しづらい部分もあるし……こう、真原くんのほうが、軍人目線として、率直な印象とか、は、話せることも多いし……」
富山局長は首をひねったり顔を小刻みに揺らしながら視線を逸らす。
「それ僕に言いました? そういう理由で、枯賀に話してほしいって」
「いや……い、言ってない……っけ?」
「言ってないですよ。微塵も。局長いっつもそう。なんか局長の中では頼む練習みたいなんしてはるんでしょうけど、頼まれてないんですよ。現実は」
「でもこう、真原くんも、忙しいかなって。頼んじゃうと、受ける断るが発生したりするし、現にこうして、うまく、やってくれてる。それに対してはすごく、ありがたい……」
「じゃあ僕が察してなかったらどうなってたと思います」
「いや……でも、こうして、今という結果になっているわけだから、分かんない」
「想像してみてくださいよ」
「ううん、その時はその時……」
富山局長は視線を逸らした。こちらも懐かしいやりとりだ。
というか局長は、お姉様に対話を持ちかけたり、輝宮寺啓介の実の両親に激怒していたり、沸点が分かりやすくて、逃げのタイミングが極端に感じる。真原さん辺りは、輝宮寺の実の両親にあれだけ話が出来るのだから、自分とも、と思っているのかもしれない。
「で、まぁ、話逸れたけど、この間、伊能局長が言うてたのはたぶん、監査局とか上層のことなんやけど……そもそもの話、上層は西の皇都退妖軍と分けっこの上層部でな、各局の上にあるんやけど」
知ってる。千年桜は恋と咲くで組織図を見たことがある。
現在帝都退妖軍は、軍というひとまとまりの中に、各々戦闘局とか管理局と枝分かれしている。
その各局に局長というトップが君臨しているが、その局長たちを束ねる最高責任者がいて、実質軍のトップがその人だ。
当然、千年桜は恋と咲くに登場するし、お姉様の魅力を理解し、おじいちゃん枠として君臨する。
いわゆるイケおじいちゃん枠だ。孫枠として溺愛する。
ここで、「え? イケおじいちゃんが皇龍清明様とヒロインの結婚を進めたの?」と疑問が発生するかもしれないが、そういうのをしたのが上層部だ。上層部は最高責任者と局長クラスの間にいるが、現場系のことはしない。基本的に各局と最高責任者が国に逸脱するようなことをしないかチェックしている。基本的に国の構図として、政、法、軍とあるが、あやかしに攻められている時に政治──いわば国の指示を待って国民が死んだら国のせいになっちゃうよね、ということで大方の裁量を軍が単体で委ねられているが、単独行動を許し過ぎて、勝手に軍が兵役等で強制的に軍人を集めたりしても困る。
幹部役員として国寄りの人間が配備されているのだ。
その幹部たちが、帝都に四人、皇都に四人いる。霊力はあったりなかったり。千年桜は恋と咲くではチラッと映る程度だ。その上層役員と国の人間が、皇龍清明様に政略結婚してもらい、国との繋がりを深めてもらいたい、その子供をワンチャン軍に入れてもらえたりなんかして……と目論んだのが、千年桜は恋と咲くの根幹にある。
とんでもない話だが、あやかしの脅威は凄まじく、当然死傷者も出ることなので、無理もない。気まぐれ出現の皇龍清明様が恒常出現になることは、かなり大きいことなのだ。
しかしドラゴニックファイナルクラッシュを市街で放てば、死傷者数の桁を増やすことになる。簡単な話ではない。
その上層部と話をすることになりそうだが……上層部はおそらく皇龍清明様が関わることを歓迎するだろう。上層部は皇龍清明様との接点を持ちたくて見合いを進めるのだから。
「上層部の名前は、特に覚える必要もないというか、名前読んだら無礼やいうて昇進に関わるような連中しかおらんから、西も東も。福野も覚えてへんやろ」
「なんで俺に聞くんですか」
「枯賀の一番近い先輩枠やん、なんやねん、俺に聞くんですかって」
「覚えてない前提で言ってくる感じだから」
「覚えとんのんか?」
「覚えてないですよ」
「お前なぁ、局長と別の悪さあるで、お前、ほんまに、心の底から思う」
「そうなんですか?」
福野さんは真っすぐな瞳で真原さんに問う。真原さんはしばらく無言で見返した後、「もういやや、もう分かった。俺がな、俺が、あかんねんな」と素早く決着をつけ、こちらに振り向いた。
「ほんとに、枯賀には申し訳ないんやけど、枯賀ともな、付き合い長なってきたから言うんやけど、なんていうかな、あんま、期待させて梯子外された思わせんの嫌やから言うんやけど」
真原さんは不穏な前提を積み上げてくる。
「僕な、向こうで、人間関係、無理やなってなってるから、西の奴ら来ても、うまいように枯賀やっとってくれって、頼める人間、一人もおらんねん」
そっちか。
前提詰み過ぎててもっと怖いものかと思った。
別に私は真原さんは西の人間だから西の人間と上手く仲介してもらえるなんて思ってない。
上司殴ってクビになってるって聞いたし。
「その時って、酒呑童子もいるんですかね」
福野さんの言葉に、管理局内が静まり返った。
酒呑童子はあれからお祓い等を受けたが、軍を出たのだ。
十章になります。ネタバレの危険のあった九章が終わり感想のお返事再開します。よろしくお願いいたします。




