裏切者×裏切者×裏切者 中編
しかし、水社一心の──本来ならば皇都、天子に近しい水社家の圧力があったと定義しなおせば、ある程度枯賀末理、そして枯賀末理を部下に持つ富山に沿った調査が出来る。
「それは、仕方ないだろ。戦いと同じだ。殺す覚悟で向かって殺されても文句言えねえ。それに雑魚狙って殺すような奴は、生きてたって仕方ねえからな」
「人間同士の話であっても?」
「人間だろうが関係ねえよ。殺した時点で終わりだ。だからよかった」
「え」
「枯賀末理が、枯賀快炎の仇討ちの為に、皇龍狙ってなくて。戦いになれば間違いなく枯賀末理は負けるし、下手すりゃ殺される。俺は皇龍と普通に戦いたいんだよ。雑魚殺すような生きてる価値もねえようなクズ潰し殺すのは、もう戦いじゃねえから」
酒呑童子は瞬きをせず、一点を見つめながら暗い声で言う。
「あやかしも、弱い人間を殺してますよね」
「ああ。死んだほうがいいクズがいるな」
「たとえばなのですが、人間同士で、こう、五人くらいの男が一人の男……格下の男を殺そうとしたらどうしますか」
「五人の男、半殺しにする。殺しはしない」
「あやかしの場合は」
「殺す」
酒呑童子は即答だった。
伊能の望むこれからの展開を考える以上、酒呑童子の法則を把握することは必須となる。伊能は慎重に「何故ですか」と続きを求めた。
「あやかしは死にかけるとなりふり構わねえんだよ。雑魚狙うなっつってんのに雑魚狙う。逃げに逃げて村の人間のガキ狙ったりすんだよ。根性がねえ。そんな奴が生かしても意味ねえし、仮に俺より強くなろうともそんな奴と勝負したところで俺の格が落ちる。殺す、処刑、終わり。まぁ、そんな奴に俺は負けねえがな」
「でも、それは貴方の雑魚は相手にしない信念と相反しませんか?」
「するぜ」
酒呑童子はさらに即答する。
「そうした場合どうするんですか」
「俺の信念と俺の信念が戦うだけだ。勝ったほうでいく」
「矛盾しませんか?」
「お前のまわりは、お前が絶対だろ。俺のまわりは、俺が絶対なんだよ。だから俺のまわりは矛盾だろうがなんだろうが、雑魚は殺さない。雑魚狙う死んだほうがいい奴は潰し殺す。お前がそれを気にいらないなら、俺と戦うしかない。ただ、俺はこれでお前と戦う気はない」
そう言って酒呑童子は拳を握りしめた。
「僕が、雑魚だからですか」
「おん。でも落ち込むなよ、俺より雑魚じゃねえ奴なんざいねえ。人間の中ではそこそこじゃねえの」
「はぁ、どうも」
伊能は酒呑童子に嘘がないか見定める。
霊力や何かの術を使っているようには見えないし、小細工への価値観も独特に見受けられる。
可能性は低い。
「まぁ、別のことでなら戦ってやるよ。身体使わねえやつな。でもお前バカだからよ。頭使う勝負も出来ねえな。なんか丁度いい奴がいいな」
酒呑童子は笑う。紙面試験なら伊能に適うものは誰一人としていない。
「あやかしは、死んだ人間を生き返らせることは、出来るんですか」
伊能はとうとう、本題に入った。
野狐禅の狙いは輝宮寺啓介の蘇生だ。しかし輝宮寺啓介の遺体は既に火葬され灰となった。
本来この国では、骨になった後、代々その家の墓に埋葬される。しかし輝宮寺啓介は埋葬時期にあやかしの結託容疑の身の潔白が未完了であった為、輝宮寺啓介の両親が輝宮寺家の墓への埋葬を拒否し、遺骨は墓のない人間が死した時に行きつく集団墓地に納骨されることとなった。
みんないっしょ。
ひとりぼっちじゃない。
そうした名目で儲けられた集団墓所であることから遺骨はすべて混ざり合うようにできている。
野狐禅が輝宮寺に化け、結託疑いが発生したことで起きたことだ。
輝宮寺啓介は実際に、野狐禅があやかしだと認識しながら協力を申し出た。
輝宮寺啓介にも非があるのは、法の下で確かなことだ。
それに集団墓所が悪いものではない。
輝宮寺家の墓所に眠りたいと思える家庭環境であったかも、他人である伊能に決める権利はないが、脳裏に過りはする。
正解なんてものが存在しない結果の中、もし蘇生の手段があったなら。
たとえば骨を媒介としなければいけない場合、集団墓地の骨を守ることになる。
灰になる前に蘇生しなければいけない場合、野狐禅はどうなるのか。
黄泉がえりの手段が分かれば、野狐禅の目的も少しは見当がつく。
しかし伊能がすぐに聞くことはなかった。富山の前で聞けば富山がどう動くか予測できなくなる。枯賀末理が攫われてすぐ、屯所本部であやかしの世界への突入準備が出来てない段階での新情報は、起死回生の道しるべではなく地獄への導きになりうる。
「死んだ人間を生き返らせる方法なんて、ねえよ」
酒呑童子は子供のように返した。
「どうやったら出来ると思いますか」
「どうやったらっつったってなぁ……無理なもんは無理だ」
「でもあやかしはあやかしを生むじゃないですか。ああいう風に」
「あやかしがあやかしを生むのは訳が違えよ。バカだなお前」
酒呑童子は首をかしげる。伊能は、おかしなことを言ってるつもりはなかった。食い下がる様子の伊能に、酒呑童子は「待ってろ今馬鹿に分かるように説明する」と考え込む。
一定数の情けは持ち得ているらしい。
伊能は酒呑童子の心理分析を行いながら、答えを待つ。




