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裏切者×裏切者×裏切者 後編

「お前無から、お前を作るのは無理だろ」


 長考の果て、酒呑童子は言った。


「例えばの話、霊力で身体を作ったとする。肌触りもお前と一緒。髪も一緒だ。血液も全部一緒だとする。この時点で無理だけどよ。泥とかで見た目そっくりに作れたとしても、中身全部一緒なんて無理だから。でも今回ばっかりは、全部お前と一緒だとする。で、お前今、何歳だ」


「34歳です」


「霊力で作ったお前は34年生きてないだろ。そっくりに作っても。34年分の記憶や経験をお前の身体に注ぎこんでも、それは34年分を一瞬で一気に注ぎ込まれたお前であって、34年間生きたお前じゃない。その時点で蘇生にならない。身体だって人間なら親から生まれるんだろ? 生まれる前に10か月だかかかるんだろ? その10か月も経験してないだろ」


「なら、身体がある段階なら可能なんですか?」


「心臓止まったり息が出来ないなら、医者がなんとかする」


「なら、死亡診断がおりたあとは」


「無理だ。魂が身体から切り離されれば区切り。どんなに霊力注ごうがどうにもならない。それに……そんなんが出来たら、死なないようになんて気を遣わなくてよくなるけどよ、バカも増えるしろくなことねえだろ」


「ろくなことにならない?」


「死んでも生き返れるからいいやって、バカみてえな戦い方するやつが増えるだろ。それこそ枯賀末理みてえな。捨て身は手段じゃねえし、戦いは痛えからこその戦いだよ。痛みも分からねえのに殴り合ったって、それはもう根性の戦いじゃねえ。面白くもなんともねえ。生きてりゃ死ぬ。だからこそ、死にたくねえって強くなろうとするし、目の前の人間が死ぬかもしれねえって、生かしてえって考える頭が出来るわけだろ」


 酒呑童子は自分自身の頭を指さし、「バカには難しい話かもしれねえけど、大事な話だからな、いつか分かる日が来るといいな」と笑う。


「貴方には、なにかその考えに至る、きっかけがあったんですか」


「ねえよそんなもん。生まれつきだ。お前いちいち誰かに影響されて生きてんのか?」


「まぁ」


「なら影響されたい奴くらいは自分で決めろ。心のまま、分けわかんねえ打算とか流れでじゃなく、こいつにしたいって思ったやつにしろ。ここで決めろ」


「僕たちの望みは、枯賀末理の救出、ただ一つです。共に暮日村に向かってください。おそらくそこに、あやかしの世界とつながる場所がある」


 酒呑童子を戦力として加算して行う、枯賀末理救出作戦。


 伊能はとうとう、隠し、曖昧にし続けていた本題を切り出した。


 この部屋の会話は、全て上層部に筒抜けだ。ここは軍に背いた裏切者の軍人を尋問するための部屋だ。伊能が選んだ。伊能の最善手を打つために。


 軍の上層部の反対は避けられないだろうが、酒呑童子には野狐禅を迎えうった実績もある。


 それでも上層部が意を唱えるならば──言葉で黙らせるだけだ。


 これまでずっと好きでもない組織政治を行ってきたのだ。誰にも文句は言わせない。伊能は前を見据え、それまで暗闇だと覚悟しながらも突き進んできた道の意味を夢想する。


 そうして、過った。


 輝宮寺啓介の最後の死について伝えたときの、動揺に揺れた野狐禅の瞳を。


 ──私はそんなつもりない……彼に、悪意はないわ……。


 ──そんなつもりなくても、事実、そうしたんです。貴女が。


 責任から逃れ保身する相手に真実を突き付けたつもりだった。


 事実、輝宮寺啓介の名誉は野狐禅が化けたことで棄損された。


 しかしそれが正しいことだったのかと、今は思う。


 あの言葉が野狐禅を追い詰め、この事件の発生につながったのではないかと。




 伊能は相模と交代し、調査局の部屋を後にした。そのまま九階……帝都退妖軍上層役員である蝦蟇貪の部屋に向かう。


 蝦蟇貪は変わらず煙草を吸っていた。


「伊能さぁ、同日に何回も上役の部屋行くのは失礼だって誰かに教わらなかったのかなぁ」


「すみません。非常事態で」


「非常事態って言うけど非常事態起こしてんのはお前なんじゃねえの伊能さぁ‼」


 蝦蟇貪は机を蹴り上げる。


「申し訳ございません」


「申し訳ございませんじゃねえって今日何回言わす気だよ‼ なぁ‼ お前さぁさっきの何? お前に何の権限があってあやかしと共闘しようとしてんの? お前さぁ、勘違いしてると思ってたんだけどさぁ、俺のこと苦しめようとしてない? 完全にさぁ、俺がお前を調査局に推薦してやったの忘れてんねえ‼ 伊能‼」


 伊能は蝦蟇貪にもう一歩近づいた。


「酒呑童子は、野狐禅と戦い、民間人の救助をしていました。それを、周囲も見ています。ここで討伐しても、のちの火種になりかねない」


「民間人の被害が出たら? 酒呑童子ってやつが人間食い殺し始めたらどうするの?」


 蝦蟇貪は先ほど荒ぶりながらも、酒呑童子の名は一度で覚えていたらしい。


「処分はお任せします」


「新聞にタレコミした奴も捕まえられない、人殺しの調査局長の辞任にそこまでの価値あるか」


「……」


「野狐禅の討伐、そして……連れ去られた局員は絶対に生きて救助しろ。野狐禅の首だけじゃもう足りねえからなお前」


 蝦蟇貪は呟いた。


「野狐禅が意思疎通できるあやかしだろうが殺せ。二体同時は世論が許さない。人に化けて連れ去り未遂したこともあった。もし野狐禅が人間なら、死刑が妥当だ」


「……承知しました」


 蝦蟇貪は大きくため息を吐く。伊能は頭を下げた後、部屋を出る。


 九階から八階に出たところで、「伊能局長」と声がかかった。


 水社一心だ。


「どうしました?」


 伊能は思考を切り替え、水社一心に向かう。


「野狐禅と酒呑童子の戦闘中に、気になることが」


「なんです」


「野狐禅が言ったんです。酒呑童子に対して──人の話を聞かない。何も知ろうとしない。暮日村に行ったときだってそう、別に長居せずすぐに帰ってくればよかった。すぐに帰れるのだからって──」


 水社の言葉に伊能はピンときた。


 暮日村には逸話がある。


 死者と生者を繋ぐ川が流れているという逸話だ。


 田舎のよくある昔話に近いものだが、一部事実だとしたら。


 たとえば、あやかしの世界に繋がる、もしくは──あやかしの世界とこの世界の境界が極めて薄い場所だとしたら。


 酒呑童子を用いて、あやかしの世界に向かうことが出来るのでは。


「暮日村にあやかしの世界と通じる入り口があるかもしれない、ということですか」



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― 新着の感想 ―
ほんとだ酒呑童子氏素直でちょっと騙されやすいけど天才肌タイプの賢い人なんだな…!興味の方向がバトル極振りなだけで言語化もしようと思えばできるし多分興味さえ向けばなんでも出来そう頭脳関係の問題とかもかな…
確かに段々と酒呑童子は馬鹿ではないと思う初めてきたwww バカというよりは言語化があまり得意ではないのと戦闘以外に興味がないのでめんどくさがる、そして単細胞というよりは一貫した信念があってそれに従うが…
なんかだんだん酒呑童子ってまじで頭いいのでは?と思い始めてきましたw 人を超えたところにある真実ってシンプルなものになるんだろうし、小難しく考える必要は無いのではないか… どんどん読者人気上がっていく…
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