枯賀末理(無言)、刀(無言)に怯える
およよ。
刀の言う通り進んでいくと、ドブ煮込みの大寝殿が見えてきてしまった。
私は足を止め、刀を見る。
これ怖い刀では?
仮に私の言葉が通じていたとして、なんでドブ煮込み大寝殿の場所を知ってる?
仮に私を騙そうとしていたとして、なんでドブ煮込み大寝殿の場所を知ってる?
どのみち怖い。
これは、異世界転生して早速最強のチートを手にしてしまいました、お金に困ることはありません──の最悪版では。金脈掘り当てたとは訳が違う。
意味が分かると怖い話の導入では?
そもそもこの刀、千年桜は恋と咲くにおいて数多の霊力を吸いました以外の前後背景が語られない、そういうタイプの怪異みたいな刀だ。
怖くなってきた。
なにこいつ。
そもそも捨ててもついてくる刀だし、どこまで追いかけてくる刀でもある。
全部の存在文脈全部ホラーじゃん。捨てても飛んでくるってホラーだと思ってたけど、それはあくまで冗談で言える程度の認識だった。
この刀を構成する、すべてがホラー。
この刀は、もう、人の意思が無いホラーの概念、捨てたら戻ってくる人形寄りの怖さがある。
この刀って、なに?
調査局であらため調査するとのことだったけど、その調査結果を私は知らない。調査中に私が持ち出した形になるのだろうが、怖いものかどうかよく分からないまま今に至るし、そもそもこの刀は帝都退妖軍において色々な呪具を保管する保管局のセキュリティを破りこっちに突っ込んできていたし、そこで「本当にこれは破壊すべきヤバいものです」ともされず「よく分かんないね」止まりだった。
正真正銘の、いわくつきの刀だ。
ホラー映画で怪異の根本の原因は突き止めた一方、三つある事件のうち一つの原因は別にあり、その原因は全く分からないし現在も進行中、登場人物はハッピーエンドだと疑わないが、観客は気付いている。次はお前だパターンの代表例。その後エンドロールが流れるやつ。
しかもこの刀、霊力を吸ってないのが怖い。代償が無いことほど、怖いものはない。日本昔話の怖い回じゃん。全然知らない間に代償支払わされてる、最終的に不幸になる怖いやつじゃん。
疑いの目を向けていれば、刀は振動し始めた。
不満を訴えてるのか危険を訴えているのか分からない。喋らないから。私も人のこと言えないけど。人のこと……これ刀だけど。
そもそも刀があるということは、この刀を打った鍛冶職人がいるわけで。
刀は柄と呼ばれる持ち手と、刀身、いわゆる刃、包丁でいうと銀色の部分が分かれる。
仕組みとしては、刀身は見えているところの幅がそのまま持ち手になっているのではなく、見えている刀身が鍔と呼ばれる丸い輪のあたりを境に細く、幅が狭くなるのだ。そこを柄に差し込み、固定している。
ペンのキャップみたいなイメージだ。ペン本体が刀身、キャップが柄。
そしてキャップに差し込む部分──茎という柄に隠れた刀身の部分に、鍛冶師の名前が刻まれている。
「ならペンのキャップみたいに外して確認すれば?」というところだが、戦いの間に刀身と柄がスポンと離れれば大事故になる。
刀の柄を描くとき、大体の人間が持ち手の部分にひし形を描くが、あれを目貫という。滑り止めだ。大体そこの上部、刀身に近いほうに、刀身と柄を固定する目釘と呼ばれる釘で固定されているのだ。
そのため釘を外す必要があるわけだが、変な呪いが噴き出て異能が封印されでもしたら嫌なので、調査局や保管局に任せていた。一番最初、この刀を手に入れたとき、保管局の調査では外れないとのことで、「手入れも出来ねえじゃん汚ねえ刀だな」と思っていたものの……。
酒呑童子なら分かるのだろうが。
千年桜は恋と咲くにおいて、酒呑童子はこの刀を握っていたことがある。
最初は「すげえ、おもしれえ!」と嬉々として握り皇龍清明様と戦っていたが、この刀は酒呑童子と価値観が異なる。雑魚も狙うため、「なんだこいつ」と白け顔で叩き折って捨てていた。
その後、持ち主を転々としてお姉様を傷つけ最後には皇龍清明様によりドラゴニックファイナルクラッシュされた、だけ。
保管番号6832・無血という情報しかないし、それも軍が勝手につけたものという描写があった。
でも、この刀、色々おかしいところはある。
私がこの刀を拾ってきたのは、金槌山。
ようするに管理局の面々が死ぬはずだった場所。
後に酒呑童子の稽古場として選ばれたのも金槌山だ。
野狐禅に連れ去られる場にもなったけど。
屯所に近いから酒呑童子は金槌山を選んだ、物語の中で管理局が金槌山に向かうのも屯所に近いから認識だが、なんでそもそもこの刀は屯所の近くで眠っていたのだろう。
モノローグでは数多の人間の霊力を吸い殺しましたとあったが、管理局の面々を殺した後、すぐ回収したのか、その後、暴れまわっていたのを軍が回収したのか、よく分からない。
お姉様に恋をする、皇龍清明様のライバルキャラ補整がかかった誰かが回収して軍に渡したのだろうけど。
保管番号は原作のままだった。でも無血という名前はついてない。管理局員を殺してないから。富山局長は「枯賀さんの刀さぁ」だし、真原さんと福野さんは「枯賀の刀」で、水社一心は「お前のこと追い回してる刀」という。水社一心に対しては「お前もな」と返したくなる。相模局長や伊能局長は「枯賀二等兵の持っている刀」と呼ぶ。
私はといえば、「刀」で終わり。
私の刀はこれだから。
基本的に退妖対実地戦闘局以外は、屯所内で武具を持たない。作戦の時だけだ。
戦闘局員のみ、いつでも出動できるように帯刀したり、銃をホルスターに入れ携帯している。
ちなみに刀か銃かは人によって異なる。異能は人それぞれ、階級で刀縛りなんてすれば、戦力に響くのだ。武具は選べる。真原さんは散弾銃だし、福野さんは狙撃銃がメインだ。富山局長は「御札でーす」と複数枚の札を懐に入れている。水社一心と郷田は刀。
そうした武具の手入れはすべて退妖武具・装具管理局の仕事になる。
つまり──私は刀をバラせる。
帝都退妖軍・退妖武具・装具管理局員だから。
いやでもさすがに、ドブ煮込み総本山の前で刀バラそうとは思えない。
帰ったら……しよう。
帰れたらだけど。
刀を見つめていると、ヴヴ……と振動する。
あやかしだ。千年桜は恋と咲くにおいて、無限に見た雑魚あやかし──飛行型邪悪鯉のぼりたちが私を狙っていた。
一瞬、刀が返事してきたのかと思った。刀の索敵システムだったらしい。
とりあえず、刀の餌の時間ということで。
私はドブ煮込み大寝殿の奥へと進むため、敵を打ち倒すべく駆け出した。




