酒呑童子(敵)、止まらぬ内情大暴露
「三妖士とは?」
「強い、やつら!」
酒呑童子は意気揚々と答えた。
「そこら辺のあやかしより強えのが三体いるから、三妖士だ。まぁ、後の二体は俺より弱いけどな、それに、三体じゃなくて二体になったから、二妖士だしな。言い辛えけど」
「あの、質問ばかりで恐れ入りますが……野狐禅も、その中に?」
「おお。あいつと、あと猫又っつうよく分かんねえのがいたんだよ。雑魚ばっかり狙う根性ナシだから俺が鍛えてやろうとしたら、死ぬほど会わなくなってな、知らねえうちに死んだ。」
酒呑童子の言葉に、富山と真原が視線を合わせた。二人の様子を横目に見ていた伊能は、酒呑童子に視線を合わせた。
「なら、三体であやかしの世界を束ねていたのですか?」
「しねえよそんなん。そんな面倒くさいこと。そういうのはそういうのが好きなやつがすんだよ、適材適所だ」
「三妖士以外にも強いあやかしがいるんですか? 強さは、まぁ、貴方が強いとして、こう、指揮をしてる……だ、代表者の方がいらっしゃるのでしょうか」
「伊能くんそれ迷子の聞き方」
ぼそっと富山が窘めた。酒呑童子は「迷子ってなんだ?」と顔を顰めながらも、「代表っつうか」と首を斜めにした。
「ずーっと元からいる、雑魚束ねたりまとめたりする奴がいんだよ。全然名前が思い出せねえ、なんだっけ。全然会わねえから、あ~あああ? 暗天妖王だ。そう、暗天妖王、名前って感じしねえからな、覚えづらいんだよ」
「暗天妖王?」
「そう。合ってる合ってる。そいつが面倒なのは全部やってる……多分だけどな。暮日村の婆が言ってたから」
「暮日村のお婆さんが……?」
頭をかきながら呑気に話す酒呑童子に、富山は怪訝な顔をする。
「建物も土地は人々が守っていかねばならない……みたいな。そこら辺の道がちゃんとしてるのも、やってる奴がいるからって。だから、最初からいたし、でけえとこに住んでんだよあいつ。暗天妖王。だから、そいつなんだろうなって。いっつも、寝殿に籠ってるから」
「つまり、暮日村のお婆さんが、暮日村の建物や土地は暮日村の人々が守っている、という話を聞いて、あやかしの世界も、暗天妖王が管理しているとあなたが想像したということですか?」
伊能が聞きなおす。
「おう、さっきからそう言ってんだろ。なんでお前繰り返すんだよ……あ、ああれか」
酒呑童子は怪訝そうに伊能を見つめ──ハッとした顔をした。
「二回言わないと覚えられないのか」
「いや、まぁ」
伊能は言葉を濁した。
「やる気あんなお前。小さいやつ好きだぜ。デカい奴は雑魚の癖に身の丈過信してるうるせえのが多いけど、小せえのは根性あるやつが多い」
酒呑童子の言葉に、伊能は「どうも」と笑みを浮かべた。
目の奥が一切笑っていないことに気付いた富山が、「伊能くん」と宥めるように声をかける。伊能は一度目を伏せた後、静かに問いかけた。
「……なら、貴方はその暗天妖王に従い、人間を襲っているんですか」
「なんで雑魚なんか襲わなきゃいけないんだよ。お前、あやかしのこと何も知らねえのな」
酒呑童子は呆れ顔をするが、伊能は「すみません」と詫びた。
「あやかしではないもので」
「確かにな、俺も人間のことはよく分かんなかったわ。熊に殺され猪に悩まされだろ、戦う暇もねえって聞いたぞ、大変だな」
酒呑童子は憐みの目を向ける。
「あの話を戻しちゃうんだけど……君は、人間を襲わないの? ならなんでほかのあやかしは……襲う?」
それまで伊能を抑えるにとどまっていた富山が、口を開いた。
あやかしは人の霊力を狙い捕食する。それが軍に限らずこの国の常識だ。
「普通に、食いもんだと思って食ったり、楽しいからだろ。人間なんか食ったって何にもならねえのに、食う奴はいる」
「そんなことで……」
「そんなことも何も、人間だって同じだろ。この間、見たぜ。門の傍で軍人が雑魚囲ってた。人間同士でもそういう訳わかんねえことする奴はいるだろ。根性がねえっつうか。人間に雑魚が多いみたいに、根性ナシのあやかしが多いんだよ」
酒呑童子は平然と口にする。富山は酒呑童子に探るような目を向け、酒呑童子は「なんだよ」と見返した。伊能がすかさず「あなたは本当に、人間を食べないのですか」と間に入った。
「食ってどうすんだよ。お前らさあ、いくら腹減ってたって、そこら辺のふわふわ浮いてるフィッてやつ食わねえだろ」
「フィ?」
真原が眉間にしわを寄せると、「タンポポの綿毛?」と福野が呟く。
「それ」
酒呑童子はあっさり肯定する。真原が「なんでわかんねん」と福野を見た。福野は「フィッじゃないですか、綿毛って」と真原を見返す。
「なんでお前僕んこと見返してんねん」
「だってタンポポはフィッでしょ」
福野は首をかしげる。
「フィッてしてるやつは食わねえだろ? 腹減ったって思えばちゃんとしたもん食うだろ」
酒呑童子の言葉に「ちゃんとしたのって?」と伊能が促す。
「これ」
酒呑童子が懐からじゃらじゃらと机に出したのは、石だ。
「それは、霊石でしょうか」
伊能の脳裏に、この国の自然学が巡る。
地下に溶岩が流れており、熱が逃げない地形になっていれば、季節に限らず熱のこもる土地となるように。
霊力がこもる地がある。理由は様々だ。高い霊力を持つ人間や生き物が死に絶え、その地に祈りをもたらし守護をかけたり、はたまた恨み苦しみを抱え死に絶えたことでその地一帯が呪いの地と化すこともある。国の区分けとしては、一定以上の霊力を保有し呪われていない地は霊域と呼び、呪われている地を忌み地と分けており、「あの山は霊域だから」「報告被害を集計していくと、このまま被害が拡大するならば忌み地に指定するほかない」と、軍の階級問わず頻出する単語だ。
そして霊域、忌み地問わず、色濃く強い霊力を抱えていることで、その地の木々や石に影響を与える。
霊力の籠った自然物が出来上がるのだ。
それらはあやかしを退ける武器にしたり、神を奉る神具の素材となるが、特になんの来歴もない土地で霊力の籠った自然物が突如発生することもある。
強い霊力を保有する木や岩石の存在により、その自然物を中心に辺り一帯が霊域、忌み地と化す逆転現象も観測されており、後天的に土地の影響を受け霊力を抱えた自然物よりも、そうした来歴の知れぬもののほうが、含有霊力は高いとされている。ゆえに霊域や忌み地にて自然物を採集、その霊力を測ることはその地を知る手掛かりになるのだ。霊域が生まれたゆえの自然物か、「それ」がその地に現われたことで霊域と化したのか。
自然物採取およびその調査は、土地の歴史を知ることでもあり、対あやかしの手立てとなりうる。
酒呑童子の喰らう石は強力な武具としての可能性を秘めている。
「霊石ってなんだよ」
しかし伊能の期待をよそに、酒呑童子は要領を得ない顔で聞き返した。
「霊力の籠った石です」
「じゃあ、これか」
「あやかしの世界で、得た石でしょうか」
「いや、普通にここら辺にいっぱいあるだろ、霊力籠った石なんか。これも普通に、そこの山にあるし、別に、食っていいならこういうのでもいいしな、固そうだし」
酒呑童子は部屋の扉を示す。
霊力の籠った木──霊木を材料とした扉だ。あやかしが入れないように術が施されているため、霊力もそれなりに保有している。
「扉……?」
真原が唖然とするが、酒呑童子は「お前ら人間だって煎餅とか食うだろうが」と、素っ気なく言い返した。
「枯賀二等兵と一緒にいたそうですが、彼女、刀を持っていますよね、あれは、食指は動きませんか」
伊能は酒呑童子に問う。「雑魚の武器奪って食うほど意地汚くねえよ」と酒呑童子は顔をしかめる。
「あれ結構、特殊な刀なんですよ。霊力を吸う性質があって」
「はーん」
「興味はないですか」
「ねえなあ……武器自体は好きだけどよ、身の丈に完全に合わねえ武器ならまだしも、雑魚がちゃんと握ってるもん、ぶん取るのは、なぁ」
伊能は、枯賀末理の刀を調べた。
野狐禅の襲撃で、枯賀末理だけが動けた。その後、枯賀末理の刀に触れる形で伊能も行動を可能としたが、その理由が分からなかった。
枯賀末理の刀は霊力を吸うらしいと報告が上がっていたが、実際に霊力を吸うことは確認されていない。回収当初、呪具の類を扱う保管局が厳重に保管するも、持ち主不在のままに刀だけが単独で動き出し、枯賀末理の手に渡ったが、刀から霊力の吸収を確認できなかった。
幸いにも、霊力を吸う被害者は出ない。
ゆえに、ひとまず追尾機能がある刀として枯賀末理の手元に置いていたが、野狐禅の屯所襲撃で事情が変わったのだ。
霊力を吸わない刀が、どうやって枯賀末理を野狐禅の霊力の呪縛から救ったのか。
どうやって自分や相模を動けるようにしたのか。
根拠がなければ、可能性を探るほかない。
自分が放置していれば、上層部が探り始める。
それは伊能が最も避けたい筋書きだ。理由は、恩人のこともあるが、同時に悲願も潰えてしまうから。




