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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第八章 お姉様を面白がるあやかし
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管理局にて

 この国は、二つの首都を持つ。


 東の帝都、西の皇都(こうと)だ。


 元は一つの都であったが、代々この国を守護する天子のうち、ある代の天子が二つに分けた。


 霊力を持つ者と持たない者は、理解し合えない。


 異能を持つ者と持たない者は、理解し合えない。


 それぞれのやり方で世を為す。


 東の帝都では政的改革を。


 西の皇都では霊的守護を。


 天子は西の皇都に残り、自らと意見も、考えも、在り方も、育ちも、何もかも異なる存在を、帝都の導として置いた。


 しかし、あやかしの脅威は、東も西も変わらない。


 東に帝都退妖軍、西に皇都退妖軍と軍を敷いた。


 どちらの軍も、複数の組織が設けられ、木の枝分かれのように末端へと広がっているが、帝都退妖軍の各組織の中で、最も表舞台とは離れた場所──地下に配置された帝都退妖軍・退妖武具・装具管理局にて、男が四人、話をしていた。


「──金槌山にて、あやかしの大量発生が警備・防妖・探査局確認されました。退妖対実地戦闘局の報告によれば、現場には既に枯賀二等兵が戦闘に入っており、暮日村で報告の上がっていた、額に角を持つ人型のあやかしと共に、あやかしの討伐にあたっていたとのことです」


 管理局の局員たち三人を前に話をするのは、調査局・局長である伊能だ。


 警備・防妖・探査局は、軍本部および、この国の東側すべてに術を巡らせ、あやかしの発生および出現に備え、偵察を行っている。


 金槌山でのあやかしの出現時、偶然、警備・防妖・探査局の人間と話をしていた伊能は、金槌山の異変──今まで探知したことのない強大な霊力反応を確認し、調査局局長の権限において緊急警報を発した。


「そこに、野狐禅が出現し──枯賀二等兵を連れ去りました。現在、調査局および、警備・防妖・探査局が枯賀二等兵の捜索にあたっています」


 室内が静まり返る。誰も、一言も発しなかった。


 伊能はそのまま、相手の返事も反応も待たず続ける。


「退妖対実地戦闘局、水社少尉の報告によれば、野狐禅は──枯賀二等兵をあやかしの住まう、別の空間に連れ去った可能性が、極めて高いと」


「殺す気は?」


 管理局・局員──福野が口を開いた。


 伊能は口を引き結び視線を落とした後、前を見据える。


「暮日村は死者と生者に伝承を抱えた村です。その出身である枯賀二等兵をもってして──輝宮寺啓介の甦り企てているとみています」


「枯賀はそれが出来るんですか?」


「いいえ、彼女の異能は知っての通り言霊による焼却です。しかし、異能に変化が起きる可能性も、否定できない。彼女が誰とも喋らず、幾分か過ぎればそれは変質する可能性がある」


「たとえば?」


 それまで黙っていた管理局・局長、富山が訊ねる。


 富山は元々、戦闘効果増強に近い異能を持っていたが、それが変質した。


 異能は変わることがある。


 極めて稀だが、代々、風の異能を引き継ぐ家の元に全く別の異能が生まれる、それまで戦闘型の異能を持っていたのに、後方支援に近い異能を手にするといった報告は、軍にも度々上がっていた。


 理由は分からない。


 ただ、報告の一部には精神的な影響を関連付けるものが上がっており、議論には上がっているが確定までは至らない。


 人の心は、目に見えない。


 それを可能とする、人の心に干渉可能な家──その最たるものである水社家の人間が、研究に関わるようなことがあれば違っただろうが、水社は水の加護を持つ神に仕えた家でもある。


 軍に入ることは無かった。


 これからもそうだろう。ゆえに、異能の解明は進まない。


 軍の上層部の人間は誰しもそう思っていた。


 今年、水社一心の入隊により、それが変わった。


 同時に、言葉で人を癒す異能を持つ枯賀家において、焼却という極めて珍しい異能の変化を持った枯賀末理も入隊した。


 異能の解明が進めば、あやかしが消え、人々があやかしに悩むことのない未来が来るかもしれない。


 そうした中で、枯賀末理はあやかしの霊力のみを吸収するらしい刀を持ち、戦っていた。


 元は人もあやかしも関係なく吸収する刀だったらしいが、枯賀末理がその刀を変えた。


 刀の研究を進めれば、異能の解明を進めれば。


 暗闇の中、一筋の希望が見えたはずだった。


 しかしその希望は、すぐに消えた。


 月明りを感じて空を見上げたら、一瞬で雲に隠されるように。


「野狐禅が連れ去ったということは、枯賀末理二等兵の異能は、死者に干渉可能な可能性を持ちます。今持っているか、今後変化する可能性があるかは分かりませんが──たとえば僕みたいに、定義を変えるのではなく、その事実そのものを、焼却する、とか」


 伊能は自らの手を見つめる。


 伊能のそれは、定義を変更する力だ。


 死者に干渉することはできない。


「なら枯賀が、輝宮寺んこと生かしたら、野狐禅は枯賀んこと、帰すんか」


 西の訛りを交え問うのは、管理局・局員の真原だ。


「死んだ人間を生き返らせるなんて、まさしく神の所業だ。聞いたことがない。最悪も何も──確実に、代償が伴うものでしょう。天子みたいに」


 この国の天子は莫大な霊力を持ち、世界への干渉を可能とする異能を持っている。


 古来の識者曰く、わが国には海を挟んで数多の大陸や国々があるが、それだけではない別の世界が存在しており、その均衡を保つため、天子は御所の最深部で座している。


「枯賀二等兵がその異能に目覚めるまで、生きたまま向こうの世界に閉じ込め続ける可能性もある。異能に目覚めるかも分からないまま」


「輝宮寺生かす前に、死なれたら困るもんな」


 無機質な声音で真原が呟く。


「……お姉さんは」


 福野が聞いた。


「局員に、報告に向かわせています」


「なら、早く帰してあげないと、心配だよ、みんな」


 枯賀の異能について聞いたきり黙っていた富山が呟く。


 穏やかな話し方とは裏腹に、その瞳は強い感情が滲んでいた。

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― 新着の感想 ―
うわ〜!!!大変なシリアスな場面とは分かっていつつもこういう世界観とか暗がりでの作戦会議みたいなの好き…!!心の厨二病がワクワクしてしまいます…!みんなかっこいいぞ〜!! 野狐禅さんが異世界の医術を知…
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