そのままのお前でいい(最悪版)
「っていうか、お前、強くなりたいって枯賀快炎の仇討ちか?」
私はぶんぶん首を横に振り、空を指さす。
守りたいものを守るために、私は、高みを目指す。
「根性だなぁ……いい心構えだ。太陽をぶった斬ってみたいのか‼ バカの発想だが、俺は好きだぜ」
違うけどまあいいや。
「仇討ちじゃねえなら言うけどよ、枯賀快炎は、あやかしに食われて、あやかしになったわけ、普通はな? あやかしに食われても、食われるだけなんだよ。お前らが草とか木の実煮たやつとか、わざわざ洗って……炊くだろ、死にかけの人間は柔くしとくやつ」
多分それ木の実じゃなくて米……ご飯ですね。
あと、こうして酒呑童子……あやかしの言語を聞いていると、価値観の違いを思い知る。
老人を死にかけの人間と言ったり。
あやかしは老いることがない。老人に対して思うのは「老いてる」よりも死に近い存在と認識しているのだろう。
福野さんみたいに「成体」って言ったりする人間もいるけど。
「その、炊く奴食っても、炊く奴が意思持ってお前をどうにかしないだろ」
しない。というか怖い。食べてたご飯が私を乗っ取るとか、SFとかパニックホラーの導入だし。
「でも、枯賀快炎は、食った妖を自分のものみたいにして、人間の身体はあやかしにくれてやって、自分の意思と異能はあやかしに持ってった、ぽいんだよな。だから、強くしたんだが……皇龍清明に倒されたらしい。野狐禅っていう狐の、変な奴がいるんだけどよ、そいつが言ってた」
どうやら酒呑童子は野狐禅から枯賀快炎の討伐について聞いたらしい。
「お前が仇討ちしたいならさ、お前の相手は皇龍になるが……良かったわ。話がややこしくなるところだった。知らねえだろうが俺ややこしいの嫌いなんだよ」
酒呑童子は安堵の表情を浮かべた。
ややこしいの嫌いそうなのは見てわかる。
5分くらい話すれば、みんな分かると思う。
10分経てば、ややこしいの嫌いなんじゃなくて分かんないんだろ、という感想に落ち着くはずだ。
「俺が皇龍と戦いたいからさ、お前に仇討ちされると困るし、万が一お前が皇龍倒せるくらい強くなったら、俺はお前と戦いたいけど、皇龍とお前にはすんげえ差があるからさ、皇龍がお前を殺しでもしたら、俺は皇龍を強そうでおもしれ―やつじゃなく、強いだろうがつまんねえ奴として潰し殺さなきゃいけねえからよ」
暗い早口で言った後、へっと酒呑童子は笑った。
潰し殺さなきゃいけない、のところ、目がバキバキだった。ホラーかと思った。
バカバカ雑魚雑魚連呼する酒呑童子だが、独自の美学があるらしい。
力に差のある戦いが……いわゆる俺tueeeeとか無双系が嫌いなのかもしれない。
無双系の頂点に立ってそうなのに。
「うーん……どうしようかな」
酒呑童子は空を見上げて考え込む。
今度は教育番組のシンキングタイムみたいな顔だった。ホラーの後、教育番組と寒暖差が激しい。
「あやかしになる、か?」
酒呑童子は、「明日の夕飯どうする?」みたいなテンションで聞いてきた。
「三妖士って言っても、お前怖がらないしさ、さっきみたいにグルグルして、危うく殺しそうにならずに済むし、枯賀快炎は食われてあやかしになったが、俺は普通にお前を、あやかしにしてやれるよ」
私は首を横に振る。
「痛くしない! すぐ済む」
予防注射を進めるまっとうな親のテンションで、酒呑童子は粘りだした。
「お前、あやかしになればいいんだよ‼ そうだ、枯賀快炎はあやかしに食われてもうっすら自我あったし、俺が上手くやれば、多分、お前はお前のまま、そのままであやかしになれるはずだ‼ そのままのお前でいいんだ‼ 大丈夫‼」
酒呑童子は子供みたいに目をキラキラさせる。
やってることは「一緒に犯罪しようぜ」と変わらない。あやかしとの結託だって違法なのにあやかしになったら軍を追われるどころか討伐対象だ。まぁそれに稽古させてた私も私だが。
「お前、あやかしになるって、よくわかんねえ、人を喰うにょろにょろとか想像してんだろ、違う‼ 俺みたいになれる、俺あやかしだから、ほら‼」
酒呑童子はざあっと空間を切り裂くみたいに手を動かした。
すると、額に角があらわれ、魔法少女の変身モノみたいに一瞬で本来の酒呑童子の姿に変わった。
禍々しいオーラを放ちながらも……、
「いける‼ 根性で‼ 俺も一緒にやる! 一人じゃないぞ‼」
熱血教師みたいな説得を始めた。
今まで人間に擬態し霊力を封じていたようだが、正体を現わせばあやかし探知レーダーにひっかかるのではないだろうか。ここ、屯所からそこまで遠くない山だし……。
『緊急‼ あやかし出現‼ 緊急‼ あやかし出現‼ 金槌山にてあやかし出現‼ 強大な霊力を持つ模様‼ 退妖対実地戦闘局員は戦闘局に集合せよ‼ 戦闘局・局長相模‼ 戦闘局・局長相模‼ 警備・防妖・探査局に急行せよ‼ 戦闘局・局長相模‼ 戦闘局・局長相模‼ 警備・防妖・探査局に急行せよ‼ 勝手に現場行かないように』
やまびこみたいに屯所の警報が聞こえるもん。
しかも言ってるの伊能局長だし、明らかに最後、私的な注意が入ったし。
「強大な霊力なんかねえだろ、こんな雑魚に。人間からすれば……違うのか?」
ぼそっと酒呑童子が呟く。お前のことだろと見返そうとして……愕然とした。
酒呑童子の視線の先には、黒い瘴気の塊が浮かび上がっていた。
そこから、あやかし大襲撃と称するにふさわしい、あやかしの群れが、大型小型問わず次々あふれ出てくる。目視で確認できるだけでニ十体以上はいるだろう。それにこうしている間にも次々瘴気から湧き出てくる。




