枯賀快炎の娘
「枯賀快炎の娘だろ……? じゃあお前、ババアの言ってた霊力なんもないほうか? 異能も霊力もねえで、こき使われてたっていう」
どうやら酒呑童子は暮日村で枯賀家の話を聞いていたらしい。熊退治してたし、世間話もある程度躱していたのだろう。
私は首を横に振る。
「枯賀快炎の娘じゃない?」
私は首を横に振る。
「ああ……? ああ‼ あああああああ‼ お前あれか‼ 妹のほうか‼ 姉と妹で、二人って」
私は何度も頷く。
「なるほどな? あ? でも、お前、霊力がねえな。俺から霊力隠せるくらいすげーやつ……でもねえな」
私は頷く。
「だよな‼」
酒呑童子は疑うこともなく相槌をうってきた。「それにお前、バカだし!」と付け足す。
「でもなーんで、お前そんな霊力なくなったんだよ。誰かに取られたのか? でも枯賀快炎の娘くらいの霊力取れるあやかしなんて、俺くらいだろ、俺とってねえぞ、お前どうした? 何があった?」
私は自分の胸から何かとり、床に捨てるジェスチャーをした。
「お前捨てんなよ自分の霊力」
酒呑童子は首をひねり、あきれ顔をする。
「やっぱバカのすることはよく分かんねえな。バカだったら分かんのかな? 悪いな俺の頭が、悪くないばっかりに、お前をわかってやれない。俺はバカじゃないからさぁ、悪い」
酒呑童子は真面目にバカを連呼する。
お前にだけは言われたくないコンテスト、第十位を進呈したい。
「でも、誰でも間違う、特にバカは間違うよな、頭悪いもんな。仕方ねぇ、俺が霊力を分けてやろう」
酒呑童子は「面倒くせえなぁ」と眉間をかきながら私の手首を掴み──、
「あ?」
怪訝な顔をした。
「お前、霊力の回路ぶっ壊れてんじゃん。注ぎようがねえ、ええ、なんだこりゃ」
私の、霊力回路が壊れてる?
私の霊力は、ミヤシロ様に全部注いだ後、刀に絞り尽くされているのでは?
疑問を覚えていれば、酒呑童子は「分かんねえか、分かるように説明してやる」としゃがんだ。
そして指を使い、よく分からない楕円を地面に二つかいた。
「これが俺様、こっちがお前な?」
丸をそれぞれ差す。
これ人型のつもりだったのか。
「こんなふうに、お前も俺様も、霊力を貯めておく器があるんだよ。出したり入れたりな? 」
酒呑童子は自分の楕円の中に、大きく丸を書いた。
そして私の楕円の中にもそこそこの大きさの丸を書くが、すぐにぐしゃぐしゃに潰す。
「お前は、これが壊れてる。この器あやかしにもあるのに……っていうか、お前自分でぶっ壊してねえか?」
酒呑童子はぐいっと顔を近づけてきた。自分で霊力の器壊すわけないじゃん。バカじゃないんだから。
「なんか、霊力注がれるのをやめろーって根性で拒否したとか」
私はバカです。
めちゃめちゃ覚えがある。
ミヤシロ様に霊力を注いだ後、水社家が霊力を注ごうとしたけど私の身体が拒んだ話があった。
「注がれるのが嫌でうるせえって拒んで自分の器を叩き壊したって感じだぞ、お前」
おっしゃる通りでございます。
私はバカ。
つまり私は、自分の持つ霊力をミヤシロ様に注いだあと、水社家の助けを拒み自分で器を叩き壊していたらしい。せっかく水社ママも復活し、ミヤシロ様も元気になったのに戻しては意味ないと思っていたから……無意識のうちにやったのだろう。
つまり刀どうこう以前に、霊力を貯めようがなかったようだ。
「お前、今知ったのか」
私は頷く。
「まぁそうだよなぁ、分かんねえもん。強くねえと、雑魚以前に人間には無理だ。そこらのあやかしでも無理だと思うぜ──三妖士最強の俺くらいだな」
酒呑童子はサッと顔色を変えた。
三妖士を自称したので当然だろう。
まずいことを言った……と思ってそうだが、そもそも私は酒呑童子の正体について知っているし、何なら軍人志望を恐喝していた男に対し、酒呑童子は「俺は鬼だ」と言っていた。バカだと思われたので不問とされていたが、これで二回めなのだ。
「お前、なんで三妖士って言ってんのに怖がらないんだよ」
酒呑童子がポカンと口を開けた。
これ、あれでは。「お前は俺が怖くないのか?」みたいな、異世界ファンタジーあるあるの王道パターンでは。反応に困っていれば、「バカは怖いもの知らずってやつか」と、可哀そうなものを見る目で見られた。
「っていうか、お前、強くなりたいって枯賀快炎の仇討ちか?」




