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第30話 これからの生徒会の話をしよう

ゴールデンウイークっていいよね

「ふぅ……スッキリしたぜ!」

 祐人が晴れやかな顔でトイレから戻ると、さっきまでいなかった青空と早織の二名がいつの間にか席に座り、黙々と仕事に取り組んでいた。

「あぁ! いつの間にか全員揃っているぅ!」

 祐人の妙なテンションにも慣れた様子で、青空が声をかける。

「やぁ、五十嵐君。腕の調子はどうだい?」

「だいぶ慣れてきましたよ! 大体のことは片手でできるようになってきたし。我ながら驚異的な適応能力の高さと言わざるを得ませんね。ダーウィンもびっくり!」

「ふーん。でも片手じゃ不便でしょ?」

 話を聞いていた心が尋ねる。

「確かに不便っちゃ不便ですけど……その分みんな優しくって。ノートをコピーさせてくれたり、掃除当番を代わってくれたり。先生も治るまでは、制服じゃなくてジャージでいいように配慮してくれたし。何というか……利き手が使えなくなって改めてみんなの優しさを実感できたというか……隻腕という現実に身を置くことでしか手にできないものを手にしたというか……」

「……毎度毎度、話の途中で意味不明になるのは何なの?」

「仕様です」

「何じゃそりゃ」

「仕様なんで()()()()()ですね」

「しょーもな」

()()()()()? 上手い! 座布団一枚!」

「ウザっ」

「『ひだりてのほねをおったよ。みんなみんなやさしかったよ』って歌、ありましたよね」

「ねーわ!」

「さて、アイドリングの爆笑トークはこれぐらいにして、生徒会の仕事を始めましょうか」

「はぁ……」

 そう言いつつ自分の席に座る祐人に心はそれ以上は何も言わず、呆れたように溜め息を吐いた。

「よーし! 今日もバリバリ働くぞ! ……って、腕怪我してるから働けないやないかーい! ハーッハッハッハー!」

「ほんとやかましいわね、こいつ……」

 心が吐き捨てるように言う中、青空が指示を出す。

「じゃあ共有フォルダに更新した資料を置いていくから、誤字脱字やおかしな点がないか確認してくれるかい? 確か予備のパソコンが……あったあった」

 青空はロッカーから一台のノートパソコンを取り出すと、積もった埃を払いながら祐人の席に置いた。

「確認にはこれを使ってくれ。パスワードとかは中のメモに書いてるから」

「ありがとうございます!」

 礼を言いつつパソコンを開くと、青空の言葉通り画面枠の右上に付箋が貼り付けられていた。

【ユーザー名:user05 パスワード:P@ssw0rd】

「あれ? ログインできませんよ?」

「できない? パスワードは変えてないはずだけど……」

「打ち間違いじゃないの? ちゃんと書いてある通りに正しく打ったんでしょうね?」

 口を挟んだ心に祐人は答える。

「もちろんですよ。ちゃんとピーアールいちシーユーアットマークって……」

「『Pr1cu@』じゃねーか! そんなパスワード設定しとらんわ! どこが書いてある通りだ!」

「元のパスワードにならって、「@」を入れてるのと「i」を数字の「1」に変えてるところが気が利いてるでしょ?」

「気を利かすな! 何でプリキュアなんだよ!」

「よくプリキュアだと分かりましたね」

「分かるわ! プリキュアの話ばっかしてるからな! どういう高校二年生男子だ!」

「プリキュアなら綴りは『precure』だよ」

 盛大にツッコミを入れる心に対し、早織は冷静に指摘する。そのやり取りに凪雲は楽しそうにクスクスと笑った。

 斯くして生徒会の活動が再び始まった。祐人は指示された資料に目を通しながら、雑談気味に尋ねる。

「そういえば前も資料作ってましたね。やっぱりそういう仕事が多いんですか?」

「まぁね。基本的には今みたいな事務仕事ばかりだよ」

「それに人知れず霧人とも戦ってるんですよね? 生徒会の仕事の他にそっちの仕事もあると考えると、なかなかのハードワークですね」

「もう慣れっこさ。それにそれが僕らの役目だからね」

「そうは言っても大変じゃないですか? 資料を作ったり、霧人と戦ったり、野球部の助っ人をして利き手を負傷したり……」

「最後、君のことになってない?」

「……何か申し訳ないな」

 青空のツッコミを受けながら、祐人はぽつりとつぶやいた。早織が尋ねる。

「申し訳ないって……何が?」

「みんな一生懸命頑張ってるのに、僕はこんな資料のチェックぐらいしかできないなんて……」

「そんなことないよ、助かってるよ」

「そうかなぁ……何か全然役に立ててる気がしないけど。野球部の助っ人だって、結局は試合には出れなかったわけだし。前日に蚊を叩こうとして骨折って、こんな情けない話ある?」

「確かに負傷した経緯はお粗末の一言だけど……」

「そこは否定してくんないの?」

「でも五十嵐くんが助っ人に入ってから、野球部が変わったのは紛れもない事実だよ。それに……私たちだって。五十嵐くんが来てから毎日楽しいよ」

「本当? ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。でもこんな怪我さえしなければ、もっとみんなの役に立てたのに……」

「五十嵐くん……」

「……というわけで! 今の僕がみんなのためにできるナイスなアイディアを考えてきたので発表しまーす! イェーイ!」

「き、急に元気になったね……」

「ぶっちゃけ今までのしんみりムードは、この話をするための振りだからね」

「気にしてると思って気遣ったのに!」

「まぁ、そう気を張らずに気を静めて」

「どーせ、またいつものくだらないことでしょ」

 心が冷めた視線を投げかける。

「おっと? そいつは聞き捨てなりませんね。僕がいつくだらないこと言ったって言うんです?」

「さっきから……いや、初めて会った時からずーーーーっと言ってる。自覚ないわけ?」

「ありまぁす!」

「あるんかい!」

「それで……何なんだい? ナイスなアイディアっていうのは?」

 一向に進まない話を進展させるべく青空が尋ねると、祐人は得意気な顔で答えた。

「お悩み相談をするんですよ!」

「……お悩み相談か」

「まーた突拍子もないことを……」

 青空と心がそれぞれ反応を示す中、早織が尋ねる。

「学校の生徒の悩みを聞くってこと?」

「そう! みんなの悩みを聞いて、解決の手伝いをするんだ。とりあえず話を聞くだけなら、腕怪我してても問題ないし」

生徒会室(ここ)に来てもらうの?」

「そのつもり。一応、生徒会の活動なわけだし。もし悩みを知られたくないって人は、全然匿名でもいいけど。何かこう……箱とか置いて、その中に相談内容を書いた紙を入れてもらったりしてさ」

「それで解決できなかったら?」

「ほら、悩みって人に話すだけでも楽になるって言うじゃん? もちろん最終的には解決できれば一番いいけど……でも解決できなかったとしても、それでみんなが少しでも前向きになってくれたら、やる意義はあるんじゃないかなって。生徒会のみんなのためにもなるし」

「私たちのため……?」

「みんなは生徒会の仕事に加えて日夜、霧人と戦ってる。でも僕は戦うことができない。何の力もないから」

「そ、それは……」

「それが僕たちの役目だからね。君が気にすることじゃないよ」

 口ごもる早織の代わりに青空が答える。

「それは分かってます。でもみんなが命懸けで戦ってるのに、僕だけ何もしないのは申し訳ないというか、フェアじゃないというか……同じ生徒会の一員として、僕にも何かできないかと常々考えてたわけですよ」

「それと悩み相談がどう繋がるっての?」

 心が尋ねる。

「前に『霧人は人の負の感情から生まれる』って言ってましたよね? そこで僕は考えました。『それなら負の感情を無くせば、霧人も現れなくなるのでは?』と」

「……それで悩み相談ってわけ?」

「そうです。みんなの悩みを聞いて負の感情を元から取り除いていけば、霧人の出現も減るはず。要は霧人が発生する前に元を断とうってわけです。どうです? ナイスなアイディアでしょう?」

「何とまぁ、単純(ナイス)なアイディアだこと。それで霧人がいなくなれば言うことなしね」

「私は……やってもいいと思います。生徒会の活動としても違和感ないですし」

 皮肉交じりの心とは対照的に、早織は納得した様子で祐人の考えに同意する。

「それに……せっかく五十嵐くんが考えてくれたんだから……」

「広瀬さん……!」

「まぁ……それで霧人がいなくなるとは思えないけど……」

「広瀬さん?」

「……青空、あんたはどう思う?」

「いいんじゃないかな。それがみんなのためになるんだったら」

「……(コクコク)」

 青空の言葉に凪雲も同意を示すように大きく頷く。

「……ま、好きにすれば」

 三人の反応を見た心はそれ以上の言及を諦め、投げ遣り気味につぶやいた。

「よーし! じゃあ今日からさっそくお悩み相談スタートだ! とりあえず何かあります? 悩み」

「後輩がウザくて困ってる」

「そんな後輩がいるんですか?」

「お前だ、お前! 自覚ないわけ!?」

「ありまぁす!」

「あるんかい!」

 放課後の生徒会室には、いつものように心のツッコミの声が響くのだった。

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