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【ソラリスの星典】〜狼少女と旅をする異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第一章 守るものあれば強く、
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8/15

第8話『創星樹時代』

これでやっと、魔法について調べることができる。


「フルムちゃん、お話ししながら魔法について勉強しよっか。


 ソラリスターコード、左のページで翻訳を——右のページで魔法の歴史とその体系について表示して」


 星典は召喚に応じ、白紙のページに文字を浮かび上がらせ始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

グンキート ウト ルェザトゥ ジクマ イダツス


(話す 保持 一緒 魔法 学習)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「グンキート ウト ルェザトゥ ジクマ イダツス」


「フルム イダツス!! トーワ ソライス?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

学習 何

(イダツス トーワ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ソラリスターコードは、この本の名前だよ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ソラリスターコード クフ イムネ

(ソラリスの星典 書物 名前)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ソラリスターコード、クフ イムネ」


「クフ イムネ ソラ!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

書物 名前

(クフ イムネ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「(笑)……可愛らしい名前になったね。それじゃあ、一緒に魔法の勉強をするよ?」


 僕たちは木陰に入り、濯いだフルムの上下の服を木の枝に引っかけて干した。それから二人で芝生に腰を下ろし、木の幹にもたれながら本を眺め始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 魔法とは、惑星ソラリスの大気中に含まれる魔素を利用した神秘的技術の総称です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なるほど、酸素みたいに魔素も大気中に存在するんだ」


「フルム、アテレ ドリー トンキャ……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

文字 読解 不可能

(アテレ ドリー トンキャ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 彼女は文字が読めず、目をうるうると潤ませて今にも泣きそうになっていた。


「大丈夫だよ。僕が代わりに教えてあげるから」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

トンド イロウ

(否定 憂慮)


ドッツネイ チーテ イア

(代わり 教える 私)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「トンド イロウ、ドッツネイ チーテ イア」


「トゴ……トイ トーワ ズダ イセ クフ?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

了解 何 言う 書物

(トゴ トーワ イセ クフ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「本には、魔素を燃料として魔法が使えるって書いてあるよ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ルエフ アムナ ジクマ グンジュ クフ イセ

(燃料 魔素 魔法 使用 書物 言う)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ルエフ アムナ ジクマ グンジュ、クフ イセ」


「ルオ トア ドンタスアダ トンキャ イア……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

全て 理解 不可能

(ルオ ドンタスアダ トンキャ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「大きくなったら分かるようになるから、心配しなくても大丈夫だよ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

トンド イロウ ウログ タイレ ドンタスアダ ナク

(否定 憂慮 成長 後 理解 可能)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「トンド イロウ、ウログ タイレ ドンタスアダ ナク」


「ケオ!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

同意

(ケオ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 続いて、星典は『魔法の起源』についての記述を始めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 “魔素”は、【世界樹】によってのみ生成される特異な物質です。


 加えて、この【世界樹】は、もともと惑星ソラリスに自生していた植物ではなく、惑星ソラリスに飛来した隕石によって持ち込まれました。


 【世界樹】は初め、隕石の内部で【星喰いの朱子せいぐいのしゅし(ピオネア)】として休眠状態にありました。


 しかし、【星喰いの朱子】は惑星ソラリスに墜落した際の衝撃と、墜落地点の水に恵まれた環境によって発芽を開始しました。


 それから【星喰いの朱子】は、光合成によって養分を生み出し、その身に栄養を蓄えながら、気の遠くなるような年月をかけて雲海に達するほど巨大な【世界樹】へと成長しました。


 その後【世界樹】は葉を生い茂らせ、無数の枝を伸ばし、“魔素”を主な構成要素とする【星果ての禍日せいはてのかじつ(ガデンフラウド)】を実らせました。


 【世界樹】の近くに生息していた原棲生物たちは、その“魔素”を大量に含んだ【星果ての禍日】を食べるようになりました。


 しかし、原棲生物たちには【星果ての禍日】の種子を排出することはできても、“魔素”を分解・排出する能力がありませんでした。


 “魔素”は原子構造上、互いに引き合い、結合すると結晶化して“魔晶石”となる性質があります。


 そのため、【星果ての禍日】を食べた原棲生物たちの体内では、“魔素”を材料として“魔晶石”が形成されていきました。


 この症例は「魔素凝結石化症(MCO:Mana Crystallized Ophiracy)」といいます。


 原棲生物たちの体内で長い歳月をかけて生成された“魔晶石”は、血管や気道、臓器などの主要な内部器官を圧迫するほど肥大化し、最終的には循環障害や器官不全を引き起こして、その命を奪いました。


 原棲生物たちの死骸は、半径約100キロに及ぶ広大な範囲に張り巡らされた【世界樹】の根系によって分解・吸収されました。


 そして【世界樹】は、互いの根圏が重ならないよう一定の間隔を保ちながら大地に根を張っていきます。


 そうして【世界樹】は、わずか1000年余りという短期間で瞬く間に惑星ソラリス全土を覆い尽くしました。


 この【星喰いの朱子】が隕石によって運ばれ、後に【世界樹】となって惑星ソラリスの生態系の頂点として君臨し続けた時代を、【創星樹時代】といいます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「――この世界には【世界樹】という外来種の植物がいて……その【世界樹】が繁栄した時代を【創星樹時代】という……と。


 それにしても、【世界樹】の生存戦略には驚かされるな……。


 でも、ちょっと待って。魔素を誰も分解できないのなら、生き物は全部絶滅しない?


 ――あ、いや、海の生物がまだ残ってるから大丈夫なのか……?」


 先ほどからやけに静かだと思ったら、フルムは僕にもたれかかり、気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「フルムちゃん、寝ちゃった……」


星典は、さらに記述を続けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「魔素凝結石化症」に起因する死は、いかなる生物種においても生殖期以前には発現しません。


 「魔素凝結石化症」の発症には少なくとも10年以上の時間を要するため、【星果ての禍日】を食べたすべての原棲生物は、本症に罹患しながらも繁殖活動を行うことが可能です。


 加えて、湖畔や海洋などの水中領域も【世界樹】の生息圏内であり、【世界樹】は海底や湖底に根付き、地上と同様に大樹を形成します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なるほど——継続的に栄養を摂取するための合理的な戦略なんだね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【世界樹】の繁栄が栄華を極めて約1000年が経過した頃、惑星ソラリスにおいて唯一【世界樹】の天敵となる生物が出現しました。


 その生物は【星樹の碩竜始せいじゅのせきりゅうし(プログニトドラコナム・エンデュラデボアボルマステラプト)】という名の、有鱗種の始祖とされる原棲生物です。


 【星樹の碩竜始】は【世界樹】の到来以前、原棲生物たちの死肉を唯一の食糧としていました。


 しかし【世界樹】の登場によって、原棲生物たちの死骸は急速に大地へ吸収され、唯一の食糧だった死肉さえ口にできなくなっていきました。


 そこで【星樹の碩竜始】は、その苛烈な環境変化に適応するため、鋼鉄にも等しい硬度を持つ【世界樹】の樹皮を齧って摂食する食性へと進化しました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おぉ……ここから時代の主役が【世界樹】から【星樹の碩竜始】に変わっていくんだね。


 でも、何で【星樹の碩竜始】は【星果ての禍日】を食べなかったんだろう。


 今となっては食べなくて正解だったんだろうけど、他の原棲生物たちは普通に食べてたわけだし……何でなんだろう」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 国際神代文明考古学会の見解では、【星樹の碩竜始】は体長約二メートルと、他の原棲生物に比べて小柄だったため、縄張り争いに敗れ、果実を得られなかったものと思われます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「体長約2mで小柄ってことは、他の原棲生物たちはそれ以上に大きかったんだ。


 それで縄張り争いに負けて、パンダみたいに本来は肉食なのに、仕方なく笹を食べるようになった……みたいなストーリーがあったんだね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【星樹の碩竜始】は、【世界樹】の樹皮を食糧とすることで、次第に“魔素”への耐性と分解能力を獲得していきました。


 これは、【世界樹】の樹皮に含まれる“魔素”をエネルギーへ変換する細胞小器官【マギリスドリア】を、樹皮とともに摂取したことが大きな要因とされています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「確かに、生物は自分が生産する毒で死んだりしないからね。


 当然、【世界樹】にも魔素という毒を分解・無毒化する仕組みがあったわけか」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【星樹の碩竜始】は、こうして【世界樹】の樹皮という尽きることのない食糧を確保しました。


 しかし、彼はその時代の頂点捕食者ではありませんでした。


 そのため、食物連鎖という絶対的な自然法則によって、【星樹の碩竜始】は自身より上位の原棲生物に捕食され、彼が獲得した“魔素”を分解・無毒化する能力は他の原棲生物たちへと受け継がれていくことになります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そうなんだぁ……でもちょっと切ないね、それ。


 まぁでも、弱肉強食ってそういうことだもんね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【星樹の碩竜始】の捕食者の中には、すべての真人系種族の祖先にあたる類人猿が含まれており、その【星樹の碩竜始】を食べた類人猿は、【マギリスドリア】を体内に取り込み、“魔素”分解能力を獲得するに至りました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁー、そうやって人は魔素分解能力を獲得したんだ。


 【星樹の碩竜始】がいなければ、この世界の人間は永遠に“魔素”に苦しみ続けることになっていたと思うと、【星樹の碩竜始】には頭が上がらないね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 “魔素”を分解する能力を獲得した類人猿は、かつて原棲生物たちに独占されていた【星果ての禍日】を積極的に摂取するようになりました。


 類人猿は、この果実に含まれる高濃度の“魔素”を体内で安全に分解・吸収し、単なる代謝エネルギーとして利用するだけでなく、“魔素”に適応する形で変容した脳の神経系【魔導野】から分泌されるホルモン【マギシン】と結びつけ、体内を循環させることで、“魔力”そのものを生成・操作する器官系へと進化を遂げていきました。


 このようにして、“魔力”を生成・操作できるように進化した直後の類人猿を【神人】と呼称します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「——完全には理解できてないけど、人は進化の過程で“魔素”を利用できるようになったんだね!


それにしても、“神人”って名前は格好いいな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 “魔力”を獲得した【神人(類)】は、その“魔力”の使い道を模索し、試行錯誤の末に【魔法】という神秘的な技術を発明しました。


 彼らはその後、【世界樹】の周囲を縄張りとしていた原棲生物たちを追い払い、【星果ての禍日】を独占するため、そこに集落を築きました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……凄いな。“神人”が魔法を発明したんだ。


ただ——果実を独占するあたりは全然神らしくないけど……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【世界樹】を囲むように集落を築き、その【世界樹】を中心に形成された森で暮らす【神人】は、後に【星樹族】と呼ばれるようになりました。


 そしてここから、【星樹族】を祖として人の種族が枝分かれしていくことになります。


 【星樹族】の者のうち、【世界樹】を離れて都市や国家を築いた者たちは【真人族】となりました。


 他の種族についての説明は省略しますが、【星樹の碩竜始】が“魔素”分解能力を獲得し、類人猿から進化した【神人】の一族【星樹族】から【真人族】をはじめとする複数の種族へと種分化していった時代を【星別時代】といいます。


 以上が、人が【魔法】を習得するに至り、【真人族】へと進化していった大略の歴史になります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「類人猿が神人になって、神人が星樹族になって、星樹族が真人族になって――今に至るって感じかな?


 だいぶ詳細を省いてくれたんだろうけど、それでもこの情報量は一回じゃ覚えきれないね」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次に、【魔法】の体系について説明します。

……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 気づけば辺りは赤く染まり、夕陽が夜の到来を告げていた。


「——もう夕方か。その話は、また明日聞くよ」


 僕は木の枝に干していたフルムの服を取り、そばで眠っている彼女にそっと着せた。


 代わりに、それまで彼女に着せていた僕の服とフルムの服を交換する形で、僕は上着を身につける。


 それから、水筒の水が少なくなっていたので、水を補充することにした。


「――熱っ!」


 ドラゴンの鱗に小川の水を溜め、その水が沸騰したら、水筒でグツグツと煮えたぎる湯を掬う。


 掬う時は細心の注意を払う必要があるが、いくら注意していても、沸騰した湯が跳ねたり、水筒の外側に触れたりしてしまう。


 その程度の火傷は、もはや避けられないものとして受け入れるしかなかった。


「ふぅ……水の補充終わった。水を補充するだけでも一苦労だ」


 気づけば夕刻は過ぎ去り、夜の到来とともに辺りは一際深い静寂に包まれていた。


 僕は月光に照らされた芝生を眺めながら、静かに眠りについた。

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