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【ソラリスの星典】〜狼少女と旅をする異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第一章 守るものあれば強く、
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第6話『自由への試練』

僕はなんとか、その不吉な憶測を飲み込んだ。


「何となく——その魔法については分かった……。この子は、僕と出会う前に、どこかで——この支配の刻印を刻まれてしまったんだね。それはもう仕方がない。

 ……じゃあ、その刻印を消す方法ってある?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 はい、存在します。グラクシア(赫鎖印)保持者に対して神聖魔法【リベリオン(還祈)】を使用することで、グラクシア(赫鎖印)を含む低級魔法印を抹消し、深淵魔法【グレアネクス(赫鎖)】を完全に無効化することが可能です。


 また、術者の生命活動が停止した場合、グラクシア(赫鎖印)及び、低級魔法印そのものは残留しますが、深淵魔法【グレアネクス(赫鎖)】の効力は失われます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「また神聖魔法か……。でも、魔法なんて使えないし——どうしよう……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 魔法の習得・獲得・覚醒は、大脳魔導野不全症に罹患している場合を除き、いかなる種族であっても可能です。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……その、大脳魔導野不全症っていう病気が何なのかは分からないけど、僕でも魔法を覚えられる可能性はあるってこと……?

 もし覚えられるなら――さっき言ってた神聖魔法を覚えたいんだけど」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 神聖魔法は、熟練した魔導士であっても習得が困難であり、その原理および本質を理解した者のみが扱える魔法であるとされています。

 

 そのため、まずは【魂炎の知覚(魔力知覚)】を行い、原四属性魔法の習得から始めることを推奨します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱり、いきなり神聖魔法は無理だったか……。

 んー……ほとんど何を言っているのか分からない……。


 まず、その【魂炎の知覚】って何? どうすれば【魂炎の知覚】ができるの?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【魂炎の知覚(魔力知覚)】は、魔力を操作可能にするために必ず通過しなければならない最初の儀式であり、魔法の習得においてこの儀式を省略した前例は一例も存在しません。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……なるほど。これは【魂炎の知覚】の説明か。


 ――魔法を習得するには、まず魔力を扱えるようになる必要があって、そのために【魂炎の知覚】という儀式を行うってこと……?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その通りです。【魂炎の知覚】という儀式は、統計上、四十八時間から百時間の絶食を伴います。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「え……絶食!?

 百時間って言ったら……丸四日間!?

 ――つまり、最低でも四十八時間は絶食確定ってこと? えぇ……。そんなの耐えられるかなぁ……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 帝国正規魔導士資格保持者一三二万七八〇五名を対象とした統計によれば、儀式【魂炎の知覚】が完了するまでの平均所要時間は約八十時間です。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「平均が八十時間……。日数にして三日強か……。

 三日間の絶食でもかなりキツいと思うけど……。

 ――そもそも、何で絶食なんてするの?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 儀式【魂炎の知覚】は、生来、真人系種族に備わる魔力生成機能を活性化させるために行われます。


 絶食によって擬似的な飢餓状態を作り出し、五感の鋭敏化を促進することで、日夜生成・排出され続ける体内魔力の知覚可能性を向上させます。


 やがて飢餓状態が極限に達すると、すべての魔導士に共通する【魂炎(魔力源流)に触れる】という神秘体験を経験します。


 この神秘体験は、後年の魔術研究によって、飢餓状態に起因する一種の幻覚症状であることが明らかになりました。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何それ……。幻覚を見るまで絶食を続けなきゃいけないってこと……?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その通りです。過去の統計上、【魂炎に触れる】という体験を経ることなく魔導士となった者の記録は存在しません。


 加えて、【魂炎に触れる】という体験は神秘体験に分類されており、その内容を他者と完全に共有することは困難である上、再現性も確認されていません。


 儀式【魂炎の知覚】について、著者ガレウス=ヴェルナードは『魔法への信仰なくして到達できる境地ではない』と述べています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「魔法への信仰か……。

 確かに——習得できるかどうかも分からないものに命を懸けるのは、一種の“信仰”と呼べるかもしれない。


 ——儀式に絶食が不可欠なのは分かったけど、水は飲んでもいいの?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 水分摂取が飢餓状態の維持に深刻な影響を与えたという研究論文や報告は、竜胤暦二一〇〇年時点では確認されていません。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……うん、水は飲んでもいいってことね。流石に水まで禁止だったら、本当に死んじゃうか……」


僕は心の中で、自分自身に問いかけた。


 何のために、数日間もの絶食を自ら進んで行い、魔法を習得しようとしているのか。


答えは明白だった。


 目の前の幼い少女が、真に自由となるためだ。そのためであれば、数日間の絶食など大したことではない。


僕は決意を固めた。


「——よしっ!


 今から……儀式【魂炎の知覚】を始める!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

契約者様の幸運を祈ります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 星典はそう淡々と言葉を残し、空気に溶けるように再び姿を消した。

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