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【ソラリスの星典】〜狼少女と旅をする異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第一章 守るものあれば強く、
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5/15

第5話『隷属の烙印』

「これは、何を意味する模様なんだろう……」


 僕は彼女の背中に刻まれた黒い幾何学模様を見つめながら、その意味について考え込んでいた。


「ラザーフ クッビ、テイ トンー?」


「ごめんね、もう少しだけ見せて。んー、本に聞いたら何か分かるかなあ。——ソラリスの星典、出てきて」


 狼少女は、もじもじしながら、尻尾をゆらゆらと揺らしている。


 ソラリスの星典は僕の呼びかけに応じ、僕の前に出現した。


「彼女の背中に刻まれた模様について調べたいんだけど、参照できるものはある?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 解析対象の詳細をお伝え頂ければ、収録情報内に存在する類似意匠との照合を開始します。それとも、『光子検索』を使用しますか?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……ん? 『光子検索』……って何?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 光子検索とは、ソラリスの星典が保有する一機能です。ソラリス・アイと神聖魔法【イルミア(光茫)】を同時使用し、視覚情報の読み取り、解析、検索、記録を実行します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「神聖……魔法……? ――『魔法』って何だろう……。まあ、それについては後で調べよう。今はとにかく、この模様を調べないと……。


 ええと、原理はよく分からないけど、その『光子検索』っていうのを実行して」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

了解しました。ソラリス・アイを起動します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――パタン。


 すると本は独りでに閉じられ、そのまま重さに耐えられなくなったかのように、ぽちゃんと小川へ落下した。


「ああっ!! 本が濡れる!!」


 僕は慌てて小川へ手を伸ばし、水底に沈んだ本を拾い上げた。


「うわ、ビショビショ……あれ? ……全然濡れてない。何で……?」


 川に落ちて濡れたはずのその本は、拾い上げても一滴たりとも水を含んでおらず、まるで撥水加工でも施されているかのように、全ての水滴を弾いていた。


「——手触りは完全に紙なのに……」


 そうして本の表紙を眺めていると、縁が金色に装飾された眼球が一つ、表紙の中心からにゅるりと生えてきた。


「これが、ソラリス・アイ? ……なんというか、結構おぞましい見た目だね……」


 ソラリス・アイは遥か上空を見上げながら、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。


「ええっと、これを模様に向ければいいの?」


 僕は本の表紙に生えた眼球を、狼少女の背中へ向けた。

 さらに左手で彼女の髪をそっと持ち上げ、模様が隠れないように避ける。


――キィィィィン。


澄んだ機械音が響いた。


 次の瞬間、眩い光とともに、白い文字で描かれた魔法陣がソラリス・アイの前方へ展開される。


 さらに魔法陣はソラリス・アイと平行を保ったまま、ゆっくりと縦回転を始めた。


「……!? トワ!?」


 背後から響いた機械的で奇妙な音と光景に、彼女は驚きを隠せない様子だった。


——シュゥゥゥゥン……パチンッ……。


 微かな駆動音が尾を引くように消え、やがて小さな音を残して途切れた。


「あれ……もう終わった?」


 本から発せられる異様な音とともに魔法陣は消失し、ソラリス・アイは役目を終えたかのように目を閉じた。


 その直後、ソラリスの星典は再び僕の手を離れ、空中へ浮かび上がると、ページを開いて言葉を紡ぎ始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 光子検索の結果、対象パターンは深淵魔法【グレアネクス(赫鎖)】の低級魔法印と一致しました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「深淵魔法グレアネクス……魔法印? これも何かの魔法ってこと……?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 深淵魔法【グレアネクス(赫鎖)】は、主に下級民、賎民、罪人、奴隷などの身分にある者へ使用される魔法であり、特級帝国統制下魔法に指定されています。

 魔法行使者が対象へ赫鎖印を刻み、その印を通じて音声命令を強制することを目的とした支配の魔法です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……罪人や奴隷に使われる……支配の魔法……」


「ラザーフ クッビ、デンー? フナイ?」


「あ、ごめんごめん。ありがとう。もう大丈夫だよ。遊んでおいで」


 彼女は終始、訳も分からないまま、じっと動かずに僕の作業へ付き合ってくれていた。


 僕は感謝の意味も込めて、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。


 彼女はしばらくされるがままになった後、再び川での水遊びへ戻っていった。


「——あっ! 服を洗うの忘れてた!」


 僕は慌てて彼女の着ていたボロ布を拾い上げ、川の水で濯ぎ始めた。


その間も、ソラリスの星典との対話を続ける。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 前述の説明を要約すると、深淵魔法【グレアネクス(赫鎖)】とは、術者と被術者の間に主従関係を構築し、術者が被術者を支配するための魔法です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「――支配するための魔法……?」


僕の手が止まる。


それって、つまり――

 

彼女の背中に刻まれていたあの印は。

 

確かに――奴隷の証だったのだ。

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