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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第40話『森に潜む見えざる毒』

 街へ向かう準備を進める中、ロアはドラゴンの鱗を持ち運ぶため、格納魔法を習得した。


 これで街へ向かうための準備がまた一つ整った――と思われた。


 しかし、格納魔法の習得に夢中になっている間に、いつの間にかフルムの姿が消えていた。


 一体、彼女はどこへ行ったのか――。


 そして、森の中でフルムは、一体何をしているのか……。


           *


 僕はフルムを探すため、すぐさま洞窟を出発した。


 しかし、闇雲に探し回っても、この広い森の中では恐らく彼女を見つけられない。


 そこで僕は、まず背の高い木に登り、フルムの姿を上空から探すことにした。


 近くで一番高い木の頂上まで登り、遠くを見渡していると――視界の端に、小さな影が高速で駆けているのが見えた。


「――あ、いた!


 フルムちゃんは……何かを追いかけてる?」


 彼女は恐らく、何かの生き物を追い回しているのだろう。


 けれど、フルムに追われている生き物が何なのかは、遠くからでは全く分からなかった。


 そもそも、本当に何かを追いかけているのかすら判別できない。


 フルムは物凄い勢いで、森の木々の隙間を縫うように移動していた。


 それから僕は、フルムのおおよその位置を把握すると、すぐさま木から飛び降り、彼女のいる方向へ走り始めた。


 百メートルほど走ったところで、遠くからフルムが走り回ることで巻き上がった土煙が見えた。


 さらに、木から木へと飛び移っていく音も聞こえてくる。


 けれど、その姿を目で追うことすら難しいほど、フルムは高速で移動していた。


「――フルムちゃん!?


 ああ、もう見えなくなっちゃった……。


 ——僕も走らないと、あれは追いつけないな」


 そこで、僕は足に魔力を集め、土煙の上がった方へ勢いよく駆け出した。


 ――シュウンッッ!!!


 全速力で森を駆け抜ける。


 樹の幹に激突しないよう樹々を避け、凸凹した地面に足を取られないよう跳ねる。


 そうして、僕が全力で走り始めてから数分後。


 ようやく、爆走するフルムの後ろ姿を捉えることができた。


 彼女は左手に鞘、右手に剣を握り締めたまま、木々の間を駆け抜けている。


「――フルムちゃん! 何を追いかけてるのー!」


 僕は風を切る音に声をかき消されないよう、大声で彼女に呼びかけた。


 するとフルムは、追いついてきた僕の存在に気づき、一瞬だけこちらを振り返った。


 そして、彼女は何かを叫んだ。


「ロア ラザーフ クッビ!! ナスケ ダヌオウ!!」


 しかし、僕には彼女が発したその言葉の意味が、さっぱり分からなかった。


「――え? ごめん、全然分かんない……」


 けれど、その時、僕はひっそりと輝いていた彼女の目の変化に気づいた。


 その瞳は魔力を帯び、ルビーのような赤い輝きを放っている。


 フルムは僕の存在に気づいた後も足を止めることなく、ひたすら森の中を縦横無尽に駆け回っていた。


 よくよく彼女の動きを観察してみると、思いつきで森を闇雲に走り回っているわけではないことが分かった。


 やはり、フルムは何かを追いかけている。


 それに――姿は見えないものの、地面には長細い何かが這いずったような跡が、薄く残っている。


 けれど、フルムが高速で追跡しているであろう生き物の姿は、依然として見えない。


 そこで僕は、先ほどフルムの瞳が魔力によってルビー色に輝いていたことを思い出した。


「そういえば、フルムちゃん――目が赤く光ってたな……。


 ――もしかして、魔力を目に集めないと見えない生き物……?」


 僕は足だけではなく、身体に巡らせていた魔力を目へと集束させた。


 すると――。


 フルムの視線の先に、長細く輝く霧のようなものが見えた。


 その中に、一匹の灰色の蛇が浮かび上がった。


「――蛇だ! 蛇がいる!」


 追跡していた生き物の正体が分かると、僕はすぐさま蛇の進行方向へ先回りした。


 そして、蛇の前へ立ち塞がる。


 すると蛇は、僕ではなくフルムへ向かうように進行方向を変えた。


 そして――口から毒を吐き出す。


 その直後、自ら吐き出した毒を浴びながら、フルムへ飛びかかった。


 フルムはすぐさま横へ飛び退く。


 蛇はその勢いのまま木の幹へ飛び移り、そのまま上へ逃げようとした。


 僕は近くに落ちていた石を拾い上げる。


——ピシュンッッ!!!


 蛇が登っている木の幹目掛けて、石を投げつけた。


 ――コーンッ!!


 乾いた音が響き、小石が木の幹へめり込む。


 しかも、小石がめり込んだ場所は、蛇の目と鼻の先だった。


 突然の小石の飛来に、蛇の動きが一瞬だけ止まる。


「——ヤァッ!!!」


 その隙を見逃さなかったフルムが、手にしていた剣を槍のように蛇目掛けて投げつけた。


 ――ザクッッッ!!


 剣が蛇の胴体へ縦に突き刺さる。


 けれど、蛇はまだ息があるらしい。


 何とか逃げようと身体をくねらせ、剣から抜け出そうとしている。


 しかし――。


 やがて頭が力なく垂れ下がり、胴体を剣に貫かれた蛇は、そのまま動かなくなった。


 フルムは蛇が完全に動かなくなったことを確認すると、蛇が刺さったままの剣を引き抜いた。


「——チオグッ!!」


「フルムちゃん、蛇捕まえてたんだね」


「ラザーフ クッビ、シフタ トーイ チ!!」


「……トーイ? これ、食べたいの?」


 フルムは蛇が刺さった剣を振り回しながら、口をパクパクとさせている。


「まぁ、ちゃんと焼けば食べられると思うよ」


「フルム シフタ トーイ!!」


「とりあえず、洞窟へ戻ろっか」


 僕たちは蛇を捕まえるため、洞窟からかなり離れた場所まで来ていた。


 そこで僕は木の上へ登り、拠点である洞窟までの道のりを確認してから、フルムと一緒に洞窟へ戻った。



 洞窟へ戻ると、フルムから蛇を突き刺したままの剣を受け取った。


 僕は剣を蛇から引き抜くと、魔力で生成した水を使って刀身を洗浄する。


 洗浄を終えた剣をフルムへ返す。


 するとフルムは、まだ鞘の扱いに慣れていないのか、僕が握ったままの剣に鞘を持っていき、刀身を鞘へ収めようとする。


 やがて剣を鞘に収め終えると、それを地面に置き、今度は地面に胡座をかいている僕の足の上へちょこんと座ってきた。


「今から蛇を調理するから、少し待っててね?」


 僕はフルムの頭を撫でながら、蛇の洗浄に取り掛かった。


 剣を洗浄した時と同じように、魔力で生成した水を蛇の全身へ浴びせ、皮膚に付着しているであろう毒や土を洗い流していく。


 蛇を洗い終えると、僕は魔力で蛇を宙に浮かせ、そのまま生成した火で焼き始めた。


 やがて蛇の皮がパリパリに焼き上がったのを確認すると、僕はこんがりと焼けた蛇を、足の上に座っているフルムの口元へ運ぶ。


 目の前に焼き上がった蛇が運ばれてくると、フルムの目がキラキラと輝いた。


 そして――。


 蛇の胴体へ勢いよくかぶりついた。


 フルムは鋭い牙で蛇の肉を引き裂き、噛みちぎりながら美味しそうに頬張っている。


 僕はというと、フルムが蛇を食べ終えるのを待ってから、洞窟内で冷凍保存していた肉のブロックを一つ解凍し、それを食べた。



 

 やがて二人とも食事を終え、温かな陽の光を浴びながら、穏やかな微睡みに身を委ねていた――その時だった。


 ――ビビビビビビッッッッッ!!!!!


 突然、大気がビリビリと震え始めた。


「――なにッッ!?」


「――ラザーフ クッビッ!!」


 フルムが叫んだ瞬間、僕は理解した。


 この空気の振動は――あの漆黒の巨獣が引き起こしたものであることを。


 そして、あの巨獣は――。


 あの夜に繰り広げた死闘――。


 ——その再戦を望んでいる。


 

 僕は深く息を吸い、覚悟を決めた。


 フルムを守りながら、漆黒の巨獣と戦う。


 そして、今度こそ必ず――奴の息の根を止める。


 なぜなら、あの巨獣は恐らく執念深い。


 今日ここで決着をつけなければ、いずれその巨獣の災禍は、必ず巨鹿たちにも及ぶことになる。


 それならば――今日、ここで終わらせたい。


 そう思うと、緊張と不安が込み上げてくる一方で、今の自分がどこまで奴に通用するのか――そんな高揚感が、不思議と胸の奥で膨らんでいた。


 

 フルムもまた、大気の振動に気付いた瞬間、勢いよく立ち上がった。


 そして、力強く鞘を握りしめる。


 今にも巨獣のもとへ駆け出しそうなほど、その姿には戦意が満ちていた。


 しかし、その表情には以前とは異なるものがあった。


 焦りや恐れではない。


 静かに力を蓄えているような、研ぎ澄まされた冷静さだった。


 僕たちは、これからどこへ向かい、何が起こるのか――それを、言葉にせずとも、それとなく感じ取っていた。


 すると――森を、一陣の疾風が駆け抜けた。


 樹々が風に煽られ、枝葉が一斉にばさばさと揺れる。


 それはまるで、これから訪れる災厄を予見し、森そのものがざわめき立っているかのようだった。


 僕たちはただその場に佇み、森を満たすざわめきが収まるのを、静かに待っていた。


           *


 こうして僕たちは、再び訪れた巨獣との因縁に決着をつけるため、次なる戦いへと身を投じることになる。


 ――これは、あの夜の死闘、その再戦の幕開けだった。

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