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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第39話『小さな倉庫』

 傷ついた二頭の巨鹿とフルムを治療する中で、ロアは神聖魔法《エルシェフィア》の新たな性質を知る。


 そして、フルムが新たに手に入れた謎の長剣。


 その剣に秘められた力とは——。


 不穏な静寂に包まれた森で、ロアたちが次にするべきこととは——。


           *

 

 しばらく二人で日向ぼっこをした後、僕はフルムを起こした。


 そして、洞窟内で冷凍しておいた肉のブロックを取り出し、魔法で生成した炎で焼き始めた。


 一つ焼き終えると、僕はそれを魔力で浮かせたまま、フルムの前へ運んだ。


 それから、僕は星典に話しかけた。


「——ソラリスターコード、翻訳して」


 すると、星典が空中に出現し、自ら頁をパラパラとめくり始めた。


「夜どこかへ出かけたくなったら、次からは僕を起こしてね?」


 僕がそう告げると、星典は真っ新な頁に翻訳文を記述し始めた。


———

トナウ オグ エミト タウギン

(希望 行動 時間 夜)


タクセン イアス イア

(次回 言う 私)

———


 僕は星典の翻訳文を、そのままフルムに向けて読み上げた。


「トナウ オグ エミト タウギン、タクセン イアス イア?(夜に行動したい時は、僕に言ってね?)」


 フルムは肉を口いっぱいに頬張りながら、笑顔で答えた。


「——ケオッ!!」


 本当に理解してくれたのだろうかという一抹の不安は残るものの、それを心の奥へ仕舞い込み、僕も肉のブロックを焼いて食事をとった。



 

 昼食を終えると、僕はフルムがずっと大事そうに肌身離さず持っている長剣の鞘作りを始めた。


「よしっ——まずは、長剣が収まるくらいの角材を作ろう」


 僕は近くの樹へ向かい、それを魔法で切り倒すことにした。


 使用する魔法は、以前再現した『ウォータージェット切断』の魔法である。


「魔法の名前、何にしようかな——。


 閃光のような水流——。


 ——だから……『流閃』。これにしよう!」


 僕は右手を樹の幹の真横へ向け、今し方名付けた魔法を唱えた。


《第二階梯 水属性魔法『流閃』!》


 すると、青色の魔法陣が右手の前に展開される。


 そして、金切り声のような音と共に、水のレーザーが樹の幹へ向かって噴射された。


——キィィィイイインッ!!!


 僕は水のレーザーを慎重に左右へ動かし、一本の樹を切り倒した。


 フルムは僕の隣に座り、何をしているのだろうと様子を窺っている。


 次に僕は、丸太を『流閃』で加工し、剣の刀身が収まる厚みの長方形の木材にした。


 そして、次の工程は、その木材に熱した剣を差し込むこと。


 できた隙間に水を入れ、再び熱した剣を突き刺す。

 それを数回繰り返し、剣が滑らかに出し入れできるようにする。


 鞘の作り方としてはかなり原始的だが、接着剤がない以上、この製法を採用するしかない。


 そこで僕は、フルムに剣を預けてもらえるか尋ねた。


「——ソラリスターコード、翻訳して」


星典が目の前に出現する。


「剣の入れ物を作ってあげるから、剣を少しの間だけ借りてもいい?」


 すると、星典は白紙の頁に文字を表示していった。


———

エカム エスアク ドロス

(製作 器 剣)


ナク ウォロブ ドロス トニミム

(可能 貸借 剣 刹那)

———


 僕はそれを読み上げる。


「エカム エスアク ドロス。

 (剣の入れ物を作るよ)


 ナク ウォロブ ドロス トニミム?

 (少しだけ剣を借りてもいい?)」


 フルムは、もぐもぐと肉を咀嚼しながら答えた。


「ンー〜ッッ!!」


 彼女は目を見開き、肯定とも否定とも分からない反応を示しながらも、剣を取って刀身をこちらへ向けた。


「——ありがとう。 少し借りるね」


 僕は魔力を手に集束させ、保護した手で自分に向けられた刀身を握った。


 手が剣に触れた、その瞬間——。


 剣の刀身に、白く発光する文字と記号が浮かび上がった。


「——!? 剣が光った……!?」


 僕は剣の示した特異な反応に驚きながら、剣の柄を握った。


 それでも、刀身に浮かび上がった白い文字は消えない。


 そのまま剣を地面に突き刺し、握っていた手を離す。


 すると、白く発光していた文字が刀身からふっと消えた。


「この剣——魔力に反応してた……?」


 もう一度、魔力を手に集めた状態で剣を握る。


 すると、再び刀身に先ほどと同じ白い文字が浮かび上がった。


「やっぱり、そうだっ……!

 ——魔力に反応して、剣が光ってるんだ!」


 そうして僕は剣を握ったまま、火属性魔法陣を鍔から刀身へ向けて展開した。


 刀身の周囲に炎を生成し、剣を熱していく。


 すると、剣に付着していた血が、熱された刀身から剥がれ落ち、地面へ落ちていった。


 やがて、刀身が赤く染まったことを確認すると、僕は加工した木材へ、刀身がすっぽり収まるよう慎重に突き刺した。


——ボッッ!!


 熱した刀身が木材に接触した瞬間、火が起こり、木材が燃え始めた。


 僕はそんなことには構わず、刀身を熱しながら、鍔が木材に当たるまで剣を差し込んだ。


 そして、鍔が木材に当たったところで剣を引き抜く。


 すると、木材には黒く焦げた細い隙間ができていた。


 次に、その隙間へ水を流し込み、熱した剣を再び差し込む。


 その作業を繰り返すと、剣を熱さなくても、スルスルと出し入れできるようになった。


「よしっ、あとは削るだけ——」


 僕は洞窟内からナイフを取り出し、その木材を鞘の形に削っていった。


 

 そして遂に、フルムの剣を収める鞘が完成した。


 手作り感はかなりあるが、刀身が剥き出しの状態で持ち歩くよりは、ずっといいだろう。


 僕は剣を鞘に収めた状態で、フルムへ渡した。


「はいっ——鞘できたよ。

 ——引き抜いてみて?」


 不思議そうな表情でこちらを見る彼女にそう言って鞘を手渡す。


 フルムは恐る恐る鞘を持ちながら、収まっている剣の柄を握った。


 そして——勢いよく剣を引き抜いた。


「わあッ!!! ナフッ!! ナフッ!!」


 鞘から勢いよく引き抜いた剣を、まるで勇者にでもなったかのように天へ掲げる。


 その瞳は、太陽のようにキラキラと輝いていた。


 そして、満足しきったのか剣を鞘に収めると、それを大事そうに抱きかかえながら僕のもとへやってきた。


「ラザーフ クッビィッ!!

 クナフタ ユイッ!!」


「どういたしまして」


 僕にはフルムの喋った言葉の意味はよく分からなかった。


 けれど、それが感謝を意味する言葉だということは、何となく分かった。


 僕は彼女の頭を挨拶代わりに撫でながら、午後は何をしようかと考えていた。



 

 僕たちの当面の目標は、人里へ降りること。人里へ降りて、ちゃんとした服を買い、まともな食事を摂り、ベッドで眠る。


 衣食住の確保――これが最優先だ。


 彼女の故郷を探すのは、その後だ。


 そのためにも、街へ向かう準備は万全にしておきたい。

 しかし、「準備」といっても、あまりに漠然としている。

 

 そこで僕は、街へ向かうまでに、今のうちに何をしておくべきかを考えた。


「う〜ん……街へ行く前にしておくべきこと、何かあったかな——」


 その時、ふと洞窟の入り口に立て掛けてあるドラゴンの鱗が目に入った。


「あ——そういえば、あれ、どうやって街へ持って行こう……」


 僕は、ドラゴンの鱗をここまで引きずって運んできたことを思い出した。


「魔力で浮かせて持ち運ぶ方法もあるけど——長期的に考えたら、ナシだね」


 常に魔力でドラゴンの鱗を浮かせたまま運ぶのは、現実的ではない。


「——もっと簡単に持ち運べる方法、何かないかなぁ……」


 僕は、ドラゴンの鱗を引きずることなく、簡単に持ち運ぶ手段について思案を巡らせた。


 ドラゴンの鱗の熱に耐えられて、なおかつ、その重さにも耐えられるような袋……。


「あるわけないよね……そんなもの」


 それでも、ドラゴンの鱗は、命の危機を乗り越えた末に授かった特別なものだ。


 それは、ドラゴンと心が通じ合った証でもある。


 そんなものを、ここに置き去りにするのは、どうにも不誠実で、不義理な気がしてならなかった。


 もし持ち運ぶ方法が見つからなければ、この洞窟の地下に埋めて隠しておけばいい。


 そう考えた僕は、ダメ元で星典に尋ねてみることにした。


「……まぁ、でも、聞くだけ聞いてみよう。


 ——ソラリスターコード。

 ドラゴンの鱗を簡単に持ち運べる方法……あれば教えて?」


 すると、星典はその質問への回答を白紙の頁に記述し始めた。


———

 個人で重量物を運搬する場合、以下に示す魔法の使用を推奨します。


———

 

《格納魔法》


 正式分類――現代双軸複合魔法。


 格納魔法とは、異なる性質を持つ複数の魔法陣を重ね合わせた二種類の多重魔法陣を、格納と抽出という用途に応じて使い分けることで、対象物の格納および抽出を可能とする特殊な現代双軸複合魔法です。


 格納魔法には、大きく分けて「格納用多重魔法陣」と「抽出用多重魔法陣」の二種類が存在します。


 格納用多重魔法陣は六枚、抽出用多重魔法陣は五枚の魔法陣から構成されます。


 したがって、格納魔法を完全に運用するためには、二種類の多重魔法陣を用意する必要があります。


———


【格納時】


◆《格納魔法『シュリア(斂)』》


◆格納過程

 ◇魔力補充▶︎魔法陣複製・魔力消費最小化▶︎符号賦与▶︎保護▶︎圧縮▶︎球状処理▶︎状態維持▶︎格納完了


◆魔法陣


 ◇第一魔法陣――霧幻属性魔法陣。

 《霧幻属性魔法『カトプリトア(鏡界)』》


 第二魔法陣から第六魔法陣までを複製し、任意の空間に多層連結魔法陣として展開します。


 さらに、魔力そのものを複製することで、各魔法陣の発動および維持に必要となる魔力消費を最小限に抑えます。


 ◇第二魔法陣――無属性魔法陣。

 《無属性魔法『ノータ(刻識)』》


 対象物に固有の符号を付与します。


 この符号は対象物を識別するためのものであり、抽出時に対象物を指定する際に使用されます。


 ◇第三魔法陣――神聖属性魔法陣。

 《神聖属性魔法『アテレシア(恒劫)』》


 対象物に特殊な魔力を纏わせ、その構造を保護します。


 この保護によって格納物同士の干渉を防ぎ、格納時および格納後における物質同士の接触による損傷を防止します。


 ◇第四魔法陣――深淵属性魔法陣。

 《深淵属性魔法『フォシアドラ(終点)』》


 対象物を一時的に疑似的なブラックホール状態へ移行させ、極限まで圧縮すると同時に、その質量を一時的に隔離します。


 さらに、対象物における時間経過を限りなく零に近づけることで、格納中に生じる経時変化を極限まで抑制します。


 ◇第五魔法陣――無属性魔法陣。

 《戦術補助魔法『アイヒバリオン(法鎧)』》


 圧縮された対象物を球体状に成形し、その周囲を魔力によって充填・固定します。


 これにより、格納空間内における対象物の移動を防止するとともに、格納物に接触した際の負傷を防止します。


 ◇第六魔法陣――無属性魔法陣。

 《汎用魔法『ポスティア(継燈)』》


 保護、圧縮、球状処理を終えた対象物へ継続的に魔力を供給し、球状の格納物の表面に刻印された魔法陣を常時発動状態に維持します。


 

 以上六つの魔法陣を連動させることで、対象物を損傷させることなく極小の空間へ圧縮・格納し、その状態を長期間維持することが可能となります。


———


【抽出時】


◆《格納魔法『エクシア(還)』》


◆抽出過程

 ◇魔力補充▶︎魔法陣複製・魔力消費最小化▶︎対象物選択▶︎映像化▶︎圧縮解除▶︎保護解除▶︎抽出完了


◆魔法陣


 ◇第一魔法陣――霧幻属性魔法陣。

 《霧幻属性魔法『カトプリトア(鏡界)』》


 第二魔法陣から第五魔法陣までを複製し、任意の空間に多層連結魔法陣として展開します。


 ◇第二魔法陣――波渓属性魔法陣。

 《波渓属性魔法『ラエプト(波定)』》


 格納されている対象物の符号を魔力の波長および揺らぎによって識別・確認し、抽出する対象物を選択します。


 ◇第三魔法陣――霧幻属性魔法陣。

 《霧幻属性魔法『アパリュスシア(幻相)』》


 選択された対象物を解析し、その形状および構造を映像として表示します。


 さらに、立体光子像を生成することで、抽出前に対象物の状態を視覚的に確認することが可能となります。


 ◇第四魔法陣――解除用反転深淵属性魔法陣。

 《深淵属性魔法『フォシアドラ(終点)』》


 対象物を圧縮している疑似的なブラックホール状態を解除し、圧縮以前の状態へ復元します。


 ◇第五魔法陣――解除用反転神聖属性魔法陣。

 《神聖属性魔法『アテレシア(恒劫)』》


 対象物に施されている保護を解除し、通常の物質状態へ復元します。


 

 以上五つの魔法陣を連動させることで、格納された対象物を選択し、圧縮状態および保護状態を解除したうえで、元の状態のまま抽出することが可能となります。


 なお、格納中の対象物は完全に時間が停止しているわけではありません。


 時間経過が限りなく零に近づけられた状態にあるため、腐敗や劣化などの経時変化は完全には停止せず、極めて微小ながら進行します。


 また、本魔法には「四印明滅魔力量判定法」が採用されています。


 二種類の多重魔法陣を所定の場所に刻印すると同時に、格納空間として使用する空間へ四印を刻印します。


 四印の明滅状態によって、格納魔法の維持に必要な魔力が不足しているか否かを視覚的に判別することが可能です。

———


 僕は星典の記述から、どうやらドラゴンの鱗を運べる方法があるらしいことを何となく理解した。


 その魔法の存在に期待感を抱く一方で、見たこともない属性の魔法がいくつも登場したことに、半ば困惑していた。


「——格納魔法、そんな魔法があるのか……!

 でも、物を出し入れするたびに、こんな複雑で難易度の高いことをするのって、現実的に可能なの?」


 星典は、その質問に答えるように次の白紙の頁を開き、文字を綴っていく。


———

 格納魔法は、魔法を扱えない一般市民でも使用できるよう想定して開発された魔法であり、本魔法を使用するたびに一から錬成・発動することは想定されていません。


 あらかじめ所定の格納場所に、本魔法を構成する二種の多重魔法陣と四印を刻印しておくことで、使用者は魔力さえあれば、いつでも本魔法を発動し、事物の格納および抽出を行うことができます。


 格納魔法を構成する二種の多重魔法陣と四印の刻印には、魔法陣転写機を使用します。


 魔法陣転写機によって所定の位置に当該魔法陣および四印を転写・刻印することで、格納魔法を使用するための準備が整います。


 なお、魔法陣転写機を所持していない場合は、『ソラリスの星典』に搭載された機能の一つである《ソラリスアイ》を用いた魔法陣転写機能の使用を推奨します。

———


「魔法陣転写——なるほど。

 

 刻印された魔法陣は、誰でも魔力を通すだけで、その魔法陣に対応した魔法を発動できる——つまり、僕でもこの格納魔法が使えるってことか……!


 ……すごいな。

 一体誰が考えたんだ、こんな魔法……」


 僕は星典の説明を受けて、格納魔法は魔法陣の刻印と魔力さえあれば、自分でも使用できるということを知った。


 つまり、あとは魔法陣と四印を刻印するだけだ。


「——ソラリスターコード。

 ソラリスアイで魔法陣転写機能を使って、格納魔法の魔法陣を転写したい」


 僕が星典にそう告げると、星典は自ら本を閉じ、ソラリスアイを表紙から生えるように出現させた。


 そして突然、重力を思い出したかのように、星典は地面へボトンッと落下した。


「——あ」


 どうやらソラリスアイの使用中は、自動浮遊機能が一時的に停止するらしい。


 僕は、そっと星典を拾い上げた。


「えっと、魔法陣転写はこの目の向きでできるの——うわっ、眩しっ……!!」


 ソラリスアイから放たれる光に、僕はすぐさま目を閉じ、ソラリスアイを地面へ向けた。


 そして、ゆっくりと目を開ける。


 すると、ソラリスアイから放たれた光が、二つの魔法陣と四つのダイヤ型の記号となって地面に映し出されていた。


「地面に魔法陣が映し出されてる……!

 あ、袋持ってこないと——」


 僕は急いで洞窟内の部屋から、ボロい麻袋を持ち出した。


 袋の中身を一旦取り出して空にすると、袋を平らにして地面へ置く。


 そして、星典を両手で支えながら、ソラリスアイに映し出されている魔法陣と四印の像を、その麻袋に重ね合わせた。


 位置を合わせたところで、僕は星典に告げる。


「ソラリスターコード——格納魔法の魔法陣を刻印して」


——キュイィイイン!!


 すると星典は高音を発しながら、ソラリスアイの眼前に二つの多重魔法陣を展開した。


 そして、次の瞬間——。


——バシュンッ!


シュウウゥゥゥゥ……


 一瞬、眩い閃光が走ったかと思うと、まるで焼き印でも押したかのように、麻袋へ魔法陣と四印が刻印された。


 瞬時にその部分だけを焼き、同時に熱を奪ったのか、僅かに煙が上がっている。


「……すごい。一瞬だった!」


 僕は魔法陣と四印が刻印された麻袋を拾い上げ、刻印された魔法陣をまじまじと眺める。


 左の魔法陣には、二重の円の中にさらに円が描かれており、その内側と外側の円の間には「>」の記号が連なっていた。


 それらは、内側へ収束するように円状に配置されている。


 一方、右の魔法陣には、二重の円の間に「<」の記号が連なり、内側の円から外側へ広がっていくような構造になっていた。


「これは——どっちの魔法陣が圧縮する魔法かを表してるっぽいね」


 恐らく、左が格納時、右が抽出時の魔法陣だろう。


「——早速、ドラゴンの鱗を袋に入れてみよう」


 僕はドラゴンの鱗を壁から離し、魔力を帯びた右手で格納時の魔法陣へ触れる。


 そして、魔法の名を唱えた。


《格納魔法『シュリア(斂)』》


 詠唱を終えると、ドラゴンの鱗の下の地面に六枚の魔法陣が重なった状態で展開され、稲光と閃光がドラゴンの鱗を包み込んだ。


 やがて光が収まると、魔法陣も消え去った。


 そして、そこには——まるでガチャガチャの景品のように、魔法陣が刻まれた透明なガラス球の中へ、小さく閉じ込められたドラゴンの鱗があった。


 僕はピンポン玉ほどに圧縮されたドラゴンの鱗を拾い上げる。


「これがドラゴンの鱗……?

 あのドラゴンの鱗が、掌サイズになっちゃった……。

 それに、触っても熱を感じないし、重くもない」


 掌に載せたドラゴンの鱗の球体からは、以前それを引きずっていたときに感じていた鉄板のような重さが、微塵も感じられなかった。


 けれど、風で飛ばされるほど軽くもない。


 袋に入れて持ち運ぶには、ちょうどいい重さだった。


 僕はそれを再び地面に置き、圧縮されたドラゴンの鱗を元の状態へ戻せるか試してみることにした。


 今度は、抽出時の格納魔法を唱える。


《格納魔法『エクシア(還)』》


 唱えると、再びドラゴンの鱗の下の地面に五枚の魔法陣が重なった状態で展開され、稲光と閃光がドラゴンの鱗を包み込んだ。


 そして、それらが収まると——。


 ドラゴンの鱗は、元の大きさを取り戻していた。


「よしっ、ちゃんと大きさは戻ったね。


 ——じゃあ、熱さも戻ってる……?」


 僕は熱さを確かめるため、ドラゴンの鱗に触れた。


「熱ッ……うん、熱さも元通りになってる」


 ドラゴンの鱗を元の状態へ戻すと、熱だけではなく、おそらく重さも《格納魔法『シュリア(斂)』》を発動する前と同じ状態に戻るようだ。


 格納魔法の使い方が大方理解できたところで、僕はドラゴンの鱗に再び格納魔法を施し、麻袋の中へしまった。


 ふと周囲を見渡すと、フルムの姿がないことに気がついた。


「……あれ、フルムちゃん。どこ行ったんだろう。


 ——遠くまで行ってないといいけど……」


 僕はドラゴンの鱗を入れた麻袋を洞窟内に置き、フルムを探しに出かけた。


          *

 

 あらゆる物を小さく圧縮し、持ち運ぶことを可能とする格納魔法。


 その魔法を手に入れ、街へ向かうための準備を一つ整えた少年ロア。


 しかし――。


 格納魔法の習得に夢中になっている間に、いつの間にかフルムの姿が消えていた。


 いったい、彼女はどこへ行ったのか。


 そして今、フルムは森の中で――一体、何をしているのか。

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