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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第31話『水底に差す光』

 洞窟で迎えた三日目の朝。

 

 僕とフルムは、先導の巨鹿に導かれ、数頭の子鹿たちと共に近くの河川を訪れていた。


目的は二つ。

水浴びと――朝食の確保だ。


 川辺に到着するや否や、澄んだ水面を目にしたフルムの瞳が、ぱっと輝いた。

 

 そして彼女は、ブカブカの靴と土色に染まった上下の服――もはやボロ切れ同然のそれを河岸に脱ぎ捨て、勢いよく川へ飛び込んだ。


 僕は、彼女が脱ぎ捨てたそれらを拾い上げ、まとめて石の上に几帳面に並べる。


 ふと彼女へ目を向けると、以前目にした――背中に刻まれた隷属の印章が、再び視界に入った。


「あの模様……街へ行くまでに消しておかないとな。


 ――あとで、消す方法をもう一度調べるか」


 そう呟くと、僕は靴を脱ぎ、どうせ濡れるのだからと、服は着たまま川へ身を投げ出した。


――ばしゃん。


 全身の力を抜くと、僕の身体はぷかりと浮かび、仰向けのまま川面を漂う。

 

 まるで水上で日向ぼっこをしているかのように、暖かな陽光を全身で受け止めた。


 僕の顔の横を、一匹の川魚が泳いで通り過ぎようとしている。


 すると、それを見つけたフルムは目の色を変え、魚めがけて一直線に、勢いよく僕の腹へ覆い被さるように飛び込んできた。


 次の瞬間、彼女の重みを受けて、僕の身体はどぼんっと勢いよく水底へ沈む。


 一瞬驚きはしたものの、僕はじたばたと踠かず、全ての音が遠のいた世界で、水面越しに歪む太陽がきらきらと揺れる様子を——ただ水中から眺めていた。


 だが、肺に溜まった空気が、僕の身体を水面へ押し戻そうとする。


 そこで僕は、沈み続けるために――肺の空気を、水中へと吐き出した。


ゴポゴポゴポ――。

 

 吐き出した空気は泡となり、ゆっくりと水面へ昇っていく。


 そして、すべての空気を吐き切った瞬間――首を絞められたような苦しさが、胸の奥から込み上げてきた。

 

 そろそろ水面へ上がるか――そう思った、そのとき。


光に満ちていた水面が、突然陰る。


 次の瞬間――フルムが、浅い川底に沈んでいた僕の身体を勢いよく引き上げ、そのまま川縁の浅瀬まで引きずるように運んだ。


「ラザーフ クッビ!! エラ ケオ!?」


「――っ、はぁ……はぁ……、大丈夫だよ……」


彼女は、不安げな瞳で僕の顔を覗き込んでいる。


 僕は何事もなかったかのように立ち上がると、彼女の頭をそっと撫でた。

 それだけで安心したのか、フルムはすぐに川遊びへ戻っていった。

 

 それから僕は、濡れた服を身につけたまま、自分の靴と彼女の身につけていたものすべてを、川で濯ぎ始めた。


 それらを川に沈めると、こびり付いていた砂や土が、さらさらと水の中へ溶けるように流れ落ちていく。


 その間もフルムは、ばしゃばしゃと水飛沫を撒き散らしながら、魚を追い回していた。


――ぱしゃっ……ぴたんっ……ぴちぴちぴちっ……


水音に混じって、乾いた地面を打つ音が響く。


 彼女は水中から肥えた魚を叩き出し、河原へと弾き飛ばした。

 

 魚たちは河原の上で、水中へ戻ろうとするかのように、激しく身を捩りながら跳ねている。


 その様子を横目に、僕は布を擦り合わせるようにして服を濯ぎ続けた。


 やがて一通り濯ぎ終えると、僕は息も絶え絶えな魚たちを魔力で宙に浮かせ、彼女に声をかけた。


「フルムちゃん、もう魚は十分獲れたから大丈夫だよ。


 ——そろそろ洞窟へ戻ろう」


 彼女は動きを止めて、こちらを振り返った。


「――トン ディエン イオミナ?」


「……『トン ディエン イオミナ?』

 どういう意味だろう……。


 取り敢えず、肯定しておこう。


 『YES』って、こっちの言葉で何て言うんだっけ——ケ……ケオ?」


「ケオ!!」


 彼女は、待ち望んでいた返事を聞けたことがよほど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべて、そう答えた。

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