第28話『星灯る神殿』
「トスオル……」
フルムは、青い炎が消えてしまったことを惜しむように、消え入りそうな小さな声でぽつりと呟いた。
「ソラリスターコード――翻訳して。キラキラした煙を、青い炎を作った時と同じように集められる?」
———
イルクラプス トシム レフタグ
(光輝 煙霧 凝集)
ラリミス エウルブ エマルフ エカム
(同様 青 火 作成)
———
「フルム、イルクラプス トシム レフタグ? ラリミス エウルブ エマルフ エカム
(フルムちゃん、青い炎を作った時と同じように、輝く煙を集められる?)」
「イルクラプス トシム?……イルト!!」
フルムは再び両手を前へ突き出し、魔力を操り始めた。
僕もそれに続いて右手を前へ伸ばし、彼女が高分子魔力を生成するより先に、達成目標を示すため、白く輝く高分子魔力を一つだけ空中へ生み出す。
「うぐぅ……ぐうぅ……」
フルムは低く唸り声を漏らしながら、高分子魔力を生み出そうと懸命に魔力を練り続けていた。
しかし、十分ほど経っても、彼女の眼前には何一つ現れない。
その様子を見かねた僕は、進捗を確かめるため、魔力の流れを読み取ろうと、そっと彼女の両腕へ手を添えた。
――その瞬間だった。
僕の視界は唐突にブラックアウトし、意識が濁流へ飲み込まれていくような感覚に襲われる。
気が付くと僕は、見知らぬ薄暗い遺跡のような通路の中央に、ぽつんと立っていた。
「――!? どこだ……ここは……?」
視線を前へ向けると、通路はすぐ先で右へ折れ曲がっており、突き当たりの壁には一本の松明が据え付けられている。
揺らめく炎が足元をかろうじて照らし出し、周囲は薄闇に沈んでいた。
僕はゆっくりと後ろを振り返る。
だが、そこには松明は一本もなく、その先へ続く通路は、底知れぬ暗闇に飲み込まれていた。
「ひとまず——明かりのある方へ進むしかないか」
僕はおぼつかない足取りで歩き始める。
やがて右へ折れる角へ差しかかると、その先から淡い寒色の光が漏れ出し、まるでオーロラが漂っているかのように、石壁を幻想的に染めていた。
僕は息を呑み、そのまま角を曲がる。
そして、その先で僕を待ち受けていたのは――銀河に散る無数の星々を思わせる、神秘的な色彩を宿して激しく燃え盛る、一柱の炎だった。
「あれは……魂炎?」
神秘的な色彩を宿したその炎は、不釣り合いなほど小さな――精巧な装飾が施された石の台座の上で燃え盛っていた。
それほど小さな炎であるにもかかわらず、その身から放たれる光は異様なまでに強く、広大な空間全体を昼のように照らし出している。
左右対称に立ち並ぶ石柱には、炎の光によって濃い影がくっきりと浮かび上がり、静まり返った遺跡に幻想的な明暗を刻んでいた。
その空間の最奥で揺らめく輝く炎へと、僕は吸い寄せられるように歩みを進める。
「ここは……フルムちゃんの精神領域なのか……?」
遺跡のような空間。
精巧に装飾された石の台座。
そして、その上で燃え続ける輝く炎。
周囲を見渡すうちに、僕はここが、かつて訪れた自分の魂炎が眠る場所ではないことに気付いた。
目の前で燃え盛るこの炎もまた――自分の魂炎ではない。
そんな確信にも似た感覚が、本能の奥底から静かに湧き上がってくる。
「じゃあ……これが、フルムちゃんの魂炎……?」
眼前にそびえ立つ輝く炎を改めて見つめる。
近付いて初めて分かった。
遠目には小さく見えていたその炎は、実際には僕の背丈を優に超えるほど巨大で、その身から迸る膨大なエネルギーが空間そのものを震わせているようだった。
その圧倒的な存在感に、僕は思わず息を呑む。
「これが……フルムちゃんの言っていた魔力の正体なのかも……」
周囲へ視線を巡らせる。
石の台座の周囲には、ぐるりと円を描くように細い水路が掘られていた。
その縁には深緑色の苔が静かに広がり、冷たく無機質な石造りの空間へ、わずかな生命の彩りを添えている。
僕はその細い水路をまたぎ、石の台座の前で足を止めた。
「この炎に触れれば……元の場所へ帰れるのか……?」
ゆっくりと手を伸ばす。
指先が輝く炎へ触れた、その瞬間――
全身へ何か重いものが覆い被さるような感覚が走り、視界が大きく揺らぐ。
次の瞬間には、景色は途切れることなく、先ほどまでいた洞窟前の風景へとシームレスに切り替わっていた。
「――ッ!! 帰ってこれた……。
何だったんだ……さっきの場所は……」
僕は遺跡へ飛ばされる直前とまったく同じ姿勢で、地面に胡座をかいて座っていた。
組んだ足の上には、フルムがすっぽりと収まるように腰を下ろしている。
ふと視線を上げる。
すると、先ほど遺跡で目にした魂炎によく似た、星々のように煌めく霧が、フルムの前方で微かにぱちぱちと瞬いていた。




