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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第26話『魔法の鎧』

 僕は、膨大な魔法習得に関する情報を少しずつ整理しながら、手順を一つひとつ頭の中で組み立てていった。


「えぇっと……水属性魔法から氷を作るには、まず水を生成して――次に戦術補助魔法《アイヒバリオン》……あ、これも覚えないといけないのか。


 《アイヒバリオン》って、どんな魔法なんだろう。

 『法の鎧』って書いてあるくらいだから、防御系の魔法なのかなぁ……。


 ——ソラリスターコード、《アイヒバリオン》の概要と、その習得方法について教えて」


———

 戦術補助魔法【アイヒバリオン(法鎧)】は、

魔力を高密度に物質化することによって、実体を伴う防御障壁を構築する魔法体系の総称です。


 本魔法では、まず術者が魔力を一点に凝集し、これを高分子魔力構造体へと転換する工程が必要となります。

この高分子魔力は、以降の構造形成における基礎構成素子として機能します。


 次に、生成した高分子魔力構造体を、形成したい立体図形の各頂点座標へ配置します。

それらを結節点として結界構造が展開され、当該空間に「アイヒバリオン」が顕現します。


 なお、「アイヒバリオン」の最終的な防御強度は、各頂点間における高分子魔力の分布密度、ならびに構造体の空間充填率に比例して増減することが確認されています。

———


「高分子魔力……? また新しい概念が出てきた……。


 魔力を一点に凝集すると高分子魔力ができる――魔力の操作方法は何となく分かるけど、高分子魔力が作れたかどうかって、どうやって判断すればいいの?」


———

 高分子魔力は、ガラス質に近い準結晶構造体として形成されますが、単体で存在している場合には、常に不安定な状態にあります。


 そのため、高分子魔力のみが存在する空間では、周囲の空気が陽炎のように揺らぎ、空間が歪んで見える現象が常に発生します。


 しかし、高分子魔力を結節点として構造体、あるいは立体図形を形成した場合、それらの高分子魔力は相互に結合し、構造体としてエネルギー的に安定します。


 この安定化が完了すると、周囲空間の揺らぎは消失し、構造体はガラスのような存在感を持ちながらも、ほとんど透き通って見える状態となります。


 アイヒバリオンが展開された際には、空中に透明なガラス板が浮いているかのような外観を呈します。


 この「浮遊するガラス状の外観」は、法鎧構造が正しく完成していることを示す、明確な視覚的指標の一つとされている。

———


「高分子魔力が存在すると――空間が陽炎のように揺らいで見える。

 そして、高分子魔力で立体図形を形成すると、その揺らぎが消え、ガラス状の外観へと変化する……と。


 ……まったく完成形が思い浮かばないけど、とりあえずやってみよう」


 僕はその場に座り込み、右手で魔力を操りながら、眼前の一点へ魔力が集中するよう意識を向けた。


 以前、魔力を全身へ巡らせて岩を持ち上げた時と要領は同じだ。


 ただ今回は、それを身体の外側で行う。


 集中力を極限まで研ぎ澄ませる。


 周囲の音が、次第に遠のいていく。


 じっと一点を見つめ続けていると、やがて視界がぼやけ始め、景色全体がゆらゆらと揺らいで見え始めた。


 そのまま靄のかかった視界の中で、うとうとと意識が遠のきかけた、その時だった。


 揺らぐ景色の中に、小さな白い光が浮かんでいるのが見えた。


「——ん? 何か光ってる。


 ……何の光?」


「ラザーフ クッビーー! トンド ナクー!」


 謎の現象に意識を奪われていると、突然フルムが僕の足の上へ転がり込んできた。


「お、おお。 フルムちゃん、どうしたの?


 ——眠くなっちゃった?」


 フルムは僕の胡座の上へ頭を預けると、不思議そうな表情で僕を見上げた。


「ラザーフ クッビ、トーワ グニオド ヂド?」


「トーワ、グニオド……?


 何だっけ……前にも同じことを聞かれた気がするな。


 ――ソラリスターコード、『トーワ グニオド ヂド』を翻訳して」


———

何(トーワ) 行動(グニオド)

———


「あっ、そうだそうだ! 『何してるの?』って意味だったね。


 えっと、今は新しい魔法の練習をしてるよ?」


———

エン ジクマ エキトカルプ

(新規 魔法 演習)

———


「フルム、エン ジクマ エキトカルプ(フルムちゃん、新しい魔法の練習をしてるよ)」


「エン ジクマ!? フルム フカエット オート レウ シア!」


 フルムは驚いたように目を見開き、興奮した様子でぐっと身を乗り出した。


———

フカエット オート

(教授 同伴)

———

 

「もちろん、いいよ。


 でも、まだ僕も練習中だからね。


 ——そうだ! せっかくだし一緒にやろうか!


 さて、さっきはどこまで進んでたっけ——」


 僕はフルムに膝の上を占領されたまま、彼女の横から両手を前へ差し出した。


 そして再び魔力を操り、戦術補助魔法《アイヒバリオン》の習得に向けた特訓を再開する。


 《アイヒバリオン》の骨子となる高分子魔力は、先ほどと同じ方法で生成を試みる。


 魔力を操作し始めて数十秒後、両手の前に小さな白い光が生まれた。


 そして、その周囲の空間が、水飴のようにゆらゆらと揺らめき始める。


「……微かな光と、陽炎みたいな揺れ――あっ!


 ——これが、『高分子魔力』か!」


 その瞬間になってようやく、先ほど自分が生み出していた”星の赤子”のような存在こそが、高分子魔力だったのだと理解した。


 僕は続けて同じ手順で高分子魔力をさらに七つ生成し、それらを立方体の八つの頂点となるよう、等間隔に配置していく。


 配置を終えた、その直後だった。


 頂点に据えられた高分子魔力は、まるで互いに呼応するかのように、発光と揺らぎをぴたりと止めた。


 そして次の瞬間――。


 それらに囲まれた空間は、中空構造の透き通った水晶のような立方体へと変化し、その場へ静かに出現した。


「出来たっ! これが——《アイヒバリオン》!」


「ワァ!? トーワ シ シフタ!」


 突如として中空に現れた箱状の《アイヒバリオン》を見たフルムは、目を丸くして身を乗り出した。


「ナク フキュオト シフタ!?


 ラザーフ クッビ、シフタ オーブ エカム!?


 シフタ トーワ ジクマ ルアク?


 ナク トーイ チイ?」


「お、落ち着いて、フルムちゃん――。


 今からちゃんと教えてあげるからね?」


 初めて目にする魔法構造体がよほど珍しいのか、フルムは興味津々といった様子で《アイヒバリオン》へ近づく。


 指先で恐る恐るつつき、硬さを確かめるように何度も叩いたかと思えば、今度はぺろりと舌で舐めて感触を確かめ始めた。


 そんな無邪気な反応に、僕は思わず苦笑した。

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