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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第25話『遥かなる厳冬』

 フルムのそばに戻ると、フルムはご機嫌な様子でこちらに話しかけてきた。


「ラザーフ クッビ、タフギル ヂド? フルム ドルーク、ラザーフ クッビ エマス グニフタ?」


―――――

兄(ラザーフ) 成功(タフギル)

同一(エマス) 事物(グニフタ)

―――――


「成功? うん……上手だったよ。

 もう少し練習は必要だけど――。


 でも、『同一、事物』って何だろう。

 同じこと……?

 僕と同じようにできていたかってこと?」


 わざわざ翻訳してまで嘘をつく必要はないと思った僕は、何も言わずに微笑みながら彼女の頭をわしゃわしゃと撫で回した。


 ひとしきり撫で終えると、左手に握っていた氷の欠片を彼女へ見せた。


「フルムちゃん、見て。

 

 これ、フルムちゃんが作った氷だよ。――あ」


 掌を開いて氷の欠片を差し出すと、フルムは僕の手をがしっと掴み、そのままぐっと顔を近づけてぺろりと一舐めした。


 そして、それが食べられるものだと分かるや否や、ぱくりと口へ放り込み、ガリガリと音を立てながら噛み砕いてしまった。


「……まぁ、いいか。


 ――フルムちゃん、僕に氷の作り方を教えてくれない?」


———

オーフ エカム フカエット

(仕方 作成 教授)

———

 

「ラザーフ オーフ エキ エカム フカエット?(お兄ちゃんに、氷の作り方を教えてくれない?)」


「ケオ! タウ エゼウクス ドナ タウ タフギット ドラフ!」


———

同意(ケオ)

水 押す 強い(タウ エゼウクス ドラフ)

———

 


「押す……?


 つまり、圧迫――いや、圧縮したってことか。


 水の塊を押し固めた結果、凍ったってことなのか……?


 とはいえ、常温の水を凍らせるには——どれくらいの圧力が必要なんだろう。


 ――取りあえず、やってみよう」


 僕はさっそく、水属性魔法で水球を生成し、魔力操作で外側から圧力を加えてみた。


 しかし、その瞬間になって初めて気付く。


 水そのものは自在に操れても、水球の外側から押し潰すような力は生み出せないということに。


「えぇ……どうやって水を圧縮するんだろう……。


 空気を操れれば、そのまま押し潰せそうなんだけど……。


 まさか、魔力制御だけで水分子の運動を止めて凍らせる——なんて話じゃないよね……?」


 それから僕は、気化熱を利用して水温を下げられないか、水分子の運動を極限まで鈍らせられないかなど、思いつく限りの方法を片っ端から試してみた。


 だが、どれも今の技量では再現できず、水は最後まで液体のままだった。


「――あぁ、ダメだ。 全然できない……。


 これ以上考えてても、できそうにないな。


 ――諦めて、本に聞くか」


 そう結論づけた僕は、ソラリスの星典へ呼びかける。


「——ソラリスターコード、氷を魔法で生成する方法について教えて」


 呼びかけに応じるように、星典は淡い光をまといながら、すぐさま僕の眼前に出現した。


 そして、ひとりでに空白の頁を開く。


 次の瞬間、白紙だった頁へ日本語の文字が、目にも留まらぬ速さで次々と刻み込まれていった。


———

 魔法による氷の生成方法は、難易度に応じて大きく二つに分類されます。


 一つ目の方法は、第三階梯《氷結属性魔法》による氷塊の直接生成です。


 本手法は、第三階梯魔法の習得を前提とする高難易度手法に位置付けられます。


 この方法では、水を凍結させるのではなく、氷そのものを魔力によって直接生成します。


 生成原理は、魔導野に記憶された《氷結属性基底魔法陣》によって、魔力を氷の結晶構造へ直接変換し、最初から固相として氷を顕現させるというものです。


 そのため、水相を経由することなく、安定した氷塊を即座に形成できます。


 二つ目は、第二階梯《水属性魔法》と第一階梯《戦術補助魔法【アイヒバリオン(法鎧)】》を併用する方法です。


 本手法は、低位階梯魔法を並列発動させる中難易度手法に分類されます。


 この方法では、まず水属性魔法によって水塊を生成し、その内部へ【アイヒバリオン】の「膜」を展開します。


 続いて、その「膜」を外側へ拡張することで内部圧力を低下させ、水塊全体を減圧状態へ導きます。


 この際、水は「減圧沸騰現象」によって一部が気化し、その過程で奪われる気化熱によって、水塊全体の温度が急激に低下します。


 その結果、外部から冷却することなく水は自然凍結し、氷塊を生成することが可能となります。


「氷結属性魔法——そういえば、そんな属性の魔法があったな……」


 数日前、星典から教わった魔法の種類一覧。

 

 その中に、上位属性魔法として《氷結属性魔法》が記されていたことを、僕はおぼろげに思い出した。


「氷結属性魔法を習得してれば、氷を生成できるのは当然として――その氷結属性魔法は、どうすれば習得できるの?」


 そう尋ねると、星典の頁には再び文字が浮かび上がる。


———

 氷結属性魔法の習得条件は、水属性魔法で生成した水を氷へと状態変化させることです。その際、氷へと変容させる過程は問いません。


 不測の場合、気温が氷点下の地点において、水属性魔法で生成した水が自然凍結した場合でも、上記の条件は達成されたものと見なされます。

———

 

「なるほどな……。


 どのみち氷結属性魔法を覚えるには、まず水属性魔法で氷を作らなきゃいけないのか。


 “高緯度ボーナス”でもあれば習得は簡単なんだろうけど——僕たちには関係ないな。


 ――よし。二つ目の方法を試そう」


 僕は気持ちを切り替えると、星典の右頁に表示された『水属性魔法から氷を生成する方法』へ改めて目を向けた。


今度こそ、その答えを見つけるために――一言一句見落とさないよう、慎重に読み進めていく。

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