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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第24話『凍てつく兆し』

 昼食を終えた僕は、石のテーブルの前に立ち、余った焼きブロック肉と、まだ火を通していない野獣の下半身の肉塊をどう保存するべきか考えていた。


 干し肉にする方法をソラリスの星典へ尋ねようかと思っていた、その時だった。


 ちょいちょい、と裾を軽く引っ張られる。


 見下ろすと、フルムが僕のズボンの裾をつまみ、じっと見上げていた。


「ん? どうしたの、フルムちゃん」


「ラザーフ クッビ、レイルア フカエット!!」


「レイルア フカエット?

 ……あ、ソラリスターコード、翻訳して。


 ——ごめんね、フルムちゃん。もう一回何て言ったか教えてくれる?」


 フルムは小首を傾げたものの、すぐに表情を改めると、もう一度口を開いた。


「……? ラザーフ クッビ、レイルア タウ エキル ピー ジクマ フカエット!」


———

兄 水 魔法 教授(ラザーフ タウ ジクマ フカエット)

———


「タウ……ジクマ、水の魔法――あ、さっきのウォータージェットを教えてほしいの?」


 そう問いかけると、フルムの顔がぱっと明るくなった。


「うーん……どうしよう」


 僕は顎へ手を添えて少し考える。


 威力が威力だけに少し躊躇うが……ちゃんと危険性を教えれば大丈夫だろう。


「うん、分かった……。


 でも、今から教える魔法はすごく危ないから、絶対に人へ向けて撃っちゃダメだよ」


———

フカエット タウ ジクマ ソレグナド

(教授 水 魔法 危険)


ティビホルプ ノスレプ ミア トフス

(禁止 人間 狙撃)

———


 翻訳結果を確認しながら、覚えたばかりの異世界語でフルムへ伝える。


「フカエット タウ ジクマ、ソレグナド(教える水の魔法は危険だよ)。

 

 ティビホルプ、ノスレプ ミア トフス(絶対に人間を狙って撃ってはいけないよ)」


「ケオ!」


 フルムは元気よく返事をした。


 だが、命に関わることだ。念のため、もう一度確認しておく。


「本当に分かった?」


———

ドンタスアダ イラエル(理解 実際)

———


「フルム、ドンタスアダ イラエル?」


 念を押すように尋ねると、フルムは「もちろん!」と言わんばかりに、ぶんぶんと頭を縦に振った。


 僕は、もし約束を違えて危険なことをしそうになったら、その時に止めればいいかと、半ば楽観的に考える。


「よし――じゃあ、やり方を教えるね。


 ——まずは魔法で水を作ってみて」


———

タウ ジクマ エカム(水 魔法 生成)

———


「フルム、タウ ジクマ エカム?」


「――ケオ!」


 溌剌と返事をしたフルムは、ルビー色の瞳を輝かせながら両手を前へ翳した。


 すると、目の前の空間がわずかに歪み、掌の前へ球状の水塊がゆっくりと生成されていく。


「うん、上手だよ。

 じゃあ次は、その水を針のように細くしてみよう。


 ――横で僕も一緒にやるから、真似してみてね」


———

タウ ニフタ エルデン(水 細い 針)

———

 

「タウ ニフタ エルデン」


 僕はフルムの隣に立ち、糸のように細い水を魔法で生み出し、空中へ漂わせた。


「ワ!? タフト オーヂド オーフ!?」


———

それ 仕方(タフト オーフ)

———


「これはね、水を横に引き延ばすように魔力を制御するとできるよ?」


———

タウ フクタルトス エーヂス(水 水平 伸長)

———


「タウ フクタルトス エーヂス」


 言葉で説明しながら、自分の手元を指し示して見せる。


「エゥー……」


 フルムは眉間へぎゅっと皺を寄せ、真剣な表情で魔力制御に集中し始めた。


 眼前に浮かぶ水塊は、ぐにゃぐにゃと不安定にうねりながら形を変え、いびつながらも、ゆっくりと横倒しの円柱状へと変形していく。


「そうそう! 上手上手!


 それを少しずつ、もっと細く、長くしていこう!」


———

エキン(順調)


エルオム ニフタ グノル(更新 細い 長い)

———


「フルム、エキン!(いいよ! いいよ!)


 ナク エルオム ニフタ グノル(もっと細く、長くできる?)」


「ウグゥ……ドラフ シフタ……」


———

困難(ドラフ)

———


 一生懸命に集中しているが、形を維持するだけでも相当な負担のようだ。


 これ以上続ければ、集中力が切れてしまうかもしれない。

 だから僕は、形状がまだ完璧ではなくても、できあがった端から撃たせることにした。


「フルムちゃん、もう撃ってみてもいいよ?」


 僕は先ほど穴を開けた木とは別の木を指差した。


 そして、お手本として自分が作っていた水の針を一度水球へ戻し、その木の幹へぶつけて見せる。


(狙いはあそこだよ)


 そう伝えるように視線を向けると、フルムは濡れた幹へ身体の向きを変え、僕の仕草を真似るように狙いを定めた。


 その時だった。


 パキ……パキパキッ……


 まるでガラスに少しずつひびが入っていくような、硬質な音がフルムの方から聞こえてきた。


 それと同時に、ひんやりとした冷気が肌を撫でる。

 フルムが生み出した水の束は、中心から白く濁り始め、みるみる透明感を失っていった。


「——え? フルムちゃん、それ——」


 僕が異変に気付いた次の瞬間、フルムは細長い水の束を正面の幹へ向かって放った。


――パキィンッ!


 幹へ命中した瞬間、水音ではなく、ガラスが砕け散るような鋭い音が森中へ響き渡った。


「え……? 今、何を撃ったの? 水の音じゃなかったけど……」


 異音の正体を確かめるため、僕は水の束が命中した幹へ駆け寄った。


 フルムの放った水の束は、幹の表面をわずかに抉っていたものの、穴を穿つほどの威力ではなかったようだ。


 ふと視線を落とすと、幹の根元に木漏れ日を受けてきらきらと輝く透明な欠片が落ちていた。


僕はしゃがみ込み、その欠片を拾い上げる。


手に伝わってきたのは、刺すような冷たさだった。


「……氷だ。


 ということは――フルムちゃんが撃ったのは、水じゃなくて『氷の針』だったのか……!」


 彼女がどのような魔力操作によって、水を氷へ変性させたのかは分からない。


 だが――肉の保存方法に頭を悩ませていた僕にとって、それは思いもよらない大きな収穫だった。


 僕は氷の欠片を握りしめたまま、興奮を抑えきれずにフルムのもとへ駆け戻る。


 当の彼女は、僕の驚きなど露知らず、「うまくできたでしょ!」と言わんばかりに得意げな笑みを浮かべ、尻尾をぶんぶんと左右へ振っていた。

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