第22話『魔力の総量』
「……何とか倒せた。
でも、これは魔法の支援があった上に、相手がすでに傷を負っていたから勝てたんだと思う……。
――もしあの野獣が、門番の巨鹿さんみたいに魔法を使えていたら、僕たちは二人ともやられていた……。
今の僕の力じゃ、この森で生き残るのは厳しいかもしれないな。
——とにかく、この野獣は洞窟まで持ち帰ろう」
そうして僕は、野獣を洞窟まで運ぶために魔力で浮かせようとした。
だが、持ち上がったのはほんの一瞬だった。
次の瞬間――
ズドンッ――!!
という重い音を響かせ、野獣の巨体は地面へ落下する。
「え? あれ……全然持ち上がらない。
まさか、魔力を使い果たしたのか……?」
その後も何度か試してみたが、野獣の身体は地面に横たわったまま微動だにしなかった。
「……やっぱり、ダメか」
どうやら体内の魔力を使い切ってしまったらしい。
時間が経てば回復するはずだ――いや、さすがに回復しないなんてことはないだろう。
少なくとも今は、“魔力で野獣を浮かせて運ぶ”という手段が使えない。
自分で運べないとなれば、頼れるのはフルムだけだ。
――門番の巨鹿さんに助力を求めるのは、できれば最終手段にしたい。
「ソラリスターコード、翻訳して。
――フルムちゃん、これを魔力で浮かせて洞窟まで運べる?」
僕は星典を召喚し、その書物へ翻訳を要請した。
すると、白紙だった頁に淡い光が走り、二言語の文字が静かに浮かび上がり始める。
———
クジマ タティベル シフタ イルラク エヴァク ナク
(魔力 浮かせる これ 運搬 洞窟 可能)
———
星典に映し出された翻訳文を頭の中で噛み砕きながら、僕はその内容をフルムへ向けて読み上げた。
「フルム、クジマ タティベル シフタ イルラク エヴァク ナク?(フルムちゃん、魔法でこれを洞窟まで運べる?)」
「――っ! トーワ!」
フルムは自分の名に反応し、門番の巨鹿の背から軽やかに飛び降りた。
「フルム、シフタ イルラク ナク?(フルムちゃん、これ運べる?)」
「イルラク? トーワ イルラク?」
どうやら、
『何を運ぶの?』
と聞いているらしい。
これ以上は言葉だけで伝わらないと判断した僕は、野獣を指差しながら、もう一度問い掛けた。
「イルラク、ナク?(運ぶ、できる?)」
「ナク!!」
フルムは力強く頷き、両手を前へ突き出した。
次の瞬間、野獣の巨体がふわりと宙へ浮かび上がる。
僕は、魔法を使いながら歩けばフルムが転んでしまうかもしれないと思い、彼女をお姫様抱っこのように抱え上げた。
そして、そのまま洞窟の方角へ歩き出す。
野獣の運搬が始まると、門番の巨鹿はそれを見守るように、ゆっくりと僕たちの後をついてきた。
帰路の途中、僕はあることに気付いた。
洞窟へ戻ったところで、今の僕には火や水を生み出すことができない。
そもそも、魔法そのものが使えないのだ。
魔力が尽きている以上、それは当然のことだった。
その時になって初めて、自分の魔力量が分からないことの不便さを思い知る。
自分の魔力量が分からないというのは、車を運転する際にガソリンの残量が分からないのと同じだ。
だからこそ、魔法を扱う以上、常に自分の魔力量を把握できるようにならなければならない。
洞窟まではまだ時間がある。
――魔力量の確認方法について、一度ソラリスの星典に聞いてみよう。
フルムを抱えたまま、僕は何もない空間へ向かって声を発した。
「――ソラリスターコード、
自分の魔力量を確認する方法を教えて」
「――?」
突然話し始めた僕に気付いたフルムは、不思議そうな表情でこちらを見つめてきた。
その視線に気付いた僕は、
「なんでもないよ」
と微笑み返す。
そして、猫が頭を擦り寄せて愛情を示すように、自分の頭をそっとフルムの頭へ押し付けた。
「うぅ……」
頭をぐりぐりと擦り付けられたフルムは、不満そうに低く唸る。
———
契約者様の現在の魔力量は 5461sol / 5461sol、魔力生成速度は 18sol/s です。
本数値は、未魂炎知覚者を魔力量0と定義し、魔力分子1個を1solとして積算した際の測定値となります。
自身の魔力量は、魔導具や魔法発動補助装具(杖式武具)、あるいは星遺物によって確認が可能です。
魔導エルグラント帝国では、魔力量の可視化方式として『四印明滅魔力量判定法』が採用されており、魔力量は以下のように表示されます。
《四印明滅魔力量判定法》
◆ ◆ ◆ ◆ = 100%以下(75%~100%)
◆ ◆ ◆ ◇ = 75%以下(50%~75%)
◆ ◆ ◇ ◇ = 50%以下(25%~50%)
◆ ◇ ◇ ◇ = 25%以下(0%~25%)
四印明滅魔力量判定法では、契約者様の現在の魔力量は満量のため、『◆ ◆ ◆ ◆』と表示されます。
———
(――え?
もう魔力が全回復したってこと?)
一秒で18回復するとして、大体5分で全快する計算になる。
――早いな……。
そういうものなのか?
洞窟へ帰ったら、フルムちゃんの魔力量も調べてみよう。
本が、契約していないフルムちゃんのことまで教えてくれればいいんだけど——。
そんなことを考えながら、僕はフルムの温もりを感じつつ、薄暗い森の中を歩いて洞窟へと戻った。




