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【ソラリスの星典】〜少年少女の異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第1章 旅の礎

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第16話『陽だまりの午後』

 洞窟へ戻ると、入口前の開けた場所に、外殻の硬い木の実と、赤や緑など多様な色彩を放つ果実が、枝ごと一纏めにして置かれていた。

 

 そして門番の巨鹿は昨夜と同じように、洞窟の入り口で岩の如くどっしりと腰を下ろし、静かに構えている。


 帰宅直後の三匹の子鹿は、その色とりどりの果実を見つけるや否や、一目散に駆け寄り、大地の恵みを夢中で食べ始めた。


その光景を眺めていると、妙に腹が空いてくる。


「——僕達も、ご飯にしようか」


「ラザーフ クッビ、シフタ ケオーク?」


 フルムは地面に、五匹の魚をぼとぼとと乱雑に落とした。


「シフタ ケオーク?」


———

焼却(ケオーク)

———


「そうだね、それを焼いて食べようか」


 彼女の言葉の意味を理解すると、僕は洞窟内からナイフとドラゴンの鱗を持ち出し、入口付近で木の枝と小石を集めた。


 小石は鱗の台座にするために、木の枝は魚を刺す串にするためだ。


 小石を高さが揃うように地面へ敷き、その上にドラゴンの鱗を乗せる。

 木の枝はナイフで余分な枝を削ぎ落とし、串へと整えた。


「よし、魚を焼く準備はできた。――あ」


 そこで、ドラゴンの鱗と地面に落ちた魚が土で汚れていることに気付く。


「フルムちゃん——魔法で水を出してくれない?」


———

トナウ ジクマ タウ エカム

(希望 魔法 水 作成)

———


「トナウ、フルム ジクマ タウ エカム?(フルムちゃん、魔法で水を出してくれない?)」


「フルム エカム タウ!!」


「お願いね、フルムちゃん」


 フルムは両腕を天に伸ばし、眼を光らせながら力を振り絞るように唸った。


「ウゥゥゥゥゥ……ッ!!」


 手のひらの先に青白い魔法陣が浮かび上がる。


 その輝きに呼応するように、フルムの掌の上へ透明な水が湧き出した。


——ぼこ、ぼこぼこっ、ぼこぼこぼこっ……。


 生まれた無数の水滴は宙で寄り集まり、やがてひとつの塊となる。


 それは見る間に膨れ上がり、ついには人ひとりを包み込めるほどの巨大な水球へと姿を変えた。


「おぉ……もうマスターしてるんだね、フルムちゃん。

 ――魚を洗うから、ちょっと待っててね」


 僕は魚を一匹ずつ水球に通して汚れを落とし、木の枝の串に刺していった。


 魚は再び汚れないよう、地面に串ごと垂直に突き立てておく。


「フルムちゃん、次はこっちに来て」


僕はフルムに向かって、クイッと手招きした。


 フルムを手招きしながら、ドラゴンの鱗の前まで来てもらう。


「少しの間、そのままじっとしててね」


 そう言って僕は水球の底に両手を添え、魔力を流し込む。


 すると、触れた手に水球の重さがずしりと伝わってきた。


「重いな……フルムちゃん、もう魔法解いていいよ」


「ラザーフ クッビ、フゴネ チー シイ?」


 僕の言葉を確認すると、フルムは両腕を下ろして魔法を解除した。


 それに連動して彼女の瞳の発光も収まり、元の状態へ戻る。


僕は水球を鱗の上へそっと乗せた。


――ジャバーンッ!


 魔力による維持を失った水球はたちまち形を崩し、大量の水となって真下へと落下した。


 水は重力に従って一気に降り注ぎ、鱗の窪みへと流れ込んでいく。


溢れた水が周囲の地面を濡らす。


 数分後、鱗に溜まった水はボコボコと沸騰するように揺れ、そのまま蒸発していった。


 結果として、鱗に付着していた汚れは綺麗に落ち、金属のような光沢を取り戻している。


「よし、これで綺麗になった!

 フルムちゃん、ありがとう!」


 僕はフルムの頭を思い切り撫でた。髪がくしゃくしゃになるほどに。


「ン〜〜ッ!!」


 フルムは嬉しさを全身で表すように、大きな金色の尻尾を激しく振った。


「——今から魚を焼くね」


 そう言って僕は五本の串を鱗の上に並べた。


 魚は熱に晒されると、すぐに脂が弾けて音を立てた。


 ジュウ、と小さな爆ぜる音が続き、香ばしい匂いが辺りに広がっていく。


 白い煙は細く立ち上り、やがて空気へと溶けていった。


 フルムは地面にぺたりと座り、尻尾を揺らしながら焼き上がりを待っている。


 数分後、僕が串を返すと、魚の表面にはこんがりとした焼き色が浮かんでいた。


「フルムちゃん、焼けたよ」


 呼びかけに反応し、フルムは駆け寄る。


 僕は魚を串ごと持ち、彼女の口元へ運んだ。


 フルムは大きく口を開け、焼き魚へ勢いよくかぶりついた。


ムシャムシャ……モグモグ……


 小気味よい咀嚼音を響かせながら食べ進め、魚はあっという間に頭と尻尾だけになる。


 フルムは食べ残したそれらを地面へそっと置いた。


――グゥゥゥ……


 フルムの豪快な食べっぷりを眺めているうちに、自分の腹も盛大に鳴った。


 どうやら、空腹はとっくに限界を迎えていたらしい。


「僕も、魚一匹もらっていい?」


———

イア シフ エノ トーイ ナク

(私 魚 一 食べる 可能)

———


「イア シフ エノ トーイ ナク?」


「ナク!――フルム、トーイ リトス トナウ!」


「ありがとう、フルムちゃん」


 フルムは、そんなことより早く食べたいと言わんばかりに尻尾を振って土埃を上げ、小さな口を大きく開けてこちらを見つめている。


 僕は彼女の催促に応えるように、地面へ刺した串を口元まで運んだ。


 そして彼女が魚を食べている間に、もう片方の手で別の串を手に取り、自分も魚を口へ運ぶ。


「美味い……。ここ数日、ほとんど何も食べてなかったから――焼いただけの魚なのに、めちゃくちゃ美味いな……」


 僕たちは、樹々に囲まれた開けた場所で、晴天の下、鹿たちと共に昼食を取った。


 鹿達は木の実や果実を食べ、僕は魚を一尾、フルムは魚を四尾平らげた。


 

***


 

 昼食後、フルムは三匹の子鹿と追いかけっこを始めた。


 フルムの足は子鹿達より遥かに速く、逃げる子鹿達をあっさり追い越してしまっている。

 だが、そんなことはフルムも子鹿達も全く気にしていないようだ。


「さて、僕も魔法の特訓をするか」


 僕は数時間前の訓練を思い返し、なぜ岩を持ち上げられなかったのか考えた。


「確か――魔力の漏出が原因だったな。


 ということは、魔力を体内で完璧に循環させなければ、自分の限界を超える重さの物体は持ち上げられないってことか……?


 ――一度聞いてみるか。ソラリスターコード、魔力の漏出を抑える方法を教えて」


 ソラリスの星典は呼び掛けに応じて姿を現し、即座に文字の記された頁を開いた。


―――

 先ず初めに、意図しない魔力の体外への漏出は、儀式【魂炎の知覚】を完了していない者にとって必然の現象であるという事を押さえておく必要があります。


 対して、儀式【魂炎の知覚】を完了している者の意図しない魔力漏出は、魔力の過集中によって引き起こる筋組織の魔力許容量超過、魔力収束時の誤操作がもたらす魔力膨張(空間の圧迫及び不要な充填)、保存魔力総量過多による瞬間的な魔力の過剰供給などが原因として考えられます。

―――


「ん〜……どういうことだ?


 一つ目の要因は筋肉への魔力の過剰供給。


 二つ目は……空間の圧迫って言っているから、たぶん魔力密度の話か。


 三つ目は、保有している魔力量が多過ぎて、自動的に過剰供給してしまっている……のか?


 う〜ん……魔力が漏れない感覚を掴むまで、色々試してみるしかないか」


 それから僕は日が暮れるまで、魔力の流れを意識しながら洞窟入口近くの岩壁を押してみたり、地面に座禅を組んで瞑想したりして過ごした。


 一方のフルムは、追いかけっこで疲れたのか、三匹の子鹿と身を寄せ合うように眠ってしまっていた。

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