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【ソラリスの星典】〜狼少女と旅をする異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第一章 守るものあれば強く、
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第13話『レグニス騎兵隊』

「今、あそこの山……光らなかったか?」


「どうした? 何かあったのか?」


「いや、正確には山の向こうから光が漏れているように見えた……」


「何だそれ。——星と見間違えたんじゃないか?」


「いや、星じゃない……。それに焚き火の光でもなかった。

 こんな暗い夜に、ここまで届くほどの光を放てるとしたら――魔導具を使ったのか……?」


「ほーん。——じゃあ、お前が見た光ってのは魔導具の光だったってことか?」


「分からない……。でも、妙に白い光だった。

 ——少なくとも自然光ではないだろうな」


「ふわぁぁ……。まぁ、大丈夫だろ。――俺はもう寝るわ。

 お前も明日に備えて、早く寝とけよー」


「見たことない光だったな……」


 都市ヴェリスタンのレグニス騎兵隊は、竜の目撃情報を受け、領主の命によりラグナヴェルト王政領北西の国境付近へ調査に赴いていた。


 翌朝、レグニス騎兵隊隊長リカードの号令の下、レグニス騎兵隊は再び行動を開始し、竜が確認された地点へと向かった。


 その後、レグニス騎兵隊は一日かけて山を越え、ある村の跡地へと辿り着いた。


「何だ、これは……」


 そこには、焼け落ちた家屋や倒壊した石造りの建物など、村の建造物が徹底的に破壊された光景が広がっていた。


「隊長、どうしますか?」


「そうだな。ひとまず、この村を調べることにする。気になることがあれば、その都度報告してくれ」


「「了解!」」


「それにしても、この村……軒並み建物が崩れてるな。

 木造の建物は――火事に遭ったのか、炭と化した柱しか残っていない……。

 もしかすると……商人が道中で見たという――竜の襲撃を受けたのかもしれんな」


 そこへ、一人の隊員が慌てた様子で戻ってきた。


「隊長! この村の住民と思われる者の遺体を発見しました!」


「分かった。案内しろ――うっ、酷い臭いだ……! これは焼死体か? 所々炭化しているな……」


「かなり損傷が激しいですね。戦闘でもあったんでしょうか」


「剣や弓などの武器が散乱しているこの現場を見るに、応戦していたと考えてよさそうだな」


「応戦……? 彼らは何かと闘っていたんですか?」


「ああ……。断定はできんが、俺は竜の襲撃を受けたんじゃないかと考えている」


「なるほど!――確かに竜の襲撃なら、火災や建物の崩れようにも説明がつきますもんね!

 でも、竜ってこんなふうに無差別に人間の集落を襲うものなんですか?」


「さあな。そこは竜の気分次第かもしれん。

 何せ竜の生態はほとんど分かっていないからな。

 唯一確かなのは――闘っても勝ち目がないということくらいだ」


 その時、別の隊員が何かを発見したらしく、慌てた様子で隊長のもとへ駆け寄ってきた。


「隊長!! ちょっとこっちへ来てください!!」


「どうした――そんなに慌てて」


 隊長リカードは興奮した様子の隊員に案内され、何かがある場所へ向かった。


 そして、その先には巨大な鳥が踏みしめたかのような深い足跡が地面に残されていた。


「隊長、これ見てください」


「これは……足跡か……!!」


「魔物の足跡で間違いないと思います。

 何の魔物かまでは分かりませんが、少なくともカグロスのものよりは大きいようです」


「そうだな……。これ、どうにかして持って帰れないか?」


「え?……隊長、これは無理ですって。

 もし本当に持ち帰るとしても、どうやってこんなの運ぶんですか?」


「まず掘り出してくり抜きさえすれば、荷馬車に乗せて運べるだろう。荷馬車は、そうだな。俺が近くの街まで行って借りてこよう」


「はぁ……。隊長、本気で持ち帰るつもりなんですね。

 じゃあ、分かりました。

 地面を掘るためのシャベルなんかも何本か借りてきてもらえませんか?」


「おう、分かった。

 じゃあ、俺は今から近くの街まで行ってくるから、お前らはここで待機し、この村の調査を続行してくれ。

 くれぐれも足跡は壊すなよ。この足跡が領主への土産になれば、褒賞を貰えるかもしれんからな。

 そのことは肝に銘じておけよ。


 じゃあ、俺が戻るまで任せたぞ」


「「……了解しました」」


 隊長リカードは隊員たちにそう告げると、村を後にして西へ向けて馬を走らせた。


 レグニス騎兵隊は、陽が沈むまでその集落の調査を続けた。

 しかし、足跡以外に重要な手掛かりは見つからなかった。


 日没後、レグニス騎兵隊は近くの草原で夜営することにした。

 焚き火を囲んで談笑する隊員たちの中で、二人の隊員が奇妙なものを発見した。


「この轍、向こうに続いてるな」


「でも、普通は荷車の轍って二本あるもんじゃないか?」


「確かにそうだ。昼間は特に何とも思わなかったが、ここまで続いているとなると気になるな。この先に何かあるのか?」


「明日、どこまで続いてるか見に行くか」


「そうだな……。丁度隊長もいないし」


 二人の隊員は声を潜めて相談し、こっそり調査に出る計画を立てていた。


 翌日、二人の隊員は轍を辿って丘を目指し、他の隊員たちは壊滅した集落の調査を続けた。


 その頃、村の一画を調べていた一人の隊員が、名称不明の黒く光沢のある破片を発見した。


「これは、陶器の破片か?……やけに重いな。


 一回、散らばった破片を集めてみるか」


 その隊員は、割れた破片を一つひとつ慎重に拾い集め、形の合うもの同士を組み合わせていった。


「全体像が掴めないな……。どれが底の破片なんだ?」


 そこへ、隣の区画を調べていた隊員がやって来た。


「それ——何してんの?」


「お、丁度良いところに来たな。破片を繋ぎ合わせるの手伝ってくれ。

 形が合えば、ぴったり繋がるから」


「はぁ……? まぁ暇だからいいけど。

 何で破片なんて集めてんの?

 ――って、重っ! 何これ……」


「分からないから、今こうやって組み立ててるんだろ?」


「いや、まぁ、そうかもしれないけど……」


 二人の隊員は地面に座り込み、鉄のように重い黒い破片を一枚ずつ繋ぎ合わせていった。


 

 一方、一筋の轍を辿って丘を越えた二人の隊員は、小川の近くに立つ一本の木のもとへ辿り着いた。


「……ここだけ芝生が焦げてるな。

 お、魚の骨、発見」


「それ、焚き火の跡じゃないか?

 ここで誰かが食事でもしたんだろう」


「あぁ、なるほど!

 ということは、この轍は人が通った跡ってことか」


「恐らく、あの村の生存者だろう。


 ……ここで轍は直角に曲がってるな」


 二人は、轍が直角に曲がり、そのまま一直線に森へ続いているのを確認した。


 木の近くを離れた二人は、再び轍を辿って進んでいく。


「足跡だ!

 二個、足跡がある!

 じゃあこれは一人の足跡か」


「二個……? ちょっと見せて。


 あー、これは違うな。足跡が二組ある。


 足の大きさからして、どちらも成人。

 歩幅もそれほど広くないから、長身ではなさそうだ。


 ――つまり、二人とも女の可能性が高い」


「え……凄っ!

 そこまで分かんの?」


「まぁ、種族が違えば男の可能性もあるけどな」


「へぇ〜……。

 でも、どうする?

 二人とも森の中に入っていったみたいだけど」


「轍を辿れるのはここまでだな。

 轍が何の轍だったのか知りたかったが、これ以上の調査は危険だ」


「――確かにそうだな。じゃあ……村へ戻るか」


「隊長には、村の生存者が森へ入った痕跡を発見したと俺から報告しておく」


「ありがとう。助かるよ」


 こうして二人の隊員は村の生存者の痕跡を発見し、その足取りを追ったものの、森へ続く軌跡を最後まで辿ることはできず、調査を断念した。


 その頃、村では引き続きレグニス騎兵隊による調査が行われていた。


 当然、その中には他の隊員たちに紛れながらも、その場からほとんど動かず、ひたすら黒い破片と睨めっこを続けている二人組もいた。


 その二人は着々と破片を組み合わせ、ついにその正体を突き止めることになる。


「これ――卵の殻じゃないか?」


「言われてみれば、確かにそうだな。


 俺はずっと高価な壺だと思ってたよ」


「……これを嵌めたら――よしっ。修復完了!」


「おぉ……黒い卵だ。

 でもこれ、どうするんだ?」


「当然持って帰るよ。

 まず卵の殻の中を土で満たして、それから卵全体を土で覆う。

 そうすれば重くはなるけど、形を崩さずに持ち帰ることができる」


「……やっぱ賢いなお前。

 よし、それでいこう」


 二人は早速卵の中へ土を詰め、さらに周囲を土で覆って補強した。


「よしっ……。これでいいだろう」


「……隊長が帰って来るまで、また暇になったな」


 二人は一仕事を終えると、その場に胡座をかいて談笑を始めた。


 二人が談笑していると、不意に森の奥から狼の遠吠えが響いた。


――アオォォォォォン……。


 静まり返った村に、その物悲しい鳴き声が長く尾を引く。


二人の隊員は顔を見合わせた。


「……アノキオンの鳴き声だな」


「あぁ……。鳴いているのは一匹だけみたいだ。

 ……恐らく、群れから追い出された個体だろう」


――アオォォォォォン……。


 再び響いた獣の遠吠えは、廃墟と化した集落の間を吹き抜け、やがて森の闇へと溶けていった。

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