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【ソラリスの星典】〜狼少女と旅をする異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第一章 守るものあれば強く、
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12/15

第12話『出立』

「さて、今日は何について調べようか」


 フルムのダンゴムシ事件が解決したところで、僕はソラリスの星典を開き、次は何を調べようかと考えていた。


 今調べたいのは、昨日フルムの身体に起こった発光現象についてだ。

 あれが【魂炎の知覚】の副産物であることは、もはや間違いないだろう。

 だが、どのような現象だったのか、一度きちんと解説を受けておきたかった。


「ソラリスターコード。儀式【魂炎の知覚】について詳しく教えて」


 僕はそう言うと、フルムを抱きかかえて木陰へ移動した。


 僕たちは木の根元に並んで腰を下ろし、木漏れ日がちょうど本を照らす位置に座り直す。

 肩を寄せ合うようにしながら、二人で星典を覗き込んだ。



 儀式【魂炎の知覚】は、体内を巡る魔力の流れを知覚する唯一の通過儀礼です。


 儀式の内容は数日間の絶食であり、自身を飢餓状態へと導くことを目的とします。


 真人系種族が飢餓状態に陥ると感覚の鋭敏化が発生し、それに伴って魔力知覚へ至ることが可能となります。


 次に、魂炎の色相と魔法適性との関連について説明します。


 帝立魔導技術研究院の魔導士面接記録によれば、儀式過程において確認された魂炎の色相は八種類存在するとされています。


 以下に、その特徴と魔法適性との関連について詳述します。


◇魂炎色の主観的外観と魔法適性との対応


[星海色]

 銀河や夜空を彷彿とさせる青紫の魂炎を呈し、第五階梯魔法への適性を持つ。

出現率はおよそ一億人に一人。


[漆冥色]

 漆黒に冥光を帯びた魂炎を呈し、第一階梯魔法への適性を持つ。

出現率はおよそ五千万人に一人。


[鏡月色]

 月光を映す鏡のような錫色の魂炎を呈し、第四階梯魔法への適性を持つ。

出現率はおよそ一千万人に一人。


[燦眩色]

 燦然と輝く黄金色の魂炎を呈し、第三階梯魔法への適性を持つ。

出現率はおよそ一千万人に一人。


[純焔色]

 純粋なる焔を宿す赤橙色の魂炎を呈し、火焔属性魔法への適性を持つ。


[流清色]

 澄み渡る清水のような淡青色の魂炎を呈し、氷結属性魔法への適性を持つ。


[揺厭色]

 揺らめく力動を具象化した透明の魂炎を呈し、千嵐属性魔法への適性を持つ。


[煤枯色]

 煤けた火山岩と褐色の大地を思わせる魂炎を呈し、礫岩属性魔法への適性を持つ。



「へぇー。魂炎にも色があって、その色によって適性のある魔法が決まるんだ。


 じゃあ、フルムちゃんの魂炎は何色だったんだろう。――水属性の魔法を使ってたから、青色かな……?」


「ンー?」


———

ヤドレセア チュオト エマルフ ロロク トーワ

(昨日 触る 火 色 何)

———


「ヤドレセア、フルム チュオト エマルフ ロロク トーワ?(昨日触った火は何色だった?)


「ンー、ロロクー ビーメ……ローエ!!」


———

ロロク ローエ

(色 黄)

———


「黄色か——黄色に近い魂炎色は『燦眩色』と『純焔色』の二つだけど、その情報だけではどちらなのか判別できないな。


 ——少なくとも、フルムちゃんは火焔属性魔法に適性があるみたいだね。

 フルムちゃん、火属性魔法で、火って出せる?」


———

エマルフ ジクマ エナラエパ ナク エマルフ

(火 魔法 出現 可能 火)

———


「フルム、エマルフ ジクマ エナラエパ ナク エマルフ?(火の魔法で、火を出せる?)」


「ジクマ フルム エス ナク!?」


———

ジクマ エス ナク

(魔法 使用 可能)

———


「うん。フルムちゃん、使っていいよ」


「ワーウ!! フルム オド ルイ ジクマ!!」


 フルムは慌てて立ち上がると、水球を出した時と同じ構えを取った。


そして独特な響きの呪文を唱え始める。


「エマルフー……エマルフー……エナラエパー!!!」


――静寂。


 辺りには彼女の声だけが虚しく響き、それすらも草原を渡る風に溶けて消えていった。


「トン エナラエパ……」


———

トン エナラエパ

(否定 出現)

———


「出なかったね——水を出した時とは違う手順が必要なのかも……。


 ——魔法を習得する正式な手順についても、調べておかないといけないね」


「ンーー」


フルムは不服そうに眉をひそめた。


 そして僕の足の上へ腰を下ろすと、本を手で押しのけ、丸太にしがみつくように僕の胸へ顔を埋めて抱きついてきた。


「あぁ、重い……ダメだ、力が入らない……ずっと何も食べてないから……。


 フルムちゃん、体温高いね……。


 やばい……眠くなってきた……」


 僕はフルムの温もりを全身に感じながら、急激な眠気に襲われた。


 そして彼女を抱きしめたまま、気絶するように眠りへと落ちた。

 


***


 

「……ここは、どこだ?」


「森の中……なのか?」


僕は森の中を彷徨っていた。


 周囲には青々と茂る草花が広がり、緑を湛えた大木が何本もそびえ立っている。


「なんで僕はこんな所にいるんだろう……


 ……何も思い出せない」


 幸い、木々の隙間から差し込む陽光が行く先を示してくれていた。


 僕は木漏れ日に導かれるまま、ふらふらとおぼつかない足取りで歩き続ける。


「——ん? 何かある……。あれは、何だ……?」


 視線の先に見えたのは、篝火のようなものだった。


真っ白な石材で造られた円形の台座。

 その中央で、灰白色に輝く炎が静かに揺らめいている。


 僕はその幻想的な光景に吸い寄せられるように、白い石畳の上を歩いていった。


「白い……炎?」


 それは、これまで見てきた赤い炎とはまるで異なる色をしていた。


それなのに揺らめき方だけは炎そのものだ。


 その奇妙な違和感が、かえって僕の興味を引いた。


「普通の炎じゃ……なさそうだな」


 僕は地面に落ちていた瑞々しい緑の葉を拾い上げ、その炎へ近づけてみた。


だが葉が燃えることはなかった。


 まるでそこに何も存在しないかのように、葉は炎をすり抜けた。


「全然熱を感じない……」

 

「これは火じゃないのか……?」


 僕は葉を落とし、今度はその灰白色の炎へ直接手を差し入れた。


その瞬間だった。


 全身が白い炎に包まれ、雷に打たれたような衝撃が身体を貫く。


「うぐっ……!!」

 

「……何かが……身体の中に……入ってくる……!!」


体内を何かが駆け巡るような奇妙な感覚。


血管の中を光が流れていくような感覚。


 やがて白い炎の輝きはさらに増し、視界を埋め尽くしていく。


 その眩しさに耐え切れなくなった瞬間、僕は目を覚ました。


 

***


 

「はぁ……はぁ……」


「なんだ……眩しい……」


 ぼやけた視界の中、日の暮れた草原で、自分の身体が白く発光しているのが見えた。


 無数の光の粒が身体の周囲を漂い、夜闇の中で幻想的に輝いている。


「ラザーフ クッビ、ケオ ヨー エラ?」


 フルムは僕の傍らに中腰で立ち、不思議そうな顔でこちらを見つめていた。


「ん……? 大丈夫だよ……」


僕は掠れた声で答えた。


 身体を包んでいた光は徐々に弱まり、舞っていた光の粒子もいつの間にか消えていった。


「これで儀式『魂炎の知覚』は……終わったと思う……


 そんなことより喉が渇いた……水……」


ここ数日の絶食で身体に力が入らない。


 僕は芝生の上を這うように進み、水筒へ手を伸ばした。


 ようやく掴んだ水筒を傾けると、中の水を一気に飲み干す。


「ふぅ……お腹空いた……」


 喉の渇きは癒えても、空腹だけはどうにもならない。


 限界が近いことを悟った僕は、袋から干し肉を二枚取り出した。


 それを一枚ずつ、味わうようにゆっくりと噛み締める。


「ラザーフ クッビ! フルム ジウ トーイ!」


「ん?……あぁ、フルムちゃんも食べる?」


 はい、あーん」


 フルムは僕の隣へちょこんと座り、差し出された干し肉を嬉しそうに頬張った。


 奥歯で噛み切りながら、満足そうに耳を揺らしている。


二枚目の干し肉を食べさせていた時だった。


 ふいに彼女は咀嚼を止め、目を見開いて、大きな耳を前後へ動かし始めた。


そして村のある方角をじっと見つめる。


「シヴォ ラエフ……」


「どうしたの……?


 フルムちゃん、そっちが気になるの?」


 僕は彼女が何に反応したのか確かめようと、丘を登って遠くを見渡した。


すると――。


 村の方角から、微かな火の光と煙が立ち昇っているのが見えた。


さらに目を凝らす。


揺れる火明かりの中に、複数の影が動いていた。


「人だ……! 人がいる……!!


 それも、何人も……!」


しかも全員、大人のように見える。


胸の奥に嫌な予感が走った。


「今すぐここを離れよう……!!」


「ラザーフ クッ――わぁ!?」


 僕はフルムの手を掴み、そのまま丘を駆け下りた。


 木の下へ戻ると、水筒を袋へしまい、それを首から提げる。


続いてフルムに靴を履かせた。


旅支度はそれで終わりだ。


あとはドラゴンの鱗を運ぶだけ。


「それじゃあ出発するよ、フルムちゃん」


「ケオ!!」


フルムは弾けるような笑顔で返事をした。


その大声が僕の鼓膜を震わせる。


 僕は右手でフルムの手を握り、左手でドラゴンの鱗を引きずりながら、小川に沿って森の中へ歩き始めた。


 二人の足取りは、村を出発した時ほど重くはない。


だが決して軽くもなかった。


 儀式【魂炎の知覚】を通じて、二人はこの旅が覚悟と知恵を試される道であることを身をもって知ったのだ。


一歩、また一歩と歩みを重ねながら――。


 二人は広大な草原を後にし、深い森の中へと姿を消していった。

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