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【ソラリスの星典】〜狼少女と旅をする異世界冒険譚〜  作者: 夕火
第一章 守るものあれば強く、
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第10話『魂炎の知覚』

 芝生に仰向けになってしばらく微睡んだ後、僕は再び魔法について考え始めた。


「肝心の魔法の覚え方が分からないからなぁ……。

 ——感覚とか言われたらどうしよう」


「ザーフラ クッビ……」


 どうやらフルムが目を覚ましたようだ。僕はすぐに本を開き、翻訳を開始した。


「フルム、グンノーム クト(フルムちゃん、おはよう)」


「ザーフラ クッビ、イリグナフ ムイ……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

兄 空腹

(ザーフラ イリグナフ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お兄ちゃん、お腹空いた……


 どうする? ご飯食べる?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

トーイ ドフ

(食べる 食糧)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「フルム、トーイ ドフ?(フルムちゃん、ご飯食べる?)


「トンド トーイ。トブ イリグナフ ムイー」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

無為 食べる 逆説 空腹

(トンド トーイ トブ イリグナフ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何も食べない……でも、お腹空いた……?

 

 フルムちゃんは、無理せずお魚を食べていいんだよ?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

グニシュプ トウディウ ナク トーイ シフ

(我慢 不要 可能 食べる 魚)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「グニシュプ トウディウ、フルム ナク トーイ シフ?(フルムちゃんは、無理せずお魚を食べていいんだよ?)


「トンー、ザーフラ クッビ イム ジウ イブト トナウ イア ルェザトゥ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

否定 兄 希望 一緒

(トン ザーフラ トナウ ルェザトゥ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「いや。お兄ちゃんと一緒がいい……かな?


 ……分かった。じゃあ、あと二日頑張ろっか」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ドンタスアダ トフレ オト・ジデ トルオフ

(理解 残余 二日 努力)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ドンタスアダ トフレ オト・ジデ トルオフ(分かった。じゃあ、あと二日頑張ろう)」


「ケオー、トルオフー」


 フルムは気だるそうに返事をすると、僕の手を甘噛みし始めた。


「フルムちゃん、それはご飯じゃないよ」


「うー」


グルルル……。


不意にお腹が鳴った。


「僕もお腹が空いてきたみたい……。


 水でも飲んで紛らわそ」


 僕は水筒を取り出し、ぬるくなった水で喉を潤して空腹を紛らわせた。


「儀式を終えるまで、することがないな……。


 一眠りしようかな……」


 そうして僕は、フルムに手を噛まれたまま芝生に寝そべり、目を閉じて川のせせらぎに耳を澄ませた。


 爽やかな風が草原を渡り、木陰の涼しさに包まれた僕たちは、いつしか眠りに落ちていった。

 


***


 

 次に目を覚ました時には、すでに陽も落ちており、周囲は夜の装いをまとっていた。


「もう夜か……。まあ、起きててもやることはないんだけど」


 草原を吹き抜ける風が木の葉を揺らし、その擦れ合う音に紛れて、隣からフルムの寝言が聞こえた。


「……ムルア……」


「……ん? あぁ、寝言か」


 彼女の寝言に驚いていると、突然フルムの身体が光り始めた。


「——わっ!? なになに!? 急にフルムちゃんの身体が光り始めた!!」


彼女の身体はただ発光するだけではなかった。


 溢れ出た水が宙へ舞い上がるかのように、極彩色の光の結晶が次々と身体から浮かび上がっていく。


「この虹色の光は何だろう――触れられ……ないのか」


 フルムの身体から溢れ出る極彩色の光は、掴もうと手を伸ばしても感触がなく、そのまま手をすり抜けた。


「――!? もしかして……これが『魂炎の知覚』!?」


 フルムの身体は黄金色に輝き、極彩色の光の粒がその周囲を漂っている。

 その様は、まるで身体が燃えているかのようだった。


「『魂炎』の“炎”要素はどこだろうって思ってたけど、確かにこれは——光っているというより燃えていると言った方が正しいな」


フルムの身体の発光は数分ほど続いた。

 僕はその間、儀式の妨げになると思い、彼女を起こそうとはしなかった。


 やがて煌々とした光が静かに収まると、フルムは何事もなかったかのように目を覚ました。


「トーワ……ルグンテ イディホ……」


「あ、フルムちゃん起きた? おはよう。よく頑張ったね、よしよし」


「ん~~!!」


 僕は彼女の頑張りを称えるように頭を優しく撫でた。

 フルムは嬉しそうに身体をくねらせた。


 僕は彼女の様子を詳しく確かめようと、星典に向かって、できるかどうかも分からない頼み事をしてみた。


「明かりが欲しいなぁ……


 ——ソラリスターコード、光源を出して」


——パァン!!!!!!!


 すると、星典は目の前の空中に出現し、両開きの状態になると、輝く魔法陣とともに眩い閃光を周囲へと放った。


「うわあっ!!」


「きゃっ!? トイラブッ!!!」


 僕たちは突然の閃光で視界を真っ白に染められ、慌てて本から目を逸らした。


 その光は、今が昼なのかと錯覚してしまうほど強烈だった。


「ソラリスターコード!! 光源を消して!!!」


 僕が慌てて指示を出すと、星典はパタンと自ら本を閉じ、そのまま重力に従って地面へ落下した。


「ふぅ……目が潰れるかと思った……わっ!」


 閃光が収まった直後、フルムが勢いよく抱きついてきた。

 フルムは怯えた子犬のようにブルブルと小刻みに震えていた。


 僕は本が光を放った理由を知っているが、フルムからすれば本が突然爆発したように見えたのかもしれない。


 僕は彼女の不安を受け止めるように、その頭を優しく撫で続けた。


「アエムサ ング タンサ ジ スフ?」


「……ごめん、何て言ってるか分からないけど、もう大丈夫だよ。

 ……フルムちゃん、干し肉食べる?」


 上目遣いで何かを問いかけてくるフルムを見て、食べ物を与えれば少しは落ち着くかもしれないと思った僕は、袋から干し肉を取り出して見せた。


「ウナ トーイ イア ナク?」


「はい、あーん……」


 僕は口を大きく開けて見せ、彼女にも同じように口を開けるよう促した。


 彼女は僕の意図を理解したのか、ぱっと目を見開いて口を大きく開けた。


——ガチンッ!!!


 僕が干し肉をそっと差し出すと、彼女は凄まじい勢いでそれを噛み千切った。


「危なかった……」


よほどお腹が空いていたのだろう。


 そう思う一方で、もし彼女が少しでも狙いを誤っていたら、噛み千切られていたのは僕の指だったかもしれない。

 僕はその無邪気さに少しばかり肝を冷やした。


「今日はもう遅いから、寝よっか」


「???」


 僕はまた閃光を放たれても困るので、本は開かなかった。


 それに今は、急を要する問題に直面しているわけでもない。


 僕は言葉が伝わらないと分かっていながら、日本語で優しく語りかけた。


「寝る前に、水を少し飲んでおこう」


 そう言って僕は水筒を取り出し、先にフルムへ飲ませた。


 フルムは困惑したように目をぱちぱちと瞬かせながら水筒に口をつけ、こきゅこきゅと喉を鳴らして少しずつ水を飲んだ。


 今朝は水を拒んでいたフルムだったが、その晩になってようやく水分を摂取した。

 そのことに、僕は内心ほっとした。


 彼女が飲み終えると、僕も同じように水筒の水を飲んだ。

 その結果、水筒は空になってしまったが、二人の心は幾分か満たされた気がした。


 僕たちは再び、なだらかに盛り上がった芝生の上に横たわり、目を閉じて朝の訪れを待った。


 そしてそのまま、いつの間にか眠りへ落ちていった。

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