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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
七話 冰→熱い炎が僕らを巡る
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79 “ただのルームメイト”

 side アストゥーロ・アジリード




「出てく」

 エルの最後の言葉だったんだ。


 俺たちの部屋はぐちゃぐちゃになり、その凄惨な状況からここであった出来事を推測することができる。


 実力はほぼ互角、というか俺もエルも本気なんて出しちゃいない。だけど俺は、限りなく本気に近い力であいつを殴ったんだ。




 すごく、イラついていたんだ。



 あいつは自分の荷物を軽くカバンに詰め、制服姿のまま部屋を飛び出した。



 俺は、投げ捨てた自分のゴミを片付けた。


「クソが」

 ゴミ箱の中に唾を吐いた。



 すると、部屋の扉が開いた。


「あれれ? 物音がしたから来てみたけど。なに、今日はひとりぼっちなのかなぁ? 最近、エルともあんまり話してないみたいだったし、これは本格的にボッチだな? なあアジリード」


「…………うるさい。だまれ」

 茶々を入れてきたのはレッフィー・ガルムナルだろう。なにかと俺を目の敵のように扱う野郎だ。


「……喧嘩か。相当だね、君がこんなに落ち込んでいるとは」


「落ち込んでなんかいねぇ」


「ほら、お前いつもより噛み付くテンポが遅いんだよ。顔面すら無愛想なカッコじゃ、誰も寄ってこないよ?」



 図星ではあった。でも仕方がねぇだろ! なんでよりによってエルが! あいつが、『魔女の力』を持ってるってんだよ!


「レッフィー殿、言い過ぎです」

 次に入ってきたのはリキッド、ダイヤルだろうか。こいつはレッフィーと同室だったか? 最近地元に用があって戻ってたって言ってたけど、帰ってきたのか。


 こいつらは、エルとなんか研究してるんだっけか。そりゃ、エルのことが心配になるに決まってるんだよな。


「邪魔だ、お前らに関係ないだろ」


「関係あるよ。だって隣で問題が起きたら、俺たちも連帯責任になるかもしれないだろ? 寮母さん怖いし、な! リキッド!」


「そうですね。我はそれ以上に、2人の関係が一刻も早く修復されることを望みます。アストゥーロ殿」


 あーくそ、ガチでクソだ。こいつらだって何も知りやしないんだよな。


 レッフィーも、リキッドも、エルも。




 3人とも知らないんだろ。こんな、クソ卑屈な俺を。


 3人とも知っているわけがない。一年前、俺の目の前で死んでいった、セキュー・マグリューネという男を。俺の、大親友を。





「で、どうして喧嘩したんだよアジリード。あの温厚なエルを怒らせるなんて、お前相当なこと言ったか?」

 あいつが怒ったんじゃないんだ。俺が怒りすぎていたんだ。



 “お前なんて、友達でもなんでもない”



 “知らないだろ? 俺がどんな人間なのか”



 “知らないだろ? 俺がどうして()()なったのかを”






 “お前は、俺のことを何もわかっちゃいない! 俺が、『魔女の力』と、『怪盗』を憎む理由を!”




「ちぇ、だんまりかよ」

 堂々巡りだ。今さっき言った言葉が、ずうっと俺の中で反芻する。



 “お前が『魔女の力』を持っている以上、俺に不利益がどおっと降りかかる。俺が、お前の個人的な争いに巻き込まれて、殺されでもしたら。お前と同じ部屋で、一緒に寝首を書かれたりでもしたらどう責任取るんだよ!”







『じゃあ俺は、ここにいない方がいいってことだよな』







 あいつの言葉が、やけに冷たかった。




 俺は、あいつとは違う。俺はセキューとは違うんだ。

 同じ髪型にして、同じ口調で、同じような笑い顔で。どれだけやっても彼には届かない。どうすれば彼になれるのかなんて、俺にはわからないのに。でも、ずっとそうやって生きてきたから。俺はこうなってしまったのだ。


 “意思を継ぐ者”。そう、彼の墓跡には刻まれている。だから、俺が彼の意思を全部継がなければならないんだ。





 エルヒスタは、どこかセキューと似ているところがあった。どこか、とかは、あんまり言葉にできない。同じ出身地であるということは関係ないと思う。でも、あの笑い顔は。


 あの日の、彼の笑顔は。俺とは違って“自然”そのものだったんだ。






「アストゥーロ」

 女性の声だった。


「寮母さん……片付けは、飯の後にします。すいません」

 彼女がきてくれたから、少しは落ち着きを取り戻せたと思う。


「アストゥーロ。エルヒスタには、1日分の外泊許可を出しました。今日は、ご飯を食べて早く寝なさい」


 そうか、あいつは。


「明日までには解決なさい。さあ、もうご飯の時間だ! リキッド! レッフィー! アストゥーロを食堂に連れてきなさい!」


 引っ張られるように2人の手。レッフィーは強引に俺を立たせた。


「はーい。ほら行くぞアジリード。メシだぞメシ。早く来ねえとお前の分も食うからな! リキッド、お前もなんか言ってやれ!」


「時間が解決することもあります。あなたたちなら、1日で解決できると思いますよ。さあ、アストゥーロ殿。一緒に行きましょう」


「わかったから手を離せ。邪魔だ」


「あーあ、せっかく親切にしてやったのに。これだからアジリードはさあ!」


    ☆



 飯を食い、汗を流して、ベッドに飛び込む。

 ギシリという音。澄み始めた空気のせいかよく聞こえたんだ。


 隣を見る。部屋を片付けてくれたのだろう。シーツも敷物もぴっちりだ。


 ふと、倒して置いた写真立てが目に入る。


「セキュー。考えれば考えるほど、俺はお前に勝てなくなるんだ。なあ、どうしたらいいんだよ! 俺は!」

 髪も立たせていない俺と、対照的にキラキラしていたセキュー。


 シャワーを流して髪の毛を落とした俺と、ここにいる俺は同じだ。

 弱くて、脆い。





 だから誓ったんだ。俺が必ずあの男を見つけて、殺すと。


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