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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
七話 冰→熱い炎が僕らを巡る
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78 魔導書と魔法書/喧嘩別れ

「えっとですね、魔女の力というのは──」


「もう少し詳しくお聞かせください。今警察機構では色々な文献を調べていますが、手掛かりになりそうなものは何もございません。何か、ご存知なら、是非!」



 今日も今日とて事情聴取。もう俺から聞けることなんてないってのに、それこそ怪盗の捜索でもしたらいいんじゃないか? 調べるだけ無駄なら、動けよ。


「こっちだって、うまく伝えられないんすよ。シェルト・マーキュリアルにでも聞けばいいと思いますよ。彼女、あの事件の当事者ですから」


 なーにが『魔女の力』だ。なーんもわからん。こっちは調べる間もなくガリュキンでドーンだ。それに、お前らのせいだぞ! 最近はユノちゃんにも会えてないし! ガリュキンから帰ってきてから、ホールズにも話せていない!



    ☆



 というわけで、ユノちゃんに会いがてら、魔女本人に聞いてみよう!



「久しぶりだなレプラコーン。どうやら酷い目にあったみたいじゃないか」


「ほんとだよ。ったく、色々ありまくりだ」


 秘密の書庫。神代とされた時代、その名を馳せた大魔女、クリサンセマム・ホールズの住処であり、ユノちゃんの隠れ家件、セタの遊び場、ドッグランもとい、セタランだ。



「おーいエルくん。今失礼なこと考えてたでしょ。シンちゃん分かっちゃうんだからね! 先生、この本いいですよね! 読みますよ!」


 俺の精神世界(マインドルーム)に住み着いてる異世界からやってきた人間、セタ・シンノスケは、ここでなら実態を持ち歩いたり……今みたいに浮いたりできるんだ。いや動き気持ち悪っ、平泳ぎ不格好すぎだろ。


「早く本題に入ろうじゃないか。ワロキアも来ずに君達だけ来て……何が聞きたくなったんだい?」


「ああ」

 ずっと疑問に思ってきたことだ。魔女の力以前の問題だった。俺には、知らないことが多過ぎる。


「ホールズ、『魔女』って、いったいなんなんだ?」


    ☆


 話すと長くなる。だから全部を聞いて、自分でその答えを出せ。


 それがホールズの提示した、情報を開示する条件だった。




 魔女の始まり。それは歴史にも記される原初の魔女、『リリィ』から始まった。彼女は魔法を一般人にもたらし、そして兵器にまで変えてしまった魔法使いだった。そんな彼女の力も、『呪い』によって縛られながらも強化されていたものだった。魔女には、ホールズの言う魔女とされる存在には、生まれながらにしてある呪いがかけられている。


 一つは寿命。リリィは30歳で老衰死したとされている。ゼルルド帝国の基礎を固め、最強の帝国として500年続くために必要だった魔法軍事力という概念を作り上げた。





「二つ目は、『魔導書を書き記さなければならない縛りを受けて生きている』ということだ。まあ、わからないだろうから説明させてもらうよ」


「魔導書……召喚獣を生み出す触媒になる『召喚魔法書』とは何か関係があるのか?」

 ホールズは首を斜めに振った。


「いやどっちだよ」


「両方さ。関係はあるけど、今から話すことには関係がない。君が聞いても理解できない。だけどまあ、今から話すことはワロキアすら理解できないだろうけどな」


「それじゃ俺もセタもわからないんじゃ……」


「話だけは聞きな。もちろん賢の杭鍵(ログ・エスト)である君もだ」




 魔導書と魔法書は100%別物だ。今の時代になり、評価がまばらになり、混在することもたまにあるが。



 魔法書。魔法書は文字通り魔法のことが書かれている本。

 そしてその本を使い、魔法の発動ができるものを召喚魔法書や魔法媒体と呼ぶ。召喚獣を生み出したあの本も魔法書に分類される。




 そして魔導書。これは魔女の力と密接に関わっている。







 魔導書は、魔女本人が執筆・編纂した叡智の結晶である。







「たとえば私の書いた『ホールズの書』。まああの上の棚にあるやつさ。ああセタ・シンノスケ。それはカバーだから読めないよ。だって、本物は私の中にあるのだから」


 ホールズはそう言って自分の腹を撫でた。


「ん? 何、その目。いや、本を産むわけでも、身籠るわけでもないさ。比喩だよ、比喩。ホールズの書は、私の命なんだ。そう簡単に読ませるわけにはいかないし、本は私自身だから、読めない」


「じゃあ『ガナムの書』ってのもあるのか?」

 ガーメスという男がいた。毒の召喚獣を操り、そしてそいつに操られ、死体すら残せずに消えていった。その惨状は凄まじく、近くの家は今も壊れており住民は仮設の住宅に住まわされている。ほんと、ごめんなさい。


「さあね。流石の私でも、魔女の名前なんてわからないよ」


 仕方ない。それは、仕方がないことだ。



 最後にホールズは話をしてくれた。『魔女の力』についてだ。

 『魔女の力』とは文字通り、その身一つで魔女と交信を取ることのできる力だ。


「じゃあユノちゃんも、魔女の力を?」


「どうしてそうなる……ワロキアが私と話ができているからか?」


 俺はうなづいた。


「違う違う、そういう意味じゃない。その身一つで、というのはね、普段のレプラコーンやあの男のように、同一の体内に二つ以上の精神が混在しているということだ。まあ君は、その精神が魔女のものを含めて、三つあるということだが」


 首をかしげた。確かホールズは、俺の中に三つの魔力があると言った。雷のように荒々しい魔力、何にも染まらない白い魔力。そして、穏やかな花の香のする、もう一つの魔力。


「なら変だな? だって俺、自分の体だけじゃセタとしか話せない。ホールズの言っていた、花の香りもわからない」


 ホールズも、俺と同じで首を傾げる。


「魔女の性格にもよるのかな? 極度の人見知りだったり、コミュニケーションを取ることが苦手な人もいる。魔女って言っても元は人と変わらない形だったんだ。私だって、君と同じくらいの歳の時には人と話すのが苦手だったさ。──どこか、自分が他人と違うということを、肌で感じたんだろうね」


「じゃあ、聞きます。ホールズ、あなたは、何歳で死んだんですか」


 少しの沈黙、だが彼女は答えた。




「28歳の時に、私は私自身の肉体の機能を停止させた。魔導書を編纂し終えた後さ、その本に自分の“考える機能”をそこに込めた。これから起こることに予測がついてしまったからな」


「予測?」


「破壊さ」


 彼女のかおは、どこか寂しげだった。


「創造の前には、必ず破壊がある。『魔女』本来が持つ力は、『魔女の力』などとは比べものにならないほどのエネルギーがあるんだ。魔女の死によって呪いは昇華される。一般人、君やマーキュリアルくんのようなただの人に取り憑き、それは離れたりしない。その力はきっと、一生その人を蝕み続ける。毒なのか、薬なのかは関係がない。レプラコーン、自分の意思でない意思が、自己決定に介在する恐怖を、君は知っているか?」


 俺はこの人に見透かされているのだろうか。


「魔女の力とは関係ないかもしれない。君とそこの異邦の男との喧嘩なんかが起こった時に、君の身体は、いったいどちらに付くのだろうか」


「そんなの、俺────なのか?」

 不安に、途端に不安になった。考えたこともなかった。だって、これは俺の身体で、俺の意思でしか動かないから。だけど、セタは魔法を使える。()()()()()()()()()。その二つを使って、だ。


「俺は、俺は!」




「そんな状況にはならないさ」

 口を挟んだ男が1人。異邦の男、セタ・シンノスケ。


「断じて、起こりませんよ。ホールズ先生」


「ほう? して、なぜだ?」


 セタは笑いながら言った。


「エルくんの身体の優先順位は、もう明確に決めている。一番はエルヒスタ、2番目が『魔女』の意識。そして最後に僕だ。これを変える気はない。僕は彼の体を借りているだけだ。そんな人の体を乗っ取るだなんて横暴は、流石に許されないだろ?」




「そうか、ならいい」

 ホールズは椅子に座っていた腰をずらした。



 そして俺は息継ぎをした。だけどまだ、セタの言葉を信じきれない。わかっているんだ。彼が嘘をつかない、誠実な人間だってことくらいは。だけど、恐怖は無くなったりしない。


「ならば帰るんだ。これ以上、話すことはない」

 ホールズは、突き返すように言った。


「ちょっと待って! まだ聞きたいことはある! 賢の杭鍵(ログ・エスト)とかいうやつだったり、えっと何だっけ? 『神の知識』だとか──」


「帰りなさい。今の君が踏み込むべき領域と、私が君に教えたいことが必ずしも一致しているとは限らない。私は辞書じゃない、私の意識がある。だから、君がより、世界を理解しようとした時に、来るといい」

 ホールズは強引に話を切った。まあ仕方ないと、俺はセタを引っ張って書庫を出る。


「それじゃあ、また!」


「また、来い。新しい知恵をつけたら、その分教えてやるさ。今度会える時はきっと、もっと話ができるさ」


 思わせぶりな彼女の目。吸い込まれそうな深淵を覗く目はまるで全てを見透かしているようで。


 扉が完全に閉じてからも、俺は少しだけ、その場から動けないでいた。



    /☆/



 ここ、チェリスカの名物といえばやはり「ハザマ焼き」である。


『ああ、あのたい焼きの無地バージョン。美味しい? 味覚や嗅覚情報は、視覚や触覚と違ってまだ精神世界(こっち)にうまく伝達できてないからさ』


「美味いよ、黒クリームが最高だね。……アストの分も買ってやったけど、好きかな、あいつ」


『そういうこと、あんまり話さないもんね。アストくんはいっつもトレーニングしてるし、最近はなんか話すことすら少なくなってるもんね』


 心は未だモヤっとしていたが、はぶりがいいだろ? 俺。あとで貸しにしてやろうと思っているけど。



「エル、お前も今帰りか?」

 少し汗ばんだアストのおかえりだ。ベッドの縁に掛けてあったタオルで汗を拭いた後、俺の持ってたハザマ焼きをくれてやる。



「なあアスト。少しいいか?」


「ん? まだ飯まで時間あるし、全然オッケーだけど」

 アストはハザマ焼きを一口食い、そして俺の方に体を向けた。


「……アストって『魔女の力』、知ってる?」


 アストの表情が変わった。少しだけ、曇った感じがした。


「ああ、あのネイトって奴が言ってた奴だろ? ……そっか、お前ら、ガリュキンに行ってたんだよな、あの時。生憎だが、俺の知ってることなんてあまりないと思うけどな」


「じゃあさ、『魔女の力』を持っている奴と、会ったことは?」


「…………あるよ」

 沈黙の後、アストは重い口を開けた。


「持ってたら、不幸になる。まあ、狙われているといえば当然だけど。でも、それ以上に、持ってる奴は不幸になる」


 アストの息さえ感じられたほどに、彼は本気だった。


 そう言われたら、彼に言いにくいじゃないか。


「何か、あったのか? ほら、シェルトとかが『魔女の力』を持っていた、とかさ。……お前と出会ってからのあいつの変わりよう、かなりデカかったもんな」


 そうじゃ、ないんだ。


「シェルトじゃ、なくてさ」

 アストが首をかしげた、が、それよりも。俺は、顔を上げた。


「俺、俺なんだよ。──俺は、魔女の力持ってる、らしいんだ」


 ドン、と小さな音であったが、それでも俺にはとても大きく聞こえた。


「どうして、言わなかった? なあ、エル」

 アストが、ベッドの縁を叩きつけたのだ。


「……知ったのは俺も最近だ。今だから言ったんだ。俺が、怪盗に狙われてるってことを、お前にも知ってほしいからだ。っていうかさ、別にお前に言う必要もないだろ? だって、お前に教えて何になるってんだよ」


「俺って、そんなに信用ないか?」

 頭をむしり、ハザマ焼きを口の中に入れたアストは、そう呟いた。


「そういうわけじゃない。言わなくても関係ないって言ってるんだ」


「関係なんて大ありだよ! だって、俺はお前の!」



「お前の、なんだよ」

 言ってしまったんだな、そう気づかなかった。


「……そうだよな。お前なんて、友達でもなんでもないもんな」

 アストは、ハザマ焼きの袋を投げ捨て、タオルも投げ捨てて、こう言った。



「ただの、ルームメイト、だもんな」

 



「……そうだな。そんなもんだよ、俺たちは」

 こいつのこと、何も知らないんだなー。


 そんな思いもあったけど、それよりも。


 無性に腹が立って、今さっきまでのモヤモヤと、イライラが全部あって。


 それで。























 長い、長い沈黙の後。息すら聞こえない静寂の後に。






 俺とアストの感情は、2人同時に爆発した。

よろしければブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。

あなたのその一タップで、私の今後の創作活動の励みになります。よろしくお願いします。

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