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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
七話 冰→熱い炎が僕らを巡る
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77 氷点下

 エルヒスタ・レプラコーンとアストゥーロ・アジリード。氷のような脆い友情は、少しの不和で瓦解した。

 頑固な2人と、それを見守ることしか出来ない友人たち。悔しさ、弱さ、脆さ。……決定的な2人の差が、街を氷に包み込む。

 全ては、あの日から始まった。


 第七話。エルヒスタとアストゥーロ、2人の世界は大きく形を変えていく。


 ────この、熱い炎のような心の名前は。

       残された者 意志を継ぐもの

         ── Chapter 7 ──




 びゅう、びゅう、風が吹く。


 強く、そして冷たく。


「弱いな、きみは」


 骸、力、その全てが。凍えそうな、この寒空に強く響いてしまう。冷たくて、痛くて、そして何より。


「何か言ったらどうだ? それとも言い返せないのか?」


 赤い目をしたその悪魔は、俺に向かってそう告げる。



 少年は、氷の塊を抱きかかえていた。

 否、それはただの氷塊ではなかった。


「セキュー! セキュー、起きろセキュー!!」


 人が中にいる。左腕をもがれ、なおも戦い続けた男の身体が。そして、目の前の男。氷でできた鬼の面を被った男は、少年にむかってこう言った。


「弱いだけのやつは、嫌いだ」

 赤い目が光った。たちまちに気温が下がっていく。息をすることでさえも辛い。息がしにくい。息ができない。


 少年は、セキューと呼ばれたその氷塊の記憶を思い出していた。


『逃げてくれ────────アスト』


 咆哮した。何かなると、そう信じて。


「うわあああああああ!!!!!」


 誰にも、もう、奪わせないために。


    ☆



「うわああああっっ!!! ……っ、夢?」


 アストゥーロ・アジリードの朝は早い。

 怠惰な生活をしているエルヒスタ・レプラコーンよりもずっと早い。

 アストが朝起きるのは大体朝の5時ごろ。最近は気温も低くなってきた。それに、朝起きた時に日が出ていない。


 十月(ルクマ)。草木も枯れ始め、空気は澄み、馬肥ゆるほどの豊穣の季節。夜は長くなり、日は短くなる。


 明らかに、疲れが溜まっていた。と、アストは考えた。クソみたいな夢を見てしまった。そう、アストは自己嫌悪する。


 まだ暗い。アストは寝相の悪いエルに毛布をかけ、外に出る。


 日が出始め、街が明るくなるまでは走り込み。日が出てきたら、剣の素振り100回、腕立て、腹筋100回。


 寮を出ても、未だにイライラが募る。ここまで不機嫌になるのは久しぶりだ。


「ああっ! クソっ!!」


 心乱れる自分にイライラする。

 “負け癖がつく”。だから夢の中でも、負けるところを見たくはない。




 日はまだ登らない。それなのにアストはもう、寮に着いてしまっていた。

「ペースが乱れてたか」


 アストは、首にかけた木剣のペンダントを撫でた。この剣を手に入れて、そして、新しいルームメイトができてからおよそ半年。

 毎日、毎日、強く、強く思う。強くならなければならない。


 あの男の喉元に剣を突きつけ、そして──




 ────喉を、搔き切るまで。


    ☆


「おい朝だろ、起きろ。起きろ、エル!」


「……ん? アストか? ふわぁああ、ねっむ」


 クソみたいな朝だ。ったく、昨日も夜まで拘束されてたのに、こんな寒かったら朝起きることすらめんどくせぇ。


「ったく、朝飯の時間過ぎるぞ。先行くからな」


『あーらら、アストくん怒っちゃったー』


 るっせえな、セタ。今日もご機嫌だな、お前は。


『そうー? そんなことないと思うけどなー』




 ガリュキンの一件から、およそ半月。俺とシェルトは未だに沢山の人から事情聴取を受けていた。ガリュキン、そしてゼルルドの警察機構。貴族の所有する親衛軍。そして俺の家であるレプラコーン家、A級貴族リュガオン家などなど。

 今日もそうだ。授業を受けた後から聴取が入っている。


 もうクソだ、クソクソだ。最近はホールズの書架にも行けてない。聞きたいことも沢山あるってのに。





 俺たちが倒れていた間に、首都ガリュキンに1人の男が現れたらしい。


 自身を「サモネ」と自称する彼は、城の前に立ちこう言った。


「我々怪盗の目的は……『魔女の力』をこの世界から消すことだ」


    ☆


「あ、おーい! シェルト! お前も今帰りか?」


 夕方、すぎて日が落ちて。俺たちの住むガリュキンにある大きな時計塔から出てきたのは、眠たげなシェルト・マーキュリアルだった。


「は? 眠くないし! そういうエルこそ何よ? ……あ、もしかして私のストーカー?」


「いや、流石にそれはない」


なんだよ、ちょっとトゲが強くないか? 俺そんなに信頼されてない? 俺はシェルト信頼してるんだけどなぁ。


「ストーカーな訳ないじゃん……俺も今帰りなの。ほら、家まで送るよ? 『魔女の力』って奴、狙われてんだろ?」


 サモネ、という怪盗がガリュキンに現れ、『魔女の力』の殲滅を唱えてからというもの、シェルトへの怪盗の執着の理由が理解できた。レンドリューという男については、個人的な関係でシェルトを追っていたのだろう。

 だがこれから怪盗は、本格的に動き出してしまう。


 それを食い止めるのも、俺の役目だとおもってててててて──


「【ダインハギル】!!!」


「おいシェルト! いきなり何でだ!」


 ジュウウウと、今まで俺のいたその場所が焦げる。

 ジリジリという小さな音は、シェルトの右人差し指からしていた。


「ふん! 何が『家まで送るよ』だ! あんたなんかに守られてたまるかっての! ふん! ふん!」


「なしてそんなにふんふん言ってんの……まあでも危ないからさ、一緒に行こう」


「じゃ、エルは荷物持って」


「はーぁ!?」


 どこからともなく現れたその荷物──初めから彼女が背負っていたものだったが──を持ち、マーキュリアル家のどでかい屋敷まで一緒に歩く。




 夜、電灯、足音。談笑は家に着くまで続いた。





 そのあとは、一人ゆっくり家に帰るのだ。


『ね、エルくん。『魔女の力』を持つ男の子が、一人で夜道を歩くのはいいのー?』


 そうだ。そこが問題なのだ。



 俺にもある『魔女の力』。ロッゾ、そしてホールズ。二人に言及されたその力。


 フェーセントの街で、デルシャは俺のことを“殺害対象”であると言っていた。


 だがしかし、もう怪盗は俺を殺すことができないのかもしれない。


 怪盗は動いている。ミゼリコルに帰郷した時点で、デルシャはもう俺に何か仕掛けようと画策していた。



 魔女の力の殲滅。



 それは魔女の力を持つものを殺すことではなく、その人間から力を奪い取ることにある。それは、怪盗の今までの動きからして、なんとなく分かる。


 だが、理由がわからない。

 たしかに『魔女の力』はなんとも希少価値が高そうな響きをしている。しかし、どうやって“奪う”のだろうか? まっこと謎だ。


 実感は湧かないが、俺の身体の中にまだあと一人居ると考えると、正直()()が悪くなる。


「怖い、な。そう考えると」


『エルくん何かあったら、僕が守るゼ☆』


「あーはいはい、そーですねー」


 だが恐怖があるのは確かだ。

 俺はこれから、自分の身を守るために、怪盗と戦うのだろうか。


「セタ。俺に何かあったら、お前はどうなるんだ?」


 多分、声が震えていた。考えたことがなかったからだ。そして、考えられるようになったのだ。


 この街に来て、たくさんの人と会って、友達になって、もう半年が過ぎようとしていた。冬用の制服を着て、もう手袋が欲しくなってしまう。そんな、ノスタルジー。


『うーん。どうだろ?』


「それは──」








『でもさ、でもねエルくん』


 セタは、静かに、ゆっくりと、そう言った。


『君に何かないように、僕は君を守るんだよ。だから、君は今を楽しむべきだ。ファンタジーというのはね、そっちからやってきて、時も場合も選んでられない。だから僕たちは、前にしか進めないんだよ。そして、エルくんはファンタジーを楽しまなければならないんだよ。僕のために、ね?』


 ああ、分かった。


「俺、前向いて歩くよ!」

 しみったれてたんだ。寒さが、俺をバカにしてたんだ。


 あー、さっむ。俺は肩を震わせて寮の扉を開けた。

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